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第百三話「最後の部隊」

 いよいよ作戦開始の朝となった。


 中央ギルドの屋上に元勇者三名と、プラス二名が立つ。ベルナールたちは三種の神器(じんぎ)を装備し、エルワンは森の先、レ・ミュローの方角を睨む。ロッティはギルドマスターの補佐として付き従う予定であった。


「あっ、上がりました! ブランシャール卿の合図ですね」


 東側に赤い光球が上がった。


 続いて手前側に上がる緑の光球はジェリックたち、デフロット、バスティたちが先鋒を務める部隊である。最後に北側のホーリーナイツ(神聖なる騎士団)が黄色の信号球を上げた。


「作戦開始です!」


 エルワンの合図でセシリアが青い光を蒼穹の大空に向かって放った。


「行ってくるぞ」

「御武運を!」

「任せておけ!」


 ベルナールに続いてセシリア、アンディックが空に舞い上がる。それぞれが三方向へ向け滑空する。


 眼下で戦うのは、この街始まって以来の集団。冒険者たち、騎士団、近衛兵すらも巻き込んだ、おそらくは最初で最後の大部隊であった。


「まるで自分が強くなったようだな……」


 聖剣ディアロンドから流れ入る魔力を感じながら呟く。ベルナールは、これは錯覚だと自分に言い聞かせた。慢心は微妙な制御を狂わす。


 下では既に戦いが始まっていた。デフロットとバスティのパーティーが先鋒を競い合っているはずだ。


「あいつが貴族とはな……」


 バスティは良いやつだ。そんな貴族がいるこの国も悪くないとベルナールは思った。そしてA級を発見する。


「仕事の時間だ」


 抜きざまに剣が光り、超速の光弾が魔物を吹き飛ばす。これが聖剣ディアロンドの力だ。


   ◆


 セシールが飛ぶ森にはブランシャール卿の手勢と、街の冒険者たちが展開している。まずは久しぶりに使う聖弓の機嫌を試そうと思った。


「さーて、応えてくれるかな?」


 引き絞った弓から放たれた矢が新開口に向かって飛ぶ。遙か先で魔力の大爆発が起こった。誘導も威力も昔と変わらずセシールは満足した。ディアメネシスも自身の力も健在だと。


 次々現われるA級の上物をピンポイントで狙撃していく。


 冒険者たちの露払いが、三方に分かれた元勇者パーティーに課せられた最初の任務だ。


   ◆


 しばし部下たちの戦いを眺めながらアンディックは飛ぶ。先陣で切り込むのは二枚看板のダレンスとレディスだ。二人は強敵を狙いながら、後続の部下たちに獲物を残す。この二人に任せておけば安心だ。


「私の仕事が来たようですね」


 前方に地上を暗くするほどの、空飛ぶ魔物の群が迫る。地上と空の二面に敵を抱えるなど厄介な話だ。しかし相手はこちらの力を見誤っている。


 アンディックは聖剣ディアアークスを抜いた。前方にかざすと魔力が渦を巻く。


 みるみる拡大し、魔力の刃舞う巨大竜巻に成長したそれは、蛇行しながら群に向かう。巻き込まれた魔物はボロ布のように千切れ飛び、更に無数の魔物が引き込まれいった。


 高度な複合魔法技を、いとも簡単に作り出すのがこの聖剣の力だ。



 元勇者たちは三者三様の戦いで開口を目指す。


   ◆


「ハデにやってるなあ……」


 その戦いを遠目で見ながらエルワンは感心した。自分の立案通りに、これだけの人数が戦うなど感無量でもある。


「私たちはどのように動きましょうか?」


「うん、まず中央の軍勢が予定通りに押し出せるかを見よう。次は開口でベルさんたちが、どれだけ戦力を削げるかを確認する。行こうか」

「はい」


 二人は高空まで浮かび上がり戦場を俯瞰した。開口では黒い何か(・・)らが蠢いている。やはり数が多い。


   ◆


「さあ、来い来い、来やがれっ!」


 デフロットは木々の間を縫いながらジグザクに森を走る。誘われるように周囲から魔物が集まって来て、それを後方の仲間たちが弓と魔撃で討ち取っていく。


「こいつは俺が頂く」


 更に速度を上げて前方のB級下位、サイプロクスを切り裂いた。まるで無限のように周囲は魔物の気配に溢れている。


 デフロットのパーティーは中央を進む本隊の遊軍として、魔物たちを攪乱していた。


「ペース配分に気を付けて!」

「分かってるよ」


 追いついたステイニーの助言を素直に肯定した。デフロットとてこの戦いを理解している。


「こいつは数が多すぎだぜ……。本ちゃんの戦いはずっと先だな」

「そうよ、一番の見せ場で魔力切れなんて本当に御免よ!」

「ああ、もちろんだ」


   ◆


「凄いな」

「ええ」


 これが指揮官なのだとバスティとアレクは感心した。


「左翼の敵が厚いな。一部を向かわせるぞ」


 ここの一群を率いるジェリックは、部下の名を叫び指示を出す。高い探査能力を駆使して魔物を早期に発見し、つねに先手を打つ戦いは無駄がない。


「前方にB級上位が二に下位が五体だ。誰か志願するか?」


 付き従うパーティーのリーダーが何人か声を上げる。


「俺たちも行きます!」


 バスティも負けじと続くが、しまったと思いアレクの顔を見ると笑っていた。リーダーを差し置いてまたしても出過ぎてしまったのだ。


「よーし、丁度よい戦力だな。後続はそのまま直進、開口に向かって進め。今、勇者ベルナールが到達した。我々が援軍一番乗りを目指すぞ。付いてこい!」


 元ではない、勇者ベルナールと聞いてバスティは身震いした。さっさとB級を片付けて我こそが一番乗りをと奮い立つ。


 優秀な指揮官は部下を乗せるのが上手いのだ。


「行ってこい!」


 ジェリックの叫びを受け、バスティたちは獲物に向かって飛びだした。

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