(11)転機
「その後も『どうしてこの子が、彼のことを知ってるの!?』『伯爵が私を脅迫する材料を探っていたわけ!?』『昔からの関係を知っている者は、お父様が口封じしたはずなのに!』『交わした手紙も、寝室のクローゼットの隠し戸棚にきちんと保管してあるのに!』とか、立て続けに口にしてしまいました」
ここでコンラートは、セーラに尋ねずにはいられなかった。
「その場に居合わせた周囲の者たち。特にお前の両親は、お前の発言を止めなかったのか?」
「あまりの予想外の展開に、狼狽しきっていたようです。だいたい先ほど口にした内容を語り終えたところで、強制的に口を塞がれました」
それを聞いた彼は、呆れ果てながら言葉を継いだ。
「危機管理がなっていないな。そして、その愛人は、側室と結婚前から関係があった男なのだな?」
「そのようですね。しかも、後で明らかになったのですが、密かに後宮にも出入りしていたそうです」
「そこまでは噂になっていなかったが、それは大問題だな」
これまで耳にしていなかった新事実に、コンラートは唖然とした顔つきになった。セーラもどこか疲労感を漂わせながら話を続けた。
「さすがに体面が悪すぎて、王家としても隠蔽を図ったのでしょう。実はそのパーティーに王妃様の配下が紛れ込んでいて、その方が私の話を耳にした途端、王妃様へ注進に走りました。それで王妃様は、女性騎士を大勢引き連れて側室の部屋に踏み込み、側室の侍女を全員拘束。そして彼女たちを尋問して側室の不義密通を自白させるとともに、力尽くで家具を破壊して証拠の品々を押さえたのです。その結果、側室とその実家が裁きにかけられました」
「それが真相か……。噂では、伯爵が握っていた秘密を盗み聞きしたお前が、公の場でそれを口にして騒ぎになったと伝わっていたのだが……」
「その騒動の結果、第一王子と側室は城から追放され、第一王子派の貴族たちは、私の家を含めて没落の憂き目を見ました。それで両親は、私と縁を切って修道院に入れたのです」
コンラートは事ここに至って、心からセーラに同情しながら声をかけた。
「それは……。不可抗力だったとはいえ、不運だったな」
しかしセーラは、実に晴れやかな笑顔で言葉を返してくる。
「いいえ、コンラート様。私にとっては願ってもない幸運でした」
「どうしてそんなことを言う?」
「修道院で暮らすようになってからは、それまでとは圧倒的に人が少なく、余計な声がほとんど聞こえず、誰かの考えが流れ込んできたとしても煩わしい思いをすることがなくなり、心穏やかに過ごせるようになりました。本当に、楽園とはこういうところなのだろうと、心から神に感謝の祈りを捧げました」
「…………」
両手を組み、中空を見上げながら目を輝かせているセーラを見て、コンラートは思わず無言になった。そして、ここまで二人のやり取りに耳を傾けていた家臣たちが、セーラに深く同情しながら囁き合う。
「お気の毒に……」
「奥様にしてみれば、事故のようなものではないか」
「そもそも両親が娘の様子を観察して、異常を察して対処するべきだったのでは?」
「まったくです。伯爵夫妻は自業自得ですね」
「そもそも一番悪いのは、不義の子を産んだ側室ではないか」
そのまま祈りの言葉を唱え始めかねない様子のセーラに、コンラートは穏やかな口調で尋ねた。
「それ以降は、そのまま修道院で静かに暮らしていたのか?」
コンラートの問いかけで我に返ったように視線を戻したセーラは、軽く首を振って答えた。
「いいえ。それがそうでもありませんの。修道院に入ってから、ひと月ほどが経過した頃でしょうか。王妃様が、私の様子を見にいらしたのです」
「どうして王妃がお前のところに?」
「側室の不義密通を暴いて、自分の息子の対抗馬を排除できたのですから、王妃様にしてみれば、私は功労者という位置づけだったのですね。それで私がその後、親から絶縁されて修道院に押し込められたと風の噂に聞いて、不憫に思って様子を見に来たと仰っていました」
「なるほど。それで王妃の後見を得たわけだな?」
コンラートは納得して頷いたが、そこでなぜかセーラが困惑気味に話を続ける。
「そうなのですが、その時に予想だにしない事態になりました。これから話すことは、今まで以上に皆さんに信じていただけるかどうか分からないのですが……」
そのためらい気味の台詞を聞いたコンラートは、今さら何を言っているのかと半ば呆れながら、話の先を促した。
「あのな、これまでも到底信じがたい話を聞かされたのだ。多少のことでは驚かないから、いいから好きなだけ言ってみろ」
「分かりました。それでは当時のことを、順序立ててお話ししますね」
そこでこれまで以上に真剣な面持ちになったセーラは、当時の状況を語り始めた。




