(10)状況説明
「単刀直入に言うと、私は他人の表情から考えていることを推察するのではなく、他人の心の中を読めるというか、他人の考えが聞こえるのです」
「…………」
セーラが最初に語った内容を聞いた男たちは、揃って押し黙った。その反応に、セーラが困ったように告げる。
「この時点で信じていただけないのなら、これ以上、話をしても無駄だと思うのですが……」
そこで、なんとか気を取り直したコンラートは、渋面になりながら問いを発した。
「とりあえず、続きを聞かせてもらおうか。その前に、一つ確認させてもらいたいが、今も私たちの考えていることが分かるのか?」
「いいえ。以前は違いましたが、今では完璧にこの能力を制御できますから。自分の意思で能力を解放しない限りは、他人の考えを把握できません」
「それを信じるしかないな」
溜め息交じりにコンラートが告げると、セーラは考えを巡らせながら語り始めた。
「どこから説明しましょうか……。生まれた直後はそのような認識はなく、違和感を漠然と感じ始めたのは物心がついた頃です。周りの会話に耳を傾けて言葉を覚え始めたのですが、騒々しすぎたのです」
「『騒々しすぎた』とは、どういう意味だ?」
「使用人たちが黙って私の世話をしていても、途切れることなく考えていることが伝わってきましたので」
「……なるほど。そういうことか」
状況を想像したコンラートは、納得して頷いた。
「段々口にする語彙が増えてくると、訳が分からないまま周囲の人間が言っていることを真似して喋っていましたので、徐々に気味悪がられるようになりました」
「そうだろうな。口にしていないのに考えていることを喋られたら、薄気味悪くもなるだろう」
「次第に、屋敷の侍女たちは私の世話を最低限しかしなくなり、用事が済めばすぐに離れるような感じで、半ば放置状態になりました」
そこまで聞いたコンラートは、その顔に非難の色を浮かべながら尋ねた。
「その状況を、お前の家族は放置していたのか?」
「当時、一番私を疎んでいたのが両親でしたから。『変なことを口にする気味が悪い娘』とか、『せっかく器量よしに生まれたのに、愛想がなくて困る』とか言われていました」
「なんだ、それは……」
コンラートは、ここでセーラの両親に対する嫌悪感を露わにした。しかし、当のセーラは、まったく気にしていない様子で話を続ける。
「成長するに従い、他の人が口を開けている時と閉じている時で、実際に喋っているのと喋らずに考えているという違いが、なんとなく理解できるようになったので、それからは慎重に聞き分けて過ごしていました。ただ、その分、余計に無口になってしまいましたが」
「それでは、少しは状況が改善したのか?」
「改善したといえば、したのではないでしょうか。両親からすると、単に社交性がなくて可愛げがない、見た目だけがいい娘、程度の認識になりましたから」
「あまり良くなったとも思えないのだがな……」
段々セーラに対して同情してきたコンラートだったが、次の彼女の台詞で気を引き締めた。
「それで私が五歳の時、いきなりお城の集まりに連れて行かれたのです。それが第一王子の六歳の生誕記念パーティーでした」
「一応確認させてもらうが、それが噂に聞く、第一王子と側室追放事件のきっかけだな?」
コンラートが真剣な面持ちで問いを発し、居並ぶ家臣たちも緊張した様子で二人の様子を窺う。対するセーラは、変わらず淡々と応じた。
「はい。当時、第一王子の派閥に属していた父は、私を第一王子の婚約者に据えて、自身の権力拡大を目論んでいました。それで当日、詳細を何も知らされないまま、朝から大勢の侍女に囲まれて支度をさせられ、馬車に乗せられて両親と共に城の中庭に出向いたのです。そこで開催されていたガーデンパーティーに、第一王子派の貴族たちが王子と同年代の息子や娘を連れて参加していました。両親は上機嫌でしたが、私はこれまで接したこともない大勢の人間の声と思考が一気に流れ込んできて、どうしていいのか分からずパニック状態に陥っていました」
「状況が容易に想像できるな……。それでどうなった?」
この時点で嫌な予感しか覚えなかったコンラートだったが、一応尋ねてみた。するとセーラの話は、予想以上にろくでもなかった。
「辛うじて、人目があるところで騒ぐのはまずいという判断はできましたので、ひたすら口を噤んでいました。ですが、両親が側室と第一王子のところへ私を連れて行き、挨拶をしろと言ったのです。私はどうしたらいいか分からず、黙ったまま狼狽えてしまいました。その時、目の前のお二人の考えが、私の頭の中に流れ込んできたのです」
「話の流れからすると、あまり友好的ではなさそうだな」
そこでコンラートは、思わず口を挟んだ。それを受けて、セーラが苦笑いしながら話を続ける。
「ええ。私に対する否定的というか、けなす言葉の羅列でした。そこで私が一向に言葉を発しないのに焦った両親が、『なんでもいいからお話ししろ』と急かしてきたのです。それで反射的に、側室が『こんな無愛想な子の相手をするなんて』『王妃の勢力を削いで、この子を立太子させるまでの辛抱よ』『あんな貧相な王の子どもより、あの人が父親のこの子が王になったほうがはるかにマシよね』などと考えていた内容を、そのまま口に出してしまいました」
「……それはとんでもない騒ぎになっただろうな」
その時の情景を頭の中で思い浮かべてみたコンラートは、心底うんざりしながら感想を述べた。




