第百五話「進行前休憩」
「さて、三人で進むか後続を待つか、あるいはここを確保しつつ上を援護するか――だがな」
ベルナールは横穴の奥を覗く。開口での攻防をあきらめたのか、魔物の姿は見えない。
「私の部下もやって来ますから、援護は不要でしょう。ここを確保しつつ後続を待ちましょう」
「ああんっ、最初の分岐路まで進みましょう! 早く店を正常に戻したいのよ!」
ベルナールが複数の選択を提示し、アンディックが一つに絞り込み、セシリアがひっくり返す。そしてブラッドリーが更に混ぜっ返すのが、昔からのこのパーティーの儀式だった。
ここから結論をどう出すのかが面白いのだが、そんな楽しみをお邪魔虫が台無しにする。
「やあやあ、さすが勇者パーティーですね!」
エルワンがロッティを伴い降下して来る。動きがこれほど早いのは、作戦が順調に進み張り切っているからだ。
「こんな前線に来たら危ないぞ」
「常に勇者パーティーを最前線で助けるのが私の仕事ですから!」
そして助けられるのもまた、エルワンの仕事である。今も昔と同じにするつもりらしい。
「ところで、総指揮官殿はどんな命令を下すんだ?」
「うーん、行くも成功、引くも成果ですかねえ? 正直、上手くいくイメージしか湧きませんよ」
「なんともいいかげんな責任者ですねえ。どちらも正解なのでしょうが、どちらを選ぶかが問題です」
久しぶりに三人そろったので、アンディックも軽口ぎみである。ベルナールはどうしてもゴーストの繰り出す、次の一手が引っ掛かっていた。
「エルワン! 命令しなさい。早く終わらせろって!」
「いやーっ、出来れば若手にも、この興奮を味合せたいですね。ちょっと待ちましょうか……」
エルワンが作成した作戦計画書は基本、下層への進行を下敷きにしていた。つまり集団で退路を確保しつつ、強力な先鋒が道を切り開く、といった内容だ。
「まあ、しょうがないわね……。今日中に終わらせれば同じことだしね」
「エルワン、ちょっと相談があるんだが……」
ベルナールはこの余裕な空気に、自分も少し乗っても良いかと思った。
「何ですか? あらたまって」
「セシールたちをダンジョンまで呼びたいんだが」
「うーん、警戒線にさほどの圧力はないでしょうが、あの弟子たちもですか?」
「ああ、俺も今のパーティーのメンバーと戦いたいのさ。経験にもなる」
「なるほど、さすがに引退組とずっと一緒じゃ可哀相ですかね」
ベルナールとて引退組なので、その辺は余計であるが、街の将来を考えているエルワンの考えにも合致する。
「セシールに次を託す時期が来たのかしらねえ――。ちよっと寂しいけどね」
セシリアの言葉もまた複雑であった。この戦いカギはセシールなのだと考えている。
「私が呼んで来ます」
「頼むよ」
気を利かせたロッティが空に飛び上がった。
◆
街を守る警戒線。セシールは探査を全力で駆使する。一時押し寄せていた小物の群は、今は静かになっていた。
進軍する冒険者たちの目的地は開口部だ。どうしても小物程度は包囲をすり抜けてしまう。
「ちょっと強いのがやって来るぞ!」
前方警戒に行っていた即席のパーティーが戻って来る。本職が酒場のマスター、エルネストがリーダーを務めていた。
「C級のアラクネーが一匹に、同じくオーガのC級が二だ。大丈夫かな?」
「はい、行けます。アレット、ロシェル。いつもと同じにやるわよ」
「はい」
「はい~」
三人共に剣を抜いて準備する。森の見通しは悪いので、弓使いが二人のパーティーは分が悪かった。全員が剣技で戦っていた。
「行くわよっ!」
セシールを先頭に三人は森の中を駆け抜ける。
「いたわっ!」
一体突出してきたオーガが棍棒を振り上げ、飛び掛かったセシールは攻撃の剣を合せる。
すかさずアレットがすれ違いざまに胴、ロシェルが足を切り裂く。セシールはもう一段飛び、頭部に剣を突き刺した。
「左のオーガをやるわよ!」
そのまま飛行し森の木々を縫う。
そのオーガは地上を疾走して接近する、アレットとロシェルに気をとられていた。そのスキを見逃さず、セシールはオーガの首を一瞬で飛ばす。
残るはアラクネーが一体だ。
「近接で弓の攻撃!」
ロシェルはすかさず剣を収めて木の陰に隠れる。背中から弓と矢を取り出した。
アレットも手近な木に隠れて援護の体勢をとる。セシールもまた弓矢を取り出して地上に降り立つ。
巨大な黒い蜘蛛が現われ、続いて人間の半身も姿を現す。頭部から蜘蛛の糸を吐き出し、三人は身を隠した。
「いけっ!」
ロシェルとセシールの放った矢が、アラクネーの胴に次々に突き刺さる。
アレットは木々に身を隠しながら迂回して背後に接近、そのまま切りつけた。一旦離れてから側面に回って下半身に深々と剣を突き刺す。
セシールとロシェルも剣の攻撃に切り替えて止めを刺した。
「二人共、よくやったわ」
三人の連携は完璧だと、セシールは息を付いた。
仕事を終わらせ、三人は警戒線に戻る。
「御苦労さん。たいしたものだよ」
「上手く倒せました」
エルネストのねぎらいにセシールは笑顔で応える。
「お嬢ちゃんたちもどんどん強くなるなあ。早く稼いで俺の店に通って欲しいよ」
「うふふ、お酒のお店はまだちょっと早いですかね?」
褒められたアレットとロシェルは、恥ずかしげにはにかむ。
「おーっ、戦いが始まったようなんで、加勢が必用かと思って来たがもう終わったのか?」
食肉業者のレイラスが様子を見にやって来た。持場も平穏なのだろう。
「こっちには強力な現役パーティーがいるんだ。加勢なんて不要だぞ!」
「そうだったな。こっちはずっと暇なんだ。魔物たちは引き始めているなあ。作戦は上手くいっているようだが……」
「ああ、あいつら開口にいる連中の背後を脅かすつもりだ」
「大丈夫かな?」
「勇者パーティーに王宮騎士団だぜ? 魔物に同情するよ」
「違いねえ」
レイラスとエルネストはそんな話をしながら笑い合う。警戒線への脅威は去り、戦いの舞台は開口周辺とその中に移ったようだ。
「ん?」
気配を感じてセシールは空を見上げた。ロッティが降下して来る。




