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政略結婚の駒になったので、後妻業と継母業、ついでに内偵も頑張ります  作者: 篠原皐月


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(7)晴れない疑念

「二人とも遅かったですね。ですが、今夜は少し支度が遅れているそうです」

 食堂に入って顔を見るなり、笑顔でそんなことを言われてしまったコンラートは、何とか怒りを押さえ込みながら尋ねた。


「お前はどうして夕食の支度が遅れたのか、知っているのか?」

 その詰問調の台詞にも、セーラはのんびりと言葉を返した。


「さぁ? 先ほどの給仕の者は、何も言っておりませんでしたので。どなたか急なお客様でもいらして、晩餐の準備に手間取っているからですか? それにしては、そのお客様がお見えになっていませんので、よく分かりませんが」

「違う! お前が行く先も告げずに、姿をくらましたからだ!」

 その非難めいた叫びに、セーラは目を丸くして問い返した。


「え? 私、夕刻まで散策をすると、書き置きを残しておいたのですが。もしかして風でテーブルの下にでも落ちて、ヘレナに見つけてもらえなかったのでしょうか?」

「それはきちんと私のもとに届いた。だが、城内をいくら探しても、お前の姿が見当たらなかったのだが?」

「それはそうですわ。お仕事の邪魔をするわけにはいきませんので、こっそり皆様の仕事ぶりを見学させていただきました」

「そんなわけがあるか!」

 思わずコンラートは声を荒らげたが、ここでレオナルドが困ったように取りなしてきた。


「父上、とりあえず椅子に座りましょう。給仕ができなくて、皆が困っています」

「……分かった」

 憤慨しながらも、背後に控えている使用人たちを思い出したコンラートは、自分の席に移動して腰を下ろした。とりあえず父親を宥めるのに成功したレオナルドは、これ以上コンラートを怒らせないよう、自分からセーラに尋ねてみる。


「あの、セーラ様? 今日は夕方まで、本当に城内のあちこちを見て回っていたのですか?」

「ええ。まずは城内の様子をくまなく見学してから、城下町の散策に出かけようかと思っておりましたから」

「そうですか。でもその時は、きちんと護衛を同行させてくださいね? もちろん、事前に予定を知らせてください。そうしないと、周りの者たちが対応に困りますから」

「レオの言う通りですね。もちろんそうします」

「分かっていただいて、よかったです」

「…………」

 二人が和やかに言葉を交わしているのを眺めながら、コンラートはどうにも釈然としない思いを抱いていた。


(あの秘密通路に思い至ってから、その通路を使用した場合、絶対に通るはずの何箇所かに兵を立たせて警戒させていたが、彼らからの報告は全くなかった。それから判断すると、そこを使って戻ったとは考えにくいし、城内をうろついていたと判断するしかないのだが。どうにもすっきりしないな……)

 コンラートが無言で考えを巡らせていると、レオナルドが話を続けた。


「ところでセーラ様は、今日一日城内を見て回って、どんなことを思われましたか?」

「そうですね。働いている皆さんが、すごく真面目に楽しそうにお仕事をしていたのが印象的でした」

「そうですか? 人が真面目に働くのは、当然だと思いますが」

 怪訝な顔になったレオナルドを見て、セーラは苦笑しながら説明を付け加えた。


「確かにそうですね。少し言い方を変えましょう。この城の皆さんは、大きな不満や不安を抱えることなく、仕事に取り組めているということです。それはひとえに、コンラート様の治政が良いからだと思います」

「どういうことですか?」

 不思議そうに再度尋ねてきたレオナルドに、セーラは真顔で語りかけた。


「こちらに来る前に、王妃様から言われました。『その土地の領主の人柄を判断したければ、下で働く者たちの表情と働きぶりを見れば良い。不安や不満を抱えていたり、仕事が疎かだったりするような領民しかいない土地であれば、そこの領主は人格が劣り、能力が欠けているだろう。だから辺境伯領に出向いたら、まずは下々の働きぶりを見てみろ』と。それを聞いたとき、その通りだろうと心から納得いたしました」

「そんなことがあったのですね」

「ええ。それで、今日一日皆様の働きぶりを見て、コンラート様が本当に優秀な領主で、領民の皆様に心から慕われているのだろうなと思いました」

 ここでセーラは、コンラートに視線を向けながら、穏やかな笑みを浮かべた。それを目の当たりにしたコンラートは、内心の動揺を押し隠しながら、横柄に言い返す。


「……世辞を言っても何も出ないぞ」

「あら。お世辞など、口にしたつもりではないのですが。本当のことを言っただけですので」

 困ったように小首を傾げたセーラと、無表情になったコンラートを見て、レオナルドが慌てて口を挟んできた。


「ありがとうございます、セーラ様。父上に代わって御礼申し上げます」

「レオがお礼を言わなくてもいいのですよ?」

 そこでセーラはおかしそうに笑い、それから二人は他愛のない会話を楽しみながら食べ進めた。


(本心から褒めてくれたようだし、治政を認めてもらって悪い気はしないのだが……。どうにも、この女に誤魔化されたような気がして仕方がない。それにしても、こっそり観察したとか言っているが、いくらなんでも城の者たちが気づくと思うのだが。一体、どういうことだろうか)

 モヤモヤした気持ちを抱えたまま、コンラートはその日も、楽しげに話すセーラとレオナルドを眺めながら夕食を食べ終えた。


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