CodeⅢ:探究する者と壊す者
「…んじゃ、こりゃぁ……」
フェンリルの顔を見て私は思う。
目が点になるというのはこういう事を言うのだろうか?
「ただの仮拠点だ。もっと充実させたい。
まだ解析しきれていないデータもある。
作りたいものだって、やりたいことだってたくさんある。今はまだ、できないが」
「にしたって限度があんだろうが…。
お前これ、科学者の研究室かってくらいだぞ…?
それにこれどうなってんだ?発電音がなってねぇのに電気が通ってやがる…。
まてまて!んならあたしはどうやって起こされたんだよ?
ここから電気を持ってくることはできねぇだろうが。
燃料液は何処にあるんだ?
食料はどう――――」
「一個ずつ話すからちょっとまってくれ」
さて…、何から話したものか。
「まずは発電だな。
原理は以外に簡単だ。
そこの蓋の奥に、アンバー粒子を放つ鉱石が入っててな。
微細なアンバー粒子を高密度で吸収、凝縮して、更に圧縮を行い、それを電気にーー」
「待て待て待て!!もっと簡単に言え!
訳わかんねぇぞ!全然簡単じゃねぇよ!
それお前基準の価値観だからな!?」
………なるほど。よくないな。
なら、もっと簡単に、砕いて…。
「アンバー粒子が何かは分かるか?」
「それが既に分からん。データにない。
記録もないしな。あたしは壊す者だしな。
壊せればいいって考えだったんだろうよ。
だから廃棄されたんだしな」
……フェンリルも大概難儀だよなぁ…。
私の書いたもののせいでこうなったのか、或いは何か特殊な電波のようなものが私にこれを書かせたのか…。
これは答えが出ない問いだな。
考えちゃだめだ。
「アンバー粒子ってのは琥珀色に光る粒子だからそう呼ばれるようになった。
元々はただの光だった、と思われていたんだ」
「元々は、な。ただの光ってわけじゃなかった。じゃあなんなんだ?」
「そうだな…。説明がムズいんだが、電気の原理は知ってるか?」
「ああ。あれは電気が見えてんじゃなくて光ってる……だけ…」
「気づいたか?アンバー粒子はただ光ってるだけだったんだ。
そこに発生しているエネルギーは電気の比じゃない。そのエネルギーの使い方を間違えた人間共は、この世界を壊したのさ」
「……いつの時代も行き過ぎたエネルギーは世界を壊すんだな」
「そういうもんだ。
そしていつも決まってそういうのは人間が起こす。
勿論超自然的に壊れることもあるが、基本は“考えられる知恵”を持った“感情ある”生物が世界を壊す」
「言い方が面白いな。
人間に限らないって言いたいんだな?」
「そうとも言う。
話を戻そうか。そのアンバー粒子を使ってこれだけのことを実現している。
アンバー粒子は鉱石に限らず色んなものから発生する。
例えばーー絶劇スモッグ、とかな?」
フェンリルは目を見開いた。
「絶劇スモッグはアンバー粒子を更に分解した時に発生する毒素だ。
そして絶劇スモッグはアンバー粒子に反応して、アンバー粒子を自動的に分解する。
絶劇スモッグを作ってしまった時点で人類は滅亡する運命だったってやつだな」
そう。これが世界の真実だ。
「あたしが作られた意味は、何だったんだよ」
その言葉には沢山の想いが詰まっていた。
壊す者として生まれたフェンリル。
そんな自分をも壊す絶劇スモッグ。
自分以上に壊せるその存在を。
フェンリルはどう考えたのだろうか。
私にはできない発想だ。
今私に言えることは一つしかない。
「これから見つければいいじゃないか。
私はお前が壊すのを強要はしない。
まぁ、守っては欲しがっているが。
それだって強制はしない。
今生き延びるためだけに君を起こしたんだ。その戦闘データさへ貰えれば、後は君の自由だ」
そのようにプログラムを仕組んだ。
できれば付いてきて欲しい。
だけど強制してまでついて来てほしくはない。
「お前が欲しがったのはあたしの戦闘データか」
「いいや。私が欲しがったのは間違いなく自分の命だ。
だから君を起こした。
だけど君の戦ってる姿を見て別の感情が湧き上がった。
なんだと思う?」
「……物欲じゃねぇのか?」
「ふふ。確かにそうかも知れないね。
でももっと簡単なものだ。
その内容は、もっと砕けるし簡単に表現できる。
それはな?
楽しそう、だ」
フェンリルは心の底から戦闘を楽しんでいるように見えた。
「何かに熱中できる。心の底から楽しんでいる。それを見るのは、楽しいし、とても羨ましい。私も感じたいと考えるのは不思議なことかな?
やってみたいと考えるのは当たり前のことではないか?
だから、戦闘データを欲しがったんだ。
何かできることがあるかもしれないだろ?
道端の石ころにだって、価値が生まれるんだ。道の端にある宝石にはもっと多くの価値がある」
しばしの沈黙を経て、そこで区切りとし、ご飯を食べることにした。
マッドは食事で燃料を補充できる。
人間と同じだ。
「……何でこんなにいいもんが出てくる?」
「はは!そのセリフでどんな生活をしていたのか一発で分かるな!
さぞかし大変だったろう。
これでも酷いレベルだからな」
ほとんどの食料は絶劇スモッグによって食べられやしない。
「アンバー粒子ってので作ってるのか?」
「いいや。これは太陽を模した陽光エネルギーによって急速成長させ、自然栽培された野菜だよ」
「………お前ほんとに何もんなんだ?」
「私か?私は絶劇スモッグを吸っても影響のない、人間だよ」
表情を固めて、手に持っていたフォークを落として停止したフェンリル。
「何を驚いている?
予感はしていただろう?」
「い、いや…流石に、人間だとは……」
「まぁ、凡そ200人のその人間とやらに化け物と言われて抜け出してきたからな。
別に人間だと思わなくていいぞ。
でもそうだな。今の君は私がいれば永遠に死んでも起き上がれるが、私の命は一つしかない。
そこに関しては、人間として扱ってくれると非常に助かる」
「お、おう…。年は、、聞いてもいいか?」
「はは。年齢か。いいよ。
14だ。
因みに後何日かで15になるが大して変わらないな」
「…子供じゃねぇか」
「見えなかっただろう?」
「まったくだぜ…。大人びた口調といい、思考力といい。どんな生活してたら、そうなるんだ?」
「たちまち外に出れば石を投げられ、人体実験をされかけて、子供を産ませようと陵辱されかけ、逃げ続ける、最高に哀れな生活だ。
その様はまるでデディケイトのようじゃないか?」
クツクツと嗤いながらそう言うと、フェンリルは眉を八の字に変え、悲しそうな声でこういうのだ。
「……あたしなんかよりよっぽど辛かったろうに。なんでお前は笑っていられるんだ?
なんでそんな風になれる?」
知りたいという欲求は、考えられる知恵を持った感情ある生物の、最大欲求なのではないだろうか。
それを抑制してはならないと、私は思う。
「生きているからだな。
それに、生きたいと考えているからだ。
人間に限らず、それは自然に考えることだ。
誰だって、死ぬ為に生きているんじゃない。そこに理由なんて、ありはしない。
だから少しでも楽しめるものは楽しむんだ。
楽しめなきゃ、生きている意味がない。
私にとっては生きていることよりも楽しむことのほうがよほど大事だ。
これは君が求めた答えになったかな?」
「……そうか…。
そういや、あんたの名前を聞きそびれていたな。あんたの名前はなんていうんだ?」
ギーナ…いや、ここはやはりストーリーとは変えるべきだろうか。
それも変か。なら私は…、
「私は探究する者。ギーナだ。シーカーのギーナだ」
これは私が人間なんかではなく、もっとも人間らしいマッドである為の名だ。
「シーカーのギーナ、か。いい名前だな」
「そうだろう?」
「ああ、いい名だ。
なぁ、あんた。あたしに名前をつけてくれないか?」
フェンリルなりのけじめ、なのかな?
これは、いい返事が聞けそうでよかった。
「シリウス、なんてのはどうだ?」
「へぇ。由来は?」
「遥か昔、幾つもの国があった。
その中に中国というところがあってな。
その国ではシリウスは天狼星と呼ばれていたらしい。
他にもセイリオスというギリシャ語で焼き焦がす光り輝く者という意味があり、シリウスの語源になっていたり、星の中でも光り輝いていて一番最初に目に付くことからそう名付けられている。
どうだ?壊す者として、私を救った者にはぴったりな名前だろう?」
「はは!探究する者の救世主か!
確かにぴったりな名前だ!
ならこれからよろしく頼むぜ?ギーナ」
「ああ。こちらこそよろしく頼む。シリウス」




