(8)頭痛の種
コンラートは会議室に集まった者たちを見回しながら、重々しく告げた。
「皆、揃っているな。それでは、例の件を報告してくれ」
それに応じてダレンが書類を手に立ち上がり、緊張の面持ちで語り始める。
「それではご報告します。ローランド村の件ですが、調査の結果、やはりジャストは隣国と通じておりました。タイミング良くというかなんというか、調査中にグラウルからの使者と密会しており、その場で両名の身柄を拘束し、詳細を自白させております。加えてこれまでに受け取った金品や交わした書簡、その他の資料などを押収し、先にこちらに運ばせました。両名と関係者は、現在この城に向けて護送中です」
ダレンの報告を聞いたコンラートは、真剣な面持ちのまま尋ねた。
「それでは現在、ローランド村の管理はどうなっている?」
「キャナル殿に出向いてもらい、事態の収拾をお願いしております。現状では、大きな混乱は生じていないとのことです」
「分かった。引き続き問題があれば、すぐに知らせてくれ」
「了解しました」
コンラートが頷くと、ダレンは深く頭を下げた。そこで僅かに緊張が解れた面々は、口々に意見を述べ始める。
「とりあえず、大事になる前に対処できて何よりでした」
「本当にそうですね。それにしても、ご領主様の慧眼には感服いたしました」
「同感です。まさかジャストが裏切っていたとは。あれだけ先代の辺境伯様に目をかけていただいたのに。恩知らずにもほどがある」
「コンラート様に代替わりしたとき、図に乗っていたのを窘めましたが、それを逆恨みして、テーラン側に寝返ったのでしょうか?」
「どのような理由であっても、褒められたことではないな」
「ところで、どうしてコンラート様は、奴の企みに気づかれたのですか?」
一人がそんなことを口にすると、その場にいた全員の視線がコンラートに集まった。
「それは、私も気になっておりました。これまで誰も、奴を疑ったり調べたりしていませんでしたのに」
「まさか、また勘などと言われるつもりではないでしょうな?」
マグヌスから、その場にいる全員を代表するように怪訝な表情で問われたコンラートは、少しだけ躊躇してから口を開いた。
「確かに、こうなっては勘などとは言えんな。実は、披露宴のときにセーラが言ったことが発端なのだ」
それを聞いた他の者たちは、さらに困惑を深めながら問い返した。
「はい?」
「奥様が、ですか?」
「セラフィーナ様は、こちらには来たばかりですよ?」
「当然、ジャストとも初対面のはず。それなのに、どうして奴の企みを暴けるのですか?」
「皆の言う通りだ。普通だったらありえない。ありえないのだが……」
そこでコンラートは、セーラが語った内容をありのまま伝えた。
「そういうわけで、念のため調べさせてみたら、この通りだ。この前の騒ぎのことも含めて、彼女が密かに密偵などをこの城に引き入れているのかとも思ったのだが、そのような気配は見られない。それで今回は、彼女に関しても相談しようと思っていた」
大真面目に主君が語った内容を聞いた家臣たちは、本気で反応に困った。
「申し訳ありません。予想外すぎるお話で、なんと言えばいいのやら……」
「とにかく、きちんと奥様に、詳細について尋ねる必要があるでしょう」
「現時点ではこちらに不利益はないようですが、今後、どのような事態に転ぶのか分かりません」
家臣たちの意見を聞いたコンラートは、深く頷いて同意した。
「その通りだと思う。きちんと詳細を確認するが、その時にはお前たちにも話を聞いてもらいたいのだ」
「私たちもですか?」
「下手をすると、ここの治政と軍事にも関係してくるかもしれん。その方が面倒が少ないと思うからな」
「そうですね。奥様がどのように反応するか分かりませんが」
そんなふうに話がまとまりかけたとき、会議室のドアが控えめにノックされた。
「会議中、失礼いたします。奥様付きの侍女が来ているのですが」
「通せ」
「分かりました」
警備担当の兵士と入れ違いに、ヘレナがドアから現れると、コンラートは若干うんざりしたような表情で彼女に尋ねた。
「今日はどうした。まさかまた、彼女が行方不明になったのか?」
「いいえ、いつも通り鍛錬場におられます」
「それなら、何も問題あるまい」
「いや、辺境伯夫人が鍛錬場に入り浸っているのは、色々な意味で問題があるかと思いますが」
二人の淡々としたやり取りに、マグヌスが思わず突っ込みを入れた。するとヘレナが、予想外のことを言い出す。
「本日セーラ様は、全身に甲冑をお召しの上で、両手で鞭を振っておいでです。いかがいたしましょうか?」
「…………」
ヘレナが無表情で報告した途端、会議室内に沈黙が漂った。しかし、コンラートがなんとか気を取り直して問い返す。
「……おい。今、なんと言った?」
「ですから、奥様が鍛錬場で、全身に甲冑を身に着けて、両手に鞭を持って振っておられますと申し上げました」
再度ヘレナが告げた瞬間、マグヌスが苛立たしげに彼女を怒鳴りつけた。
「貴様は、何を馬鹿なことをほざいてるんだ!」
「それなら自分の目でご覧ください! なんですか、あの変な奥様! もう本当に、訳が分かりません!」
ヘレナも怒りの形相で怒鳴り返したが、コンラートはいつもの表情で淡々と問いを発した。
「それで?」
「え?」
「報告はそれだけか? 特に何かを壊したり、周囲の者に危害を及ぼしたりはしていないのだろう?」
「はあ……。まだ鞭の扱いに慣れておられないので、自分の手足や顔を叩いてしまうこともあり、『アニーが甲冑を用意してくれて助かったわ。これはサイズがぴったりで軽くて動きやすいし、本当に優れものね』と笑顔で仰っていましたが。周囲に怪我人は発生しておりません」
それを聞いたコンラートは、色々と諦めたように手を振ってヘレナに出ていくように促した。
「分かった。もういい。また何かあったら報告しろ」
「畏まりました」
おとなしくヘレナが出て行くのを見送ってから、家臣たちは何とも言えない顔をコンラートに向けた。
「ご領主様……」
がっくりと肩を落としたコンラートは、微妙な顔つきの家臣たちに、懇願口調で告げた。
「疲れたので、話の続きは明日で良いか? 明日は彼女も同席させて、詳しい話を聞くことにする」
「分かりました」
「それでは失礼します」
そこで会議は終了となり、参加者は三々五々散っていった。




