(27)密談
ギルバンとの面談を終えたコンラートは、彼が応接室から出た直後、セーラに単刀直入に尋ねた。
「さて、どうだった?」
するとセーラはおかしそうに笑いながら、聞き捨てならないことを口にした。
「王妃様の言葉を借りれば『なかなか面の皮が厚い狸』といったところですわね。相当質の悪いものを混ぜ、差額でかなり儲けておられるようです。しかも、その仕入れ先はテーランの商人ですね」
「やはりそうか……」
途端に苦々しい表情になったコンラートだったが、セーラは笑顔のまま話を続けた。
「それで、その取引記録や相手方とのやり取りを記した書面などを、几帳面に整理してしまい込んでおられますわね」
「ほう? それはどこだ?」
「もちろん、ここでお伝えしてもよいのですが、そうするとギルバン様と繋がっている方や、その証拠を逃しかねません」
「どういうことだ?」
コンラートは、意外そうに尋ねた。するとセーラが真顔になって理由を述べる。
「ギルバン様が考えていた隠し場所が少し曖昧でしたので、その情報を伝えても、踏み込んだ時にすぐには発見できない可能性があります」
「そうなのか?」
「はい。事前に見取り図などがあれば、見当もつきますが。それで、コンラート様が兵士を動員して、あの方の屋敷や店に一斉に踏み込んで証拠を押さえようとしても、大勢が動く場合、どうしても事前に動きを察知される恐れがあります。騒ぎの中で手間取るうちに証拠を隠滅され、関係者にも逃げられるような事態は、回避したいですよね?」
セーラからすこぶる冷静に指摘されたコンラートは、思わず考え込み、彼女に意見を求めた。
「つまり、どうすればいいと言うんだ?」
するとセーラは、落ち着き払って提案した。
「王妃様は、常々『雑草を取る時は、表面だけでなく根こそぎにしろ』と仰っていました。ですから明日一日、時間をいただければ、私が誰にも知られずに、必要な証拠を集めてまいります。ここは、私に任せていただけませんか?」
それを聞いたコンラートは、本気で驚いて問い返した。
「この件を、お前一人に全面的に任せろと言うのか?」
「はい。とはいえ、王妃様から『辺境伯夫人になったら、供の一人もつけずに外出するのはおかしい』と言われましたので、アニーを連れて行きます。それでよろしいでしょうか?」
神妙な面持ちで見当違いな伺いを立てるセーラを、コンラートは凝視した。彼はほんの少し躊躇したものの、小さく頷いて了承する。
「……分かった。任せるから好きにしてみろ」
「お任せください。それでは失礼します。早速アニーに、明日の予定を伝えますわ」
にこやかに請け負ったセーラは、コンラートに向かって頭を下げてから、足取り軽く応接室を出て行った。
※※※
「とりあえず、そういう話になった。早速明日、実行する予定だ」
執務室に戻ったコンラートは、呼び出した騎士団長のマグヌスと、ダレンを筆頭とする補佐官たちに向かって、応接室での一件を説明した。しかし、説明を終えた直後、家臣たちから激しい抗議の声が上がった。
「『そういう話になった』ではありません! 一体、何をなさっているんですか!」
「そうですよ! 怪しいと判明したのなら、さっさと踏み込んで証拠を押さえた上で、奴の身柄を確保するべきでしょう!」
「第一、奥様と侍女だけで、何をどうするというんですか!」
コンラートは部下たちの訴えを一通り聞いてから、手振りで発言を制した。そして机の上で手を組みながら、真剣な面持ちで部下たちに語りかける。
「皆の言いたいことは分かるが、セラフィーナの主張にも一理ある。できれば末端の者だけでなく、こちらに入り込んでいるテーラン側の者も含め、一網打尽にしたい。それに、セラフィーナの《他人に違和感を覚えさせない能力》というのが、話を聞いただけでは今ひとつ実感が湧かなかったからな。お前たちもそうではないのか?」
「それは、まあ……」
「確かにそうですが」
セーラを頭から疑っているわけではないものの、どうにも信じられない。それが、その場にいた者たちの偽らざる本音だった。コンラートはその点を踏まえながら、冷静な口調でマグヌスに指示した。
「この際、あの二人が城を出て周囲に気づかれず人波に紛れ、問題なく行動できるか、十分な態勢を整えたうえで尾行させ、行動を観察しろ。セラフィーナたちだけでなく、ギルバンの関係者や配下の者たちにも気づかれないように。万が一、二人に危険が迫ったら、直ちに救出して保護しろ。上手くいけば儲けもの、くらいの気持ちで試してみればよいだろう」
そこまで言われて、マグヌスも腹を括りながら応じた。
「了解しました。それでは明日は必要な人員を配置し、奥様たちを尾行させます。念のため、城下の巡回も、不自然にならない程度に増やしておきましょう」
「よろしく頼む」
こうして話はまとまり、セーラの隠密作戦が実行されることになった。




