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政略結婚の駒になったので、後妻業と継母業、ついでに内偵も頑張ります  作者: 篠原皐月


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(30)レオナルドの懸念

 セーラが夕食の時間に食堂へ向かうと、そこではレオナルドだけが席に着いていた。


「セーラ様。父上は、まだ城下から戻っていません。事前に、夕食は二人で済ませるように言われました」

「そうでしたか。お忙しいのですね」

(忙しくなったのは、セーラ様が持ち帰った情報のせいだと思うけど)

 事情を聞いたセーラは、微笑みながら自分の席に腰を下ろした。そんな彼女を見ながらレオナルドは曖昧に笑い返したが、目の前に並べられた料理を食べ始めると、慎重に話を切り出した。


「その……セーラ様は、今日一日城下に出ておられたと聞きました」

「ええ。コンラート様から頼まれたことがありましたので」

「アニーだけを連れて行ったと聞きました。大丈夫でしたか?」

「はい、この通り問題ありません。それに、私の能力については、アニーから説明を受けているはずですので、心配しなくても大丈夫ですよ?」

「……はい、そのようですね」

 自分の能力について、不特定多数の人間に知らせないつもりのセーラは、余計なことは口にせず笑顔で返した。それにレオナルドも、微妙な顔つきで頷いてみせる。


(セーラ様に続いて城に戻ってきた人たちの顔色が、揃いも揃って良くなかったものな。大丈夫かな? 自信喪失していないかな?)

 ここでレオナルドはセーラの身の安全よりも、彼女の尾行と護衛を命じられた面々の精神状態を案じた。しかし、すぐに気を取り直し、次の質問を口にした。


「そういえば、セーラ様を最近鍛錬場で見かけないと言われたのですが。鞭の稽古はやめたのですか?」

「今日は一日、外に出ていたので稽古ができなかったのですが、最近は鍛錬場ではなく廊下や室内で行っていますから」

 それを聞いて、レオナルドの顔がはっきりと強張った。


「……どうしてそんな狭いところで稽古しているのですか?」

「賊がいつも広い場所で襲撃してくるとは限りませんから。限られた空間の中で自在に操れるようになってこそ一人前だと、アニーから説明を受けました」

「そうですか……」

(聞くんじゃなかった……。というか、これは後でアニーに一言言っておかないと駄目だ!)

 あっさりと返された言葉に、レオナルドは本気で頭を抱えたくなった。ここでセーラが、しみじみとした口調で言い出した。


「それにしても、あっさり片付いてよかったです。来週は、皆さんをお招きしてのレオの生誕を祝う茶会ですもの。城内がバタバタしていたら、落ち着いてお迎えできませんから」

「そうでしたね。当事者なのに、すっかり忘れていました」

「まあ、そうだったの?」

 そこで二人が顔を見合わせて苦笑したことで、その場の空気が一気に和んだ。


「披露宴でご挨拶した方がほとんどですけど、あの時はゆっくり話す時間はなかったですし、レイチェル様はお子様がお生まれになった直後で参加されませんでしたから。今回、お子様連れで来ていただけるので、楽しみです」

「そうですね。レイチェル叔母様も、セーラ様と会うのを楽しみにしていると、手紙に書いておられました」

「それなら嬉しいわ」

 コンラートの妹であるレイチェルと、茶会で初めて顔を合わせることになったセーラは、その日を心待ちにしていた。彼女の表情を見ただけでそれを察したレオナルドも、なんとなく嬉しくなりながら食べ進めた。

 そのまま少し世間話をしながら食べていたが、セーラが急に手の動きを止め、予想外のことを口にした。


「実は今日、帰りが少し遅くなったのは、寄り道をしてきたからなの」

「どちらに寄ってきたのですか?」

「アニーに事前に知らせてもらって、ミリーナ様の墓前にお花を供えてきました」

「……え?」

 それを聞いたレオナルドは、思わず手を止めてセーラの顔をまじまじと見やった。その視線を受け止めつつ、セーラがどこか申し訳なさそうに話を続ける。


「本当は、もっと早く伺いたかったのですが、今でもミリーナ様を大切に想われているコンラート様に、後妻である私が『墓参をしたい』と申し出たら、不愉快に思われるかもしれないと考えて、なかなか言い出せなくて」

 そこでレオナルドは、力いっぱい断言した。


「そんな遠慮は無用です! セーラ様がそう頼まれたのなら、父上は嫌な顔をしたりしませんから!」

「でも、困ったお顔をされたりしないかしら?」

「それは、困るというか、確かに微妙な顔はするかもしれませんが……」

 そこでセーラは沈鬱な表情を一変させ、明るい笑顔で報告した。


「そこで、城外に出るついでに、思い切ってご挨拶してきました。いろいろお話ししてきましたから。レオがとても凛々しくて聡明で思いやり深くて将来が楽しみな貴公子で、そんな子が私の義理の息子だなんて、恐れ多いくらいです、と。そんな感じで、小一時間ほどじっくり語ってまいりました」

「ありがとうございます……」

(その付近に、誰か人がいなかっただろうな? セーラ様のことだから、手加減なしに際限なく褒めまくって、誰かに聞かれていたら恥ずかしいんだけど)

 目の前で小一時間語られたら、恥ずかしくてどうにかなりそうだと、レオナルドは遠い目をしながら思った。するとセーラは、やる気に満ちた顔で宣言する。


「そんなレオの継母として臨む初めての行事ですもの! 来週の茶会は、無事に取り仕切ってみせますわ! 見ていてください、ミリーナ様!」

 それが一番言いたかったのかと理解したレオナルドは、なんとか気力を振り絞ってセーラに懇願した。


「あの、本当にそんなに必死にならなくても大丈夫です。僕が保証しますから、必要以上に気負わず落ち着いて臨みましょう」

(何だろう……なんだか始まる前から、嫌な予感がする。茶会にはレイチェル叔母様だけではなくて、マイラ伯母様も来ることになっているから、それだけでも心配なんだけど……)

 茶会には、辺境伯家の親戚筋や、代々仕えてきた家臣たちの夫人や子息が集まることになっており、その中には亡き生母の姉である、レオナルドにとっては母方の伯母も含まれていた。

 当然と言えば当然のことながら、母方の親族はコンラートの再婚に冷ややかな視線を送っており、レオナルドとしてはその伯母は不安要素でしかなかった。そのため、いざとなれば自分がどうにかするしかないだろうと、悲壮な覚悟を固めていた。



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