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レオーネはフィズを散々いじめた後、あっさりと寝てしまった。残されたフィズは眠れる気がしなかったが、それでもベットに入ると、思ったより疲れていたみたいで、気がついたら朝だ。
カーテンの隙間から入ってくる光に目を細めて、フィズは重たい体を起こす。
(……レオくんの夢は見なかったな。うん。よし)
恐れていたことが起こらなくって、フィズは安堵の息を吐く。少しだけ残念な気がするのは、気のせいだ。
ルークが、レオーネは下心があるとかか言っていたけれど、もうそういう問題ではない気がする。まさか、レオーネがあんな感じだとは思わなかった。強すぎる。
少しずつ慣れていこうと言われたが、あんなのどうやっても慣れる気がしない。世の中の人はいったいどうしているのだろう。心臓が鋼で出来ているのだろうか。
そこまで考えて、フィズはあることを思いついた。
(……あたしとレオくんって……あれかな)
恋人、ということになるのだろうか。
「うわー! 無理! 無理無理!」
顔が燃えるように熱くなって、フィズは枕をぶん殴った。
単語の響きがもう無理だ。フィズの弱いところを抉られて、油断すると、力が抜けて活動出来なくなってしまいそうだった。だけど、活動不能になるわけにもいかなかったので、スマホで時間と、メッセージを確認する。リュウホもコニーも会ってくれるらしい。
気合いを入れて起き上がる。喫茶店で会うので、フィズは食べないが、ルークの為に朝ご飯を用意した。
ルークは、朝が早いのに、まだ起きてこない。昨日の今日では顔を見せるのは難しいだろう。フィズも顔を合わせるのは気まずかったが、それでも彼の部屋のドアを叩いた。
彼は昨日の夜食べていないので、お腹は空いているはずだ。それに、眠っていたとはいえ、もしかしたら彼が昨日のことを見ていた可能性がある。それを確認しておかなければいけない。
少しして、ドアが薄く開く。むっつりした顔のルークが顔を出した。
「……なに?」
その顔を見て、フィズは安堵した。彼が見ていなくっても、フィズがレオーネのことを思い出して動揺する可能性はあった。
だけど、表情が違いすぎるからか、なにも感じない。余裕である。
「おはよう」
「……はよう」
笑いかけると、ルークは目を丸くして、それから俯いた。
「昨日のさ」
びくりと肩が揺れる。叱られる前の子供のような顔をして、ルークはドアを閉めてしまった。
「ちょ、ルーク!」
ドアを叩いて呼びかけると、怒声が返ってきた。
「怒ってるんでしょ?」
「…………」
思わず黙る。話しかけないでほしいと言われて、無理矢理開けることも考えたが、ルークも考える時間がほしいだろう。昨日、ルークは直ぐに眠ってしまったから、そんな時間はなかったはずだ。
「……朝ご飯、出来てるからね」
それだけ伝えると、フィズは出かける用意をする。それから出かけてくる旨を書いたメモを残して、家を後にした。
* * * *
待ち合わせの場所は、チェルシーとロイを初めて見た喫茶店にした。昨日話題に出したので行きたくなったのだ。
モーニングセットのトーストを食べていると、肩を叩かれた。
「リュウホ」
「你好」
にっこりと笑うリュウホに、フィズも笑い返す。トーストを置くと、隣に座るリュウホに謝った。
「ごめんね、急に呼び出して」
「いいヨ」
「でも、クレアとデートだったんでしょ?」
彼らは休日にいつも図書館に行っている。フィズがリュウホの話を聞いてからは、デートに誘ったりもしているらしい。
それに、無事に付き合い始めたらしい。いや、あの流れで付き合っていなかったら、フィズはリュウホの髪の毛をチェルシーにドレスアップしてもらって、セイランに写真を送りつけていた。ちなみに、セイランとは、時々メッセージを送り合っている仲だ。
からかうフィズの手の甲をつねる。
「……約束してるわけじゃないしネ……」
と、いうことは、今日は図書館の日らしい。
リュウホはサンドイッチのモーニングセットを頼むと、フィズの頬をつついた。
「……この前ネ、爸爸と媽媽に会いたいって言ったんだケド」
「え、そうなの?」
「そ。セイランとシアが飛行機に乗った報告をする時にネ。すごい喜んでたヨ。ボク、甘えたりしないカラ、あっちも遠慮してたんだってサ」
小さい頃に言われたことを守って常に気を張っていたので、リュウホとしては釈然としないらしいが。それでも「ごめんね」と「ありがとう」を伝えてもらって、嬉しかったらしい。
よかった。リュウホが嬉しそうで、感謝してくれて、お節介を焼いた甲斐があるというものだ。
はにかむフィズに、リュウホは目を細めて笑った。
「フィズちゃんのネ、おかげダヨ」
そんなことない。フィズは背中を押しただけだ。両親と通じ合ったのは、リュウホが頑張ったからだ。
首を振るフィズに、リュウホは息を吐くと、片眉を上げる。
「……この前、ボクがクレアちゃんに言ったこと覚えてるよネ。なにかあったラ、ちゃんと言わなきゃダメって」
「…………」
「フィズちゃん、この頃思い詰めてるナって、みんな心配してたヨ。ボクのこと頼ってくれて嬉しいノ。クレアちゃんにもちゃんと話してるカラ、心配しないでネ」
優しい声音で言われて、涙が零れそうになった。リュウホが意地悪に笑ったのは、慌てて下を向いたので見えなかったが、付き合いも長くなってきたので、なんとなく分かった。
「セイランもシアもサ、笑顔で帰れたのはフィズちゃんがいたからだシ、また会いたいって言ってるノ。フィズちゃんがいて、良かったナって思ってる人は多いんだヨ。一緒に悩むだけでも出来るデショ」
「うん。……うん」
チェルシーにも言われたことだった。いい友人に囲まれた。温かい言葉がじんわりと沁みていくようで、フィズはへにゃりと笑った。
「……それで、どうしたノ? なんでこのメンバー?」
リュウホがちらりと向かいを見る。そわそわしたコニーが座っていて、そこで彼女の存在を思い出した。
リュウホはコニーのことが好きではないし、コニーだって気まずいだろう。
「ご、ごめん。このメンバーが話したいことにちょうど良くって」
慌てて二人に謝ると、彼らは揃って眉を下げた。
雑談なんてされてもきっとよけいに落ち着かないだろうから、直ぐに本題に入ることにした。
「ルークの話なんだけどね」
前置くと、リュウホは頷いたが、コニーが首を傾げた。学園の友達で、ここのところ休んでいるという情報は、リュウホが付け足してくれた。
「あら。それは心配ね……」
コニーのコメントにリュウホが同意する。二人はあまり仲良しではない、というか、リュウホは彼のことが好きではないと思うが、心配はしていたらしい。
「その子……今、あたしの家にいるんだよね」
落ち込んではいるが、とっても元気である。
リュウホが固まる。なぜだかフィズが申し訳なくなって、肩をきゅっとすぼめた。
「……実家? それとも、レオーネと住んでるほうの?」
「レオくんと住んでるほう」
「……エッ三人で暮らしてるってコト? アイツ学校休んでなにしてんノ?」
全くである。混乱するリュウホに同意しながら、デートの日からあったことを順に説明した。
「──……つまり、初代の勇者さまがルークで、古代の魔法を使って、レオくんの体を乗っ取ってるってことなノ?」
「その上、その初代の勇者さまが、今まで……歴史上でも魔物を増やしていた本人なのね?」
フィズのたどたどしい話が終わると、頭のいい二人は、ちゃんと纏めて確認をしてくれた。頷くフィズに、リュウホは眉を寄せる。
「にわかには信じがたいネ……」
そうだよな。フィズだって本当かどうか確信はない。
でも、話が進まないので、どうやって信じてもらおうか。その方法を考えていると、コニーが声をあげた。
「私は、本当じゃないかと思うわ。実は、魔物が誰かにその場で作られたものなんじゃないかと思っていたの。自然発生じゃなくってね」
コニーはさらっと魔物が出てくる場所で種類が違うこと。森で抑えられなくなって市街地に出てくるのではなく、その場で作られているのだと思うと語った。
さすが、研究している人は観点が違う。フィズは感心して、ルークが言っていた魔物の作り方について彼女に伝えた。
コニーのテンションは爆上がりである。
「魔石を割ったら肉体が消滅する理由は、すでに精神体だったからなのね!」
また始まってしまった。フィズは思わず身を引いたが、リュウホは動じなかった。
「消滅するっていうか、元に戻るって感じなのかもしれないネ。暴走した状態を止めてあげると、魂は元々目に見えないカラ、消えたように見えちゃうノ」
「なるほどね!」
なにが「なるほど」なのかさっぱり分からなかった。だけど、まあ、知らなくってもいいかなとは思ったので、説明を求めるのはやめておいた。
「──で、ボクが呼ばれた理由ハ? 魔物の話だったラ、コニーちゃんだけでいいよネ?」
その後も色々と話していたが、ふとリュウホが疑問を投げてきた。
そうだ。危うく忘れるところであった。リュウホを呼んだ理由であるロイの髪について話す。リュウホは目を丸くした。
「……『黒髪ダカラおかしい』? それ、ルークが言ったノ?」
肯く。顔を顰めるフィズにリュウホは頭をひねった。




