(12)衝撃の出会い
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修道院での生活にも慣れた頃。セーラは院長から説明を受け、自室から面会室へ移動した。そのままおとなしく簡素な木製の椅子に座って待っていると、しばらくして院長が戻り、ドアを開けた。
「セーラ。王妃様がいらっしゃいました。あなたと二人で話がしたいそうですから、くれぐれも失礼のないように。何かあったら、私に知らせなさい」
「はい、院長様」
セーラが頷いたのを見た院長は、背後にいた女性に道を譲り、セーラと同じ木製の椅子を勧めた。
「王妃様。どうぞ、そちらにお座りください」
「ありがとう」
豪奢な衣装に身を包んだ女性は、粗末な椅子を見ても何も言わず、短く礼を述べて椅子へと歩み寄った。そして、院長が「失礼します」と告げながら立ち去るのを確認してから、目の前のセーラに向き直って話しかけた。
「セラフィーナ。私が王妃のオリヴィエ・レン・アルムスだ。今日はお前と少し話がしたくてやってきた」
「王妃様、はじめまして」
セーラが軽く頭を下げて挨拶すると、オリヴィエの考えが頭の中に流れ込んでくる。
『ほう? 確かに目鼻立ちが整っている美少女だな。あの腹黒伯爵が、この娘をあの偽物王子と縁付かせようと企んだのは納得できる。それにしても、こんな子どもに重要な秘密を聞かせてしまうとは、ずいぶんと迂闊なものだ。しかし、あの男も馬鹿なことをしたものだな。これだけ可愛らしいのなら、これからもいろいろ利用できただろうに』
普段、他の人からはあまり伝わってこない内容に、セーラは反射的に尋ね返した。
「私、可愛らしくて、利用できるのですか?」
「……いきなり何を言い出す」
『とりあえず見た目が良いから、政略結婚の駒としては充分使えるはずなのだが。あの伯爵は、娘にそういう話をしていなかったのか?』
オリヴィエからすれば、セーラの発言は唐突すぎて困惑した。セーラは彼女の考えを読み取りながら、正直に答える。
「見た目が良いから殿下と縁続きになるのに使えると言われていましたが、この前からは役立たずとか恩知らずとしか言われていません」
「それはそうだろうな……」
微妙に会話がずれているような違和感を覚えながら、オリヴィエは周囲を見回し、考えを巡らせた。
『それにしても、ずいぶんと寂れた修道院だ。もっと大規模で人が大勢いる修道院に移したほうが良いのではないだろうか。それくらいの後見をしてやってもよかろう。何せ、目障りな連中を追い出すきっかけになったのだからな』
オリヴィエがそこまで考えたところで、セーラが焦ったように声を上げた。
「嫌です!」
「え?」
「ここより大きくて人が大勢いるところなんて嫌です! ここがいいです!」
ここでオリヴィエは、はっきりと異常を感じた。
『なんだこの娘……。まるで、私の考えを読んでいるようなことを言っているが……』
「だって聞こえます!」
真剣な面持ちで訴える少女を見て呆気に取られたオリヴィエは、驚きよりも好奇心が勝り、口を開かずに頭の中でセーラに向かって語りかけてみた。
『ほう? それは興味深いな。それではこれから、私が考えていることを読み取ってみろ。分かったら「はい」と言え』
「はい」
自分の推測が当たったことで気を良くしたオリヴィエは、楽しげに脳内での会話を続けた。
『良い返事だ。では、一つずつ尋ねるぞ? お前は、普通に話している人の声は聞こえるな?』
「聞こえます」
『それに加えて、他の人間が考えている内容も聞こえるのだな?』
「はい、そうです」
『それを知っている者はいるか?』
「誰も知りません」
『親は? あの腹黒伯爵夫妻も知らないのか?』
「最初の頃、他の人が考えていることを無意識に話していたら、気味悪がられたので。知られないようにしていました」
『なるほど。確かに、あの伯爵たちが知っていたら、あんな場に娘を着飾らせて連れてくるわけがないな。愉快すぎるぞ。滑稽極まりないな』
そこでオリヴィエは、我慢できずにクスクスと笑い出した。その反応に、セーラが戸惑ったように尋ねる。
「面白いのですか? 気味が悪くありませんか?」
『小娘に心を読まれた程度で、うろたえてどうする。私を見くびるな』
「すみません」
『いやはや、本当にお前は利用価値のある娘だな。こうなったら私が後見して、もっと利用価値があるようにしてやろう』
「本当ですか?」
『ああ。お前のような子どもに嘘は言わん。必ずお前をこの外に出して、何不自由なく生活が送れるようにしてやるからな。安心しろ』
オリヴィエが本気でそう思っているのを理解したセーラは、控えめに懇願した。
「あの……。私はここが好きです。静かでとっても落ち着きます。外に出たくないです……」
それを聞いたオリヴィエは、あっさりと頷いてみせる。
『そうか。それならお前の嫌がることをする気はないから、気が済むまでここにいさせてやるぞ』
「ありがとうございます。王妃様みたいな人は初めてです」
『初めてとは、どういう意味だ?』
「私を気味悪がったりしないで、可愛いとか利用できるとか言ってくれました」
それを聞いたオリヴィエは、少しだけ寂しげに微笑んだ。
『そうか……。お前の親たちは、そんなことは言っていなかったか。まあ、あいつらは馬鹿でろくでなしだからな。これからは私が、あいつらの分までお前のことを褒めてやるぞ』
「ありがとうございます」
(王妃様って、本当にいい人。すごく嬉しい)
安心感を与えてくれた院長とはまた違う形で、オリヴィエが自分を本当に心配してくれる人だと認識できたセーラは、心が温かくなるのを感じた。しかし、いきなり背後から声をかけられたことで、激しく動揺する。
「よう、セラフィーナ! 久しぶりだな! 元気にしてたか? アレスだ。俺のことは覚えているだろう?」
「え!?」
「……っ! 貴様、何者だ!?」
壁を背に座っていたセーラは、誰もいないはずなのに声がしたことで慌てて、椅子から降りて振り返った。それとほぼ同時に、椅子を背後に倒しながらオリヴィエが立ち上がり、セーラを引き寄せて背後に庇う。そのオリヴィエからは、隠しようもない警戒心が滲み出ていた。




