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「ウーン……デモ、あいつ、最初にお話したとき、ちょっと容姿でからかわれてるボクのこと、庇ってくれたんだよネ」
初耳だ。驚いたが、でも、ルークはレオーネの言う通り、差別がしたかったわけではないのだと思った。
リュウホは眉を下げると、言いにくそうに口を開いた。
「ボクは、ロイくんが黒髪なのがイレギュラーなんだと思うナ」
やっぱりそこに行き着くのだ。でも、ロイは「勇者だから黒髪だ」と思っているし、実際、人智を超えた力で、あの容姿に縛られている。
「……でもあの子、勇者だから黒髪なんだってことになってるんだよ」
「ああ、そういえば、フェリオくんが勇者の証なんだって言ってたの聞いたことあるわ」
「そう。なんか、染めても次の日には戻っちゃうんだって」
ロイの話を思い出して、フィズは悲しくなった。コニーは訝しげな顔をしたが、リュウホは心底驚いたように声をあげる。
「エー? びっくりだネ?」
「……うん。ふふ。びっくりだね」
気持ち悪いだとか言わないリュウホの反応に、フィズは思わず笑ってしまった。コニーも肩を揺らして笑っている。
「……リュウホが前に言ってたのって、こういう話だったんだね」
前に遮ってしまったのを思い出して、フィズは謝る。勘違いして、冷たい反応をしてしまった。
「いいヨー。いきなりだったシ、変な言い方しちゃったよネ」
ぽんぽんと頭を撫でられて、胸を撫で下ろした。リュウホは笑うと、話の続きを促してくる。
ルークがロイのことを見た時、「イン」と言っていたのを話すと、コニーが眉を顰めた。
「……湖の裏のお墓に、そんな名前があるのを見たことあるわ」
「あ、コニーはやっぱ知ってるんだね」
「ええ。あの土地も調べてるから。珍しい名前よね」
そう。この国じゃ聞かない。だけど。
「……ボクの国にはよくあるヨ。名前じゃなくて名字だけどネ」
やっぱり、リュウホの国の人だったらしい。
「……その子が、ルークの言ってる親友ってこと、あるかな」
「あり得るわ」
考えていたことを述べると、コニーが同意してくれた。
「魔法使いの森は一度移動しているのよ。魔女狩り、授業でやったかしら?」
まだやっていない。リュウホと首を振ると、コニーが説明してくれる。
何百年か前。勇者が出て、魔物が増えた時の話だ。
魔物がいるのは、魔法使いのせいなんじゃないか。そう難癖をつけた人々が、魔法使いを迫害し始めた。魔法使いはもちろん、関係ない人達も火あぶりで処刑をされてしまった。
まだ隠されてなかった魔法使い達の住む森も、焼かれてしまったらしい。逃げ延びた魔法使いが、今の場所に住処を移し、一般人には見えないように隠してしまったのだという。
あまりの情報に顔を歪める。リュウホが吐き捨てた。
「……酷い話ダネ」
「ええ。本当に」
強く同意して、コニーはため息を吐いた。
「職業だとか、人種だとか、一つの要素だけで大勢の人を決めつけてしまうのは悪手だわ。……私が言えたことじゃないけど」
「決めつけられてたほうデショ。コニーちゃんが気にすることないヨ」
彼女の自嘲を強く否定すると、リュウホはにっこりと笑った。
「お話、面白いネ。それに分かりやすい。チェルシーちゃんがいつも言ってるのが分かったヨ」
コニーが瞠目した。目線を落とすと、小さくお礼を言う。
よかった。二人のわだかまりが溶けたのが分かって、フィズは安心した。
それから話し合って、これからのことを決めた。コニーに引き続き土地のことを調べてもらって、それから、フェリオにも話してもらうことになった。人伝なので、まあ、おそらく大丈夫だろう。グレーゾーンだが。
「──今日は急に呼んだのに来てくれてありがとう」
喫茶店を出て、改めて二人に頭を下げる。コニーがにっこりと笑った。
「いいえ。こっちこそ、いい話が聞けたわ」
それから、二人をちらっと見ると、彼女は姿勢を正した。
「……それから、遅くなったけど……二人とも、この前はごめんなさいね」
眉を下げて、コニーはしょぼくれた。
リュウホと顔を見合わせる。肩をすくめたリュウホがフィズに任せると笑ったので、フィズは考えて、首を振った。
「いいよ、とは言いたくないけど、でも、レオくんが怒ってないから、あたしもいいよ」
寂しいけれど、あの日のことは、コニーとレオーネの間で起こった問題だ。だから、そこには入れない。入ってはいけない気がした。
コニーが不器用に笑う。怒ってほしいのだろうか。そう感じたから、フィズはもう一人のことについて言及した。
「……私が二人に怒りたいのはさ。お兄ちゃんの言うこと、聞かなかったことかな」
コニーの肩が揺れる。
「お兄ちゃんが心配してるのに、二人して見向きもしないで、勝手にだめだって思いこんで。そこは怒ってるよ」
フィズの兄は、とびきり明るくて優しくて、それから頼り甲斐のある人だ。
きっと真っ直ぐに伝えていたのに、どうして二人が受け取らなかったのか、フィズはずっと不思議だった。
「……分かんないの」
フィズの言葉に顔を歪めると、コニーは呟いた。
「なんであんなに優しくしてくれるのか、分かんない。レオーネは話が合うし、だんだん仲良くなったから分かるけど、でも、フェリオくん最初っからああなんだもん。なにか言われる度、なんか企んでるんじゃないかと思うっていうか……怖い。なんか」
「お兄ちゃんはそんなことしないよ」
「分かってる。でも無理なの」
唇を噛むと、コニーは俯いた。
「あの人ってなんか手放しで褒めてくるでしょ……」
褒められることが苦手なのだろうか。
なんだか悲しくなる。やっぱり、彼女と通じ合うのは、難しいのだろうか。
そう思っていると、横から呆れた声がした。リュウホだ。
「コニーちゃん、さっき言ったこと、忘れたノ?」
「……あ」
「親が言ったこととか、気にする必要ない。たぶんネ、改めて聞いたら謝ってくるヨ。そうじゃない親なら、忘れちゃった方が身のためだネ」
発言にびっくりして、でも、フィズもその通りだと思った。
血が繋がっていたって、許せないことなんてごまんとある。謝られても、自分が嫌なら許さなくていいし、逆に、許してもいいと思った。
「今はネ、コニーちゃんのこと好きで、頼りにしてる人が大勢いるヨ。フィズちゃんも、レオくんも、チェルシーちゃんも、それからボクもネ。フェリオくんだって、そうだったんデショ?」
「…………」
コニーがそっと頷いた。
リュウホは肩をすくめると、コニーに意地悪に笑う。
「褒められて申し訳ないなんて思う必要ないヨ。そっちの方が失礼。それより、もっと言うことがあるデショ?」
「……ありがとう」
掠れた声で、でも今度は綺麗に笑ったコニーに、リュウホは満足そうに微笑んだ。




