(9)追究
「失礼します」
会議室のドアが兵士によって開けられ、セーラとアニーが現れた。
「来たか。二人とも座ってくれ」
「奥様、どうぞこちらの椅子に。侍女殿はそちらの椅子に座ってください」
「分かりました」
「ありがとうございます」
ドアの一番近くに座っていた者が立ち上がり、セーラには長机の手前に設置された椅子を、アニーにはドア近くの壁際の椅子を勧める。二人はそれに素直に頷き、静かに腰を下ろした。
広い会議室に置かれた長机の一番奥にはコンラートだけが座り、家臣たちはその左右に並んでいた。必然的にセーラは、コンラートと向かい合う位置に一人で座ることになる。そして、正面のセーラを凝視しながら、コンラートが話を切り出した。
「さて、まずは報告をしようか。お前は城に来た直後、『ダーウィンが臨時に帳簿を精査されると困る、というような顔をしている』とか言っていたな?」
それを聞いたセーラは、怪訝な顔で応じる。
「どなたのことですか?」
「『後列にいる緑色の上着の方』と言った者だ」
「ああ、あの時の方ですね。その方がどうかしましたか?」
「奴が、横領をしていたことが発覚した」
「まあ、本当ですか? 不心得者がいたものですわね」
本気で驚いているようにしか見えないセーラの様子に、コンラートは舌打ちを堪えながら話を続けた。
「それから、披露宴の時。『ジャストがグラウル云々と言っていた』とか言っていただろう?」
その問いかけに、セーラは素直に頷いてみせた。
「はい。もちろん覚えております。それがどうかしましたか?」
「調べてみた結果、ジャストが隣国と通じているのが判明した。グラウルというのは、ここと国境を接しているテーラン側の領主の名前だ」
「そうだったのですか? 驚きました。国境沿いの地域を任されながら、とんでもないことですね」
しみじみとした口調でセーラが感想を述べると、コンラートは皮肉げに笑いながら告げた。
「驚いた、か……。やはり、グラウルという名前は、誰の名前か知らなかったと主張するわけだな?」
「ええ。まったく存じませんでしたわ」
「それならどうしてお前は、あの場で聞いたことがない名前を口にできたんだ?」
「なんとなく、そんなことをジャストという方が考えたように思ったものですから」
そこでとうとうコンラートは、苛立った口調で詰問した。
「いい加減、正直に話したらどうだ? 表情を読んだとかそういうことではなくて、王家の内偵組織がこの地に潜り込んでいるのではないか? それで、その侍女が、その組織の先遣要員なのではないか?」
それにセーラが反応する前に、壁際に座ったままアニーが片手を挙げながら申し出た。
「すみません。発言してもよろしいでしょうか?」
「なんだ?」
コンラートから眼光鋭く睨みつけられたアニーだったが、まったく恐れ入ることなく堂々と言い返した。
「そんなことを本気で信じておられるのなら、あなたたちの目は節穴ですね。行動を監視されているのはとっくに察していましたが、この間、私が城外と連絡など取っていないのは、あなた方が一番よく知っているのではありませんか?」
「…………」
事実を口にされたことで、コンラート以下、セーラとアニーの監視に関わっていた者たちは、ぐうの音も出ずに口を閉ざした。そこでアニーが、さらに容赦のない言葉を浴びせる。
「その上で、私が内偵組織の一味だと主張するのなら、自分たちの無能さをさらけ出しているようなものです。自分でも信じていないことを口にするのは、止めておいたほうがいいと思いますが」
「なんだと!」
「貴様、無礼だぞ!」
「黙れ。癪に障るが、その女の言う通りだ」
たちまち何人かが憤怒の形相で声を荒らげたが、そんな彼らをコンラートが鋭く制止した。そして真剣な面持ちでセーラに告げる。
「そういうわけなので、ぜひともお前の口から、真相を聞かせてもらいたいのだが。政略結婚とはいえ、一応夫婦だからな」
半ば強制的な彼の台詞に、セーラは少しだけ困ったような顔で応じた。
「お話しするのは構いませんが、私の話を皆様が信じてくださるでしょうか?」
「そんなに荒唐無稽な話だと言うのか?」
「王妃様から『正直に話すと頭がおかしい奴と思われかねないから、私が指示した人間だけにしておけ』と言われまして、これまでに片手で数えるほどの人間にしか話しておりません。こちらに嫁ぐ前に、王妃様は『辺境伯が聞きたいと言ったら、一応夫婦だし話してやってもよかろう』と仰いましたが」
そこでコンラートは、苦笑しながらセーラを促した。
「面白い。それでは聞かせてもらおうか。ここにいる者たちは、皆、私の腹心の部下たちだ。私が指示しない限り、一切口外しない。一緒に聞かせてもらうぞ」
「コンラート様がそう仰るなら、私は構いません」
「お前たち、分かったな?」
「はあ、それは構いませんが……」
「話を聞かないと、なんとも言えませんし」
即座にセーラが了承し、居並ぶ部下たちも困惑しながら頷く。
「……聞かないほうが良かったとか、思いそうですけどね」
その時、アニーが壁際でひっそりと呟いたが、それを耳にした者は皆無だった。




