(13)衝撃の事実
険しい表情で立ちはだかったオリヴィエに、十歳前後の少年のように見えるアレスと名乗った者は、訝しげな視線を向けた。
「何だ、お前は? セラフィーナの世話役か? だが、部屋が随分みすぼらしいのはどうしてだ? 裕福な家に、恵まれた容姿で生まれ変わらせてやったのに、着ている服も貧相じゃないか」
どう見ても不審人物の発した台詞に、オリヴィエは呆れながら言い返した。
「いきなり現れて、何を言うかと思えば……。お前はセーラの家が没落して、その原因がセーラの言動にあったため、親から絶縁されて修道院に入れられたのを知らないのか?」
『仮にも修道院なのだから、それなりに出入りは厳しいはず。私に同行してきた護衛も、怪しい者は通さないはずだ。それなのに、この小僧はどうやってここまで入ってきた? まさか、護衛が全員やられたわけではあるまいな?』
「王妃様……」
オリヴィエが警戒を解かないまま考えを巡らせていると、セーラは彼女のスカートを握りしめ、涙目で彼女を見上げた。
(王妃様の考えていることは分かるのに、あのアレスっていう人の考えていることは分からない。どうして?)
予想外の事態に、セーラの不安は増大していた。しかし、彼女の不安を察したように、オリヴィエが優しく言い聞かせる。
「セーラ。大丈夫だから、そのまま私の後ろにいろ」
「はい」
オリヴィエの言葉でいくらか落ち着いたセーラが頷いたところで、アレスが狼狽した声を上げた。
「ちょっと待て! 没落だと!? それに親から絶縁とは、どういうことだ! せっかく俺が、セラフィーナに加護を授けてやったのに!」
「は? 加護とは一体何のことだ?」
「人の考えていることが分かる能力だ!」
「え?」
アレスの語った内容に、セーラは驚きのあまり目を丸くし、その場に立ち尽くした。しかし、オリヴィエは、獰猛な獣のような笑みを浮かべながら、一歩前に出る。
「……ほぉう? それではセラフィーナのこの境遇は、全て貴様のせいなのだな?」
「どうしてそうなる!?」
「セラフィーナは、幼い頃から実際に人が喋っている内容と、人が考えている内容が混在して聞こえていて、大変な苦労をしてきたのだ。その挙げ句に人目がある場所で、読み取った他人の秘密を暴露してしまい、家は没落。親からその責任を問われて絶縁され、修道院での清貧暮らしだ。どうだ、理解できたか? そもそも本人が望んでもいない能力を勝手に押しつけるなど、迷惑極まりないな」
オリヴィエから冷え切った眼差しを向けられたアレスは、彼女を見上げながら憤然として言い返した。
「何だと!? 馬鹿を言うな! 俺は、ちゃんとセラフィーナの望み通りにしてやったんだぞ!?」
そこでオリヴィエの後ろから身を乗り出したセーラが、恐る恐る申し出る。
「あの……。私、そんなお願いをしていません」
「したんだよ! 生まれ変わる前に! 俺のこともすっかり忘れているようだし、思い出させてやる!」
完全に腹を立てたアレスは腕を大きく振りかぶり、セーラに向かって何かを投げつける動作をした。その途端、セーラの全身がまばゆい光に包まれる。
「きゃあぁっ!」
「貴様、何をする! セラフィーナ、大丈夫か!?」
オリヴィエは慌てて片膝をつき、セーラの顔を覗き込んだ。そして悲鳴を上げたセーラに向かって、アレスが得意満面の笑顔で尋ねた。
「どうだ! 思い出しただろう?」
「……はい」
「おい、どういうことだ? 分かるように説明しろ」
アレスの問いかけにセーラは短く答えたが、オリヴィエは険しい表情のまま振り返って詰問した。それにアレスが、誇らしげに告げる。
「人は死ぬと、生きている間の善悪の度合いによって、その魂の扱いが変わるんだ。セラフィーナは前世では病弱で、子どもの頃に亡くなったのでな。元々、穏やかな気性だったこともあり、皆に愛されて、非難されることなど一つもなかった。そのため、恵まれた環境と容姿で転生させる時、彼女の望みを一つ叶えてやるように、俺が請け負ったわけだ」
「なるほど。それでお前が、彼女の願いを叶えたと主張するのだな?」
「さっきからお前とか言うな! 俺は神だぞ? アレス様と言え!」
そこでセーラが、申し訳なさそうに会話に割って入った。
「……あの、アレス様。私、思い出しましたが、やっぱり言っていません」
「何だと!? だってお前、確かに『皆の考えていることが分かるようになりたい』と言ったよな!?」
「私、お花を育てていたんです」
「え?」
「でも、上手く育たなくて。病気になったり、土が乾いて枯れたりして、綺麗に咲かせられなくて」
「……おい、ちょっと待て」
「セラフィーナ?」
唐突にセーラが話し始めた内容を聞いた二人は、揃って顔を強張らせた。
「それで、お花さんたちの考えていることが分かれば、綺麗に咲かせてあげることができたのにと思って。綺麗に咲かせてあげられなかったのが、すごく悲しかったので」
ここで、半ば狼狽した様子でアレスが問いただした。
「まさか、お前が『皆』と言ったのは、人じゃなくて花のことなのか!?」
「はい」
「…………」
セーラがこくりと頷くと、アレスは絶句して固まった。
「無能」
そう呟いたオリヴィエは、まったくためらわずに行動に移った。
「何だと!? 貴様、無礼にもほどがぁ、うあぁっ!?」
「王妃様!? アレス様!?」
そして、セーラの目の前で、とんでもない修羅場が展開された。




