第百四話「開口部攻略戦」
「ちょっと早かったかな……」
開口一番乗りはベルナールであった。上空に留まり周囲を見回す。
B級のステュムパリデスが数羽接近して来るが、剣を構えただけで発射された魔撃がそれらを簡単に打ち落とした。
この程度の相手は魔力を極小まで絞る。ベルナールの仕事は戦いよりも制御であった。
「ふむ……」
蠢く群を上空から見下ろせば、開口の底にAAA級のドラゴンが三匹。どれもS級手前の強敵である。これが当面の障害だ。
周囲の地上には、A級のミノタウロスやジャバウォックが十匹ほどで、その他は無数。
とりあえず外の脅威を排除しようと、ベルナールは魔撃を発射するが、ミノタウロスは障壁を張って防ぐ。
「ふん、降りてこいってことか。生意気な魔物め」
ベルナールは何事もないように、魔物が密集する場所にストンと降り立つ。
「さて……」
突然隣り合い、背後をとられた魔物が一斉に襲い掛かるが、その動きはスローモーションに見えた。聖剣の力で、動体視力もまた常人を越えているのだ。
ベルナールが特に急ぐでもなく大きく剣を振ると、周囲十数メートルに渡って魔物たちが切り裂かれた。
胴を足を、体を切り裂かれた魔物はA級の体躯を宿主として集合する。ゴーストの因子を埋め込まれ合体の能力を得ていた。
「厄介な奴らめ……」
その異形に突然矢が突き刺さる。
「来たかっ!」
ベルナールを襲う魔力爆発の余波を、かざした聖剣ディアロンドが吸収する。魔力の攻撃に対して防御しつつ、己の力と出来る聖剣の力だった。
「ベルっ!」
上空にセシリアが現われ、次の弓をセットする。
「遅いぞ」
「地上を掃討して。中央が一番早く来るわっ!」
「分かった!」
ジェリック、デフロット、バスティ。この戦いに一番因縁がある者たちがやって来るのだ。ベルナールは彼らが来るであろう場所の魔獣を切りまくった。
セシリアは開口の底に、次々と矢を打ち込んでいる。
上位種を優先しつつA級の処分が終わった頃、森の中から冒険者たちの気配が急速に接近する。
「よっしゃあ、一番乗りだぜ!」
デフロットが飛びだし、そのままB級の魔物に突っかかった。
「くっそー、二番だっ!」
続いてバスティが飛び出し、すかさず戦いに参加した。続いてそれぞれのパーティーも荒野に現われる。本隊も近い。
「お前たちはこの場を死守しろ! 後続の入るスペースを作るんだ」
「任せて下さい」
バスティがリーダーらしく叫んだ。全員で森を背にして魔物を押し出す。そしてジェリックも部下を引き連れて現われ、他の冒険者たちも続々と森から飛び出した。
「ここは任せて下さい。もう大丈夫ですよ」
「頼んだぞ……」
ジェリックに促され急先鋒のベルナールは跳び上がった。
東から土煙を上げ騎馬隊が接近する。ブランシャール卿が率いる騎馬隊には、アンディックが連れてきた騎馬も合流していた。
ベルナールは安堵しつつ、開口の底へと落ちて行く。
セシールの攻撃に耐えきった三匹のドラゴンは無傷であった。さすがと言うべきであろう。下層へ通じる横穴からは、更に続々と魔物が湧き出る。
一匹のドラゴンが大きく口を開けると、口から超高温の息吹が吐き出された。
セシリアは一旦攻撃を中止し障壁を張る。ベルナールは、息吹を空に向かって弾きつつ、そのまま開口の底に着地した。
もう一匹のドラゴンがしつこく息吹を吐き出す。
「仲間も巻き込むのか。そんな攻撃は通じん……」
新たに溢れつつある他の魔獣と共に、開口の底は業火に包まれる。
ベルナールは聖剣を両手で持ち水平に構えて突き出し、障壁で体を包み込みむ。剣が白熱の輝きを帯び始めた。ドラゴンが発した魔力を障壁越しに、聖剣が吸収しているのだ。
息吹が通じないと悟ったドラゴンはベルナールに襲い掛かった。
「いくぞっ!」
肉弾戦など御免とばかりに力を溜めた聖剣を振ると、ドラゴンたちは水平に切り裂かれた。しかしこの三匹もまたゴーストの因子を埋め込まれているのか、傷口から気味悪い触手が湧き出る。
「ちっ!」
上空にアンディックが現われた。そして魔力の剣を作り出し、三匹のドラゴンの頭部に突き刺す。そのまま底に降下した。
「あれは何だ?」
「内部から散発的に魔力攻撃する魔法技です。再生と合体の力を行使すれば、あの剣が自動攻撃します」
「便利なモンだな」
「ゴースト対策で作ったのですよ。魔核を破壊するまで攻撃を続けます」
ドラゴンの触手は千切れ、割られた胴体は崩れ落ちる。小規模な破裂を繰り返しながら遺骸は縮小していく。
「底はもう制圧完了! 早いものね」
遠距離攻撃担当のセシリアも底に降り立ち、すぐに弓を引き絞る。
「早く先に進みましょうよ!」
そう言って横穴に矢を叩き込んだ。溢れ始めた魔物が消滅する。
「さっさと終わらせれば、お店にお客さんが戻るのよ」
そのまま下への入り口に向かってどんどん進む。やれやれと、ベルナールとアンディックは顔を見合わせて肩をすくめた。




