CodeⅣ:交渉
「………」「………」「………」「………」
「………」「………」「………」「………」
物凄い長い間、ほんとうに、静かな、空間が出来上がっていた。
まるで真空にいるのかと錯覚するような、張り詰めた空気。
正直に言おう。
私は困っている。
相手から来たのにその相手が黙り込んでしまっている。
カウンターで返そうと思ったのに…。
なんでこんな事になってしまったか、それは少しだけ時間を遡る必要がある。
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「交渉しに来たわ!!」
そう言ったのは、指揮官の振る舞い、一番先頭に立っているマッドだった。
上に立つものが、一番前に来ている事に、私は好感を持った。
恐らく、彼女を生み出した人間は、上に立つ者が、どういうことなのかをよく理解していたのだろう。
まぁ、どうせ中身はクズだっただろうが。
『一番信用している部下を連れて、入ってくれ。そちらが手を出さなければ、手荒な真似はしない。
だが…。一発でも銃弾を打ち込んでみろ。
一機残らず根絶やしにする』
最後だけ少し声を低くし、圧を加え、扉を開ける。
「…えぇ。分かっているわ。
対面で話し合いをしましょう」
対面か。凄いな。マッドがこういう言葉選びを行えるとは。
いいデータがもらえそうだ。
とまぁ、いざ、席について、交渉を開始してしまうと…。
「さて、何から話そうか」
その言葉から、この場にいる誰一人話さなくなった。
「………」「………」「………」「………」
「………」「………」「………」「………」
いや、ちょっと待て。
受け身にしても、受け身すぎやしないか?
あれ?外交ってこういうもん…?
もっとこう、ディスカッションとかするものではないのか…?
生憎と経験がない…。
仕方ない。アドリブで行くしかあるまい。
…相手の神経を逆なでせず、下手に出ず、それでいて相手に主導権を握らせない。
……あれ?意外と難易度が高いな。
「交渉だったか?
君達の狙いは、私の技術かな?」
数人が反応を示す。
示したらダメだろう。
交渉の席で、その反応は良くない。
「……やめだ。やはり遠回りは性に合わん。
単刀直入に行こう。
マッドの製造方法を知りたい。
君等が提示できる全てをもらう。
対価はそうだな…。
こちらの技術の『一端』だ」
「…高すぎると思うけど?」
「腹の探り合いは止めよう。
ここで武力行使に出た所で、お互いにメリットがなさすぎる。
もっと合理的に行こう。
この世界は酷く残酷であり、醜悪だ。
たった一回の交渉の場が、滅茶苦茶になるのはこちらとしても本意じゃない。
そも、私はそちらのマッドについて知りたいだけだからな。
そこら辺にいるマッドと比べて、貴殿らのマッドは実に優秀だ。
まぁ、私の剣と従者には劣るが」
すまんな。こういう言い方しか思い浮かばん。…リリィよ。もう少し顔を整えてくれ。
「……そう。けれどそれは私達にとって最も機密事項。
私達の生命線でもある。
対価としては些か安すぎる。
私たちにしてみれば貴方達に構っていられる時間は少ないの」
「そうか」
へぇ。それはいい情報を引き出せたな。
なら、ワイルドカードを投入しようか。
「では貴殿らがどう思うかは分からないが、言うなれば私の命とも呼べる情報を教えよう」
「…?」
胸に大袈裟に手を当てて、笑いながら静かに告げる。
「私は、人間だ」
空気が一気に変化した。
リリィとシリウスには事前に、伝えてある。渋ったらすぐにこの情報を渡すと。
「……う、嘘はよくないのではないかしら?ぜ、絶、劇スモッグはどうするのよ」
動揺は判断を鈍らせる。
人工知能だろうが、関係はない。
学習していないことを答えられるはずがないのだから。
感情を宿しているのならば、それは尚の事、動揺してはいけない。
表に出してもいけない。それはつけ入る隙になるからな。
「ふむ。どうやら君の主だったものは絶劇スモッグに勝てなかったようだね?
私は技術で何とかできたが…、君の主は死んでいるようだ。
技術を欲しがるということは、なるほど。
大した施設は造らなかったのかな?
それとも、作れなかったのかな?」
まぁ、嘘だが。
完全に効かないわけじゃないし、確かに絶劇スモッグを何とかできるから、これも嘘ではないうちには、入るだろう。
手札のジョーカーというのは、最大の一手だ。外れれば弱くなるが、当たれば致命傷。
だからこそ私は出し惜しみしない。
再び揺れた。
容易いな。やはりこちらのほうが性に合っている。
回りくどく、外側から攻めるなど、私には合わない。
どこまでも弱点を突き、内側から。
絶劇スモッグと同じように、蝶を捕食する蜘蛛のように、内側から。
「そうだな。
こうしよう。
先程、君等は構っていられる時間がないと言ったな?
君等尖閣軍はマッド5000機からなる軍なのだろう?」
「………それがどうかしたのかしら?
(さっきからデータがやかましい…)」
「君達の敵を、消し去ってやる。
どうだ?最大限に譲歩してやってるが、これでもだめか?
だめなら、」
「…いいえ。それでお願いするわ。
これ以上、断る理由がない…」
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尖閣軍指揮官Side
「はぁ〜〜〜……。ほんとにやられたわ…。
なに〜あれぇ……!?人間ってあんなんじゃなかったでしょ!」
マジ無理、絶対勝てない。
「……まさか人間だったとは…。」
「あの様子だと、まだ何か隠し持ってそうですね…」
「我々は決めつけていた。
そして、スキャンした上で改めて分からされた…。我々の主だったものと比べても、遥か先を行く…。いやはや…なんとも…」
「どんだけ天才よ…。
こっちが用意する暇もなかった。
ねぇ?どうすればよかったと思う?」
「貴方に分からないものを私が分かるわけないじゃないですか」
はぁ…。そりゃそうだ…。
完全敗北どころの話じゃないわ…。
存続の危機よ!危機!!
「ですが、不思議なことがあります」
「ん?なによ」
「相手はそれだけの技術を持っておきながら、何故、我々のマッドの製造方法を求めたのでしょうか?」
…確かに。色々と演算回路に響く情報を次々と投げてくるものだから、気づかなかったけど…、何故?
「……、私は恐ろしいことに気付いてしまいました」
普段大人しい、こういう時に発言しない子が語り出したことに、私達は取り返しのつかないことをしてしまったのだと、今更ながらに気づいた。
「あのお方の目的は、最初から最後まで、マッドを造ることではなく、私達が目的だったのではないでしょうか…?」
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「まさかこんなにうまくいくとは思わなかった」
「主様の計略に、脱帽しております」
「リリィ、どこを触りながら言っているんだ?」
「太腿です」
「知っている。何を触っているんだという意味だ」
「ん?太腿ですが?」
「もういい。私が悪かった。
シリウス。彼女達の様子はどうだ?」
「……お通夜状態…、っていうんだったか?
すんげぇ暗い」
「だろうな」
「ところでそれは何を作っているのですか?」
「これは通信装置だ。
あったら便利だろう?
あれだけマッドがいるんだ。統率が取れたらさぞ楽しいぞ?」
シリウスはやはり天を仰いだ。




