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政略結婚の駒になったので、後妻業と継母業、ついでに内偵も頑張ります  作者: 篠原皐月


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(29)結果報告

 夕刻になって、セーラとアニーが唐突に街路に姿を現した直後から、二人の行動はマグヌスの部下たちに把握されていた。しかし、二人の警護と尾行を命じられた者たちの心労は、計り知れないものとなっていた。


「ただいま戻りました」

 出発時と同様、執務室に帰還の挨拶に訪れたセーラたちの動向は、少し前から逐一報告されていた。コンラートは部下たちの心情を思いやり、一言小言を言うべきかどうか迷ったが、全面的に任せると言った手前、それを口にはできなかった。


「……ああ。ずいぶんと遅かったな」

「はい。何か所か回っていたものですから。おかげで、いろいろと集めることができました」

 にこやかに返答したセーラは、大きく膨らんだ布袋から中身を取り出しながら報告を始める。


「最初はギルバン様の店舗の隠し戸棚や自宅の机の引き出しだけを確認しようと考えていたのですが、ギルバン様の愛人のお宅も訪ねてみました」

 開口一番の台詞に、コンラートは思わず突っ込みを入れてしまった。


「愛人の意味が分かっているのか?」

「奥様の他に、親しくしておられる女性のことですよね? 王様に、王妃様の他に側室の方がおられるように」

「そうだな……」

 平然と返されてしまったコンラートは、余計なことは言わないでおこうと口を閉ざした。


「それでお宅を訪ねて、アニーに愛人の方と話をしてもらったのです。すると、その女性はアニーも自分と同じくギルバン様の愛人だと誤解したらしく、玄関先で激しい言い争いになりました。そのとき、相手の考えを探ってみたところ、その方がテーラン側の方とも親しく付き合っているのが分かりました。……ええと、ああいうことは、なんと言うのだったかしら? あの時に教えてもらったのだけど」

「セーラ様。俗に、二股と申します」

「ああ、そうだったわ。二股をかけていたのね。今日は新しい言葉も覚えられて、とても有意義な一日でした」

 すかさず解説を加えたアニーに微笑んでから、セーラはいかにも満足そうに感想を述べた。それを見たコンラートは、微妙に顔を引きつらせながら言葉を返した。


「……そうか。それは予想外の収穫だったな」

「はい。それで、愛人の方の家に隠してあったものをお借りした後、その足でテーランから来ている方のお宅にもお邪魔しましたの。アニーは鞭の腕前だけではなく、鍵を開けるのも上手ですし、聞き出したいことを巧みに引き出す話術も持ち合わせているのです。私だけでは、あそこまで上手くできませんでした。本当に助かりました」

「恐れ入ります。誘導尋問に関しては、王妃様の足元にも及びませんが」

 しみじみと言葉を交わす彼女たちを、コンラートたちは何とも言えない表情で眺める。その間にも、二人の布袋から回収した物が次々と取り出され、コンラートの執務机に並べられていった。それを一つずつ指差しながら、セーラが解説した。


「それで、これが仕入れ先の商品と数量の記録、こちらが取引を持ちかけてきた方のお名前と本当の身元の証拠、これが裏取引のやりとりを記した帳簿、こちらがテーラン側に渡すはずだった情報、それから今後の活動計画の一覧などです。他にも必要と思われるものを、いろいろとお借りしてきました。とりあえず、これくらいでよろしいでしょうか?」

 説明を終えたセーラは、真顔でコンラートに尋ねた。それに彼は、少しばかり皮肉っぽく問い返す。


「十分だな。ところで、借りたと言ったが、まさか馬鹿正直に借用書など置いてこなかっただろうな?」

「まさか。王妃様と同様に、コンラート様があの方たちに相応しいものをお返ししてくださるのでしょう? ですから借用書を出すのであればコンラート様ですから、私ごときが出しゃばった真似はいたしません」

 真顔でセーラが口にした内容を聞いて、コンラートを筆頭に、この場に居合わせた者は全員、(話の論点が違う)と思ったが、誰も口にはしなかった。


「そうだな。それではご苦労だった。もう休んでくれて構わないぞ」

「それでは失礼します」

 むしろ疲れたのはこちらのほうだがな。そう思いながら、コンラートは彼女たちに声をかけた。すると二人は一礼して、執務室を出て行く。


「アニー、今日は楽しかったわ。また何かあったらよろしくね?」

「はい、お任せください」

 セーラが満足そうに、アニーが苦笑気味に、それぞれ言葉を交わしながらドアの向こうに消えると、コンラートは机に両肘をついて頭を抱えた。


「…………」

「あの……。コンラート様?」

 そのまま無言で項垂れている主君に、ダレンが控えめに声をかけると、コンラートは懇願口調で応じる。


「とりあえず、お前たちで大まかなところを確認してくれ。少しばかり疲れた」

「畏まりました」

 コンラートに指示された部下たちは早速机の前に集まり、セーラたちが持ち帰った物を確認し始めた。そして、一通り検分が終わると、真剣な面持ちで意見を述べた。


「これだけあれば十分ですね」

「これらがなくなっているのが分かったら、連中は異常を察知して、すぐに逃亡を図るかもしれません」

「まだ日暮れ前ですから、すぐに人員を動員して一網打尽にしましょう」

「そうだな」

 そう言われたコンラートは、瞬時に気持ちを切り替えて立ち上がった。それと同時に、先ほどから控えていたマグヌスに確認を入れる。


「マグヌス。必要な人員はすぐに動かせるだろうな?」

「お任せください。場所を特定できましたので、すぐに人員の配置を決めます」

「よし、十五分後に城を出るぞ。各所に伝令を出せ」

「了解しました」

「ダレン、後は頼む」

「行ってらっしゃいませ」

 そうして事態は動き出し、コンラートの宣言通り、その日のうちに城下の関係各所に騎士たちが踏み込んだ。その結果、ギルバンにつながる一味は、あっさりと一網打尽にされた。



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