(17)悩み深き人々
「それから、王妃様の依頼で、隠し事をされている方のお屋敷や関係者のお宅にこっそりお邪魔して、王妃様がご所望のものを探し出してお届けしたりしていました」
事もなげにセーラが語った内容に、コンラートは思わず突っ込みを入れた。
「ちょっと待ってくれ。どこに行って、何を探し出してきたと? そんなに簡単に、見ず知らずの屋敷に侵入できるはずないだろうが」
「ですから、私は自分の住居以外では周囲の方に違和感を抱かせませんし、まったく不審人物と思われないので、どこでも素通りさせていただけますの。王妃様が面談の際、悪巧みの証拠や貴重品の隠し場所などを相手に連想させるような質問をさり気なく会話に混ぜておけば、私がそれを把握できますから。それで、その場所から必要なものをお借りして、王妃様にお渡ししていました」
それを聞いたコンラートは、心底うんざりしながら指摘した。
「あのな……。それは『借りた』のではなく、『盗った』というのだ」
「そうですか? 王妃様は『後日、奴らにはその身に相応しいものを代わりに与えてやった』と仰っていましたが」
「そうだろうな。確実に、そいつらに相応しい報いと刑罰を与えただろう……」
コンラートは、思わず遠い目をしながら独り言のように口にした。すると反対側の壁際に座っているアニーが、実にしみじみとした口調で口を挟んでくる。
「本当にセーラ様は、とっても優秀な密偵でしたから。セーラ様が能力全開の時には嘘なんか口にしても無駄ですし、どんな厳重な警戒態勢の場所でも素通りですから。本職の密偵として自信をなくすとか、周りがいろいろ愚痴めいたことを言っていましたね」
「王妃が『利用できる』と言っていたそうだが、利用しまくりだろうが。それはともかく、自分の住居から一歩でも外に出れば他者に認識されないのだろう? 城に出向いても、王妃や周囲の者たちに認識されないのなら、会話も成り立たないのではないか?」
彼女たちの話に呆れ果てながらも、コンラートはちょっとした矛盾に気がついた。それについて確認を入れると、セーラが笑顔で事もなげに答える。
「それは心配無用です。私が、この人には普通に接してもらいたいと思えば、普通に認識してもらえますので」
「何だ、その都合が良すぎる能力は!」
「正確には、アレス様が授けてくださった加護なのですが。例の手紙で王妃様が事細かに条件指定をした後、『半端者のお前には、こんな繊細な加護をセラフィーナに与えるなどできないだろうがな。できるものならやってみろ』と挑発したのです。そうしたらアレス様が、頑張ってその通りにしてくれたのですわ」
「仮にも神なら、そんな挑発に乗るな。王妃も王妃だが、そいつもそいつだな……」
ここでコンラートは、疲労感満載の様子で呻いた。そんな彼に対し、セーラがにこやかに尋ねてくる。
「これで、私がダーウィン様やジャスト様が企んでいた、良からぬことを見抜けた理由の説明ができたと思うのですが。他に何か聞きたいことはございませんか?」
それで何とか気を取り直したコンラートは、真剣な面持ちで、一番重要と思われる問いを発した。
「そうだな。それに関しては、よく分かった。もう一つ、聞かせてほしいことがあるのだが」
「何でしょうか?」
「そんなに有能な密偵で重宝していたお前を、王妃がここに寄越した理由は何だ?」
(それが一番解せないのだが。本当に、あの王妃は一体何を考えているんだ?)
オリヴィエが、利用価値がありすぎる密偵をこの地に派遣した真意が不明である以上、今後の対応をどうすれば良いのか、コンラートは判断に迷った。しかし、彼のそんな逡巡などまったく意にも介さない様子で、セーラがあっさりと口にする。
「さあ、分かりません。ですが王妃様から『辺境伯の領地では、以前から狐、狸、鼠、蛇、モグラなどがうようよしている。害獣は適当に排除しておけ』と言われましたので、害獣退治でしょうか?」
「場所が場所だから、得体の知れない者がうようよしているといえば、確かにそうだろうが。お前は、この結婚話を聞かされた時、王妃の考えを読まなかったのか?」
コンラートは眉根を寄せながら、問いを重ねた。するとセーラは、急に真顔になって、淡々と主張してくる。
「コンラート様。『親しき仲にも礼儀あり』という言葉がございます。それに王妃様のなさることに間違いはございませんし、私ごときが王妃様の深謀遠慮を推し量ることなど、到底無理なことですわ」
そこでコンラートは、この熱烈な王妃崇拝者に対してこれ以上の議論は不要だと結論づけた。
「そうか、良く分かった。もう行っていいぞ。侍女もだ」
「はい。それでは失礼いたします。お仕事、頑張ってくださいませ」
「……ああ」
そして笑顔のセーラと無表情のアニーが会議室から出て行くと、コンラートは力尽きたように再び机に突っ伏した。
「あの……。ご領主様?」
控えめにダレンが声をかけると、コンラートは突っ伏したまま呻くように告げる。
「何も言うな。それから、皆、今の話は他言無用だ。分かっているな?」
「もちろんです。口にしても、他の者に信じてもらえるとは思えません」
その場に居合わせた全員を代表してダレンが宣言し、他の者たちは顔を見合わせながら無言で頷き合った。




