表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
フィズの言ノ葉魔法論  作者: 七篠空木
言葉は廻る
PR
79/90

79




 フィズは困っていた。さっきから──ルークが変なのだ。

 不自然なくらいに話さないし、それに歩いている最中も上の空で、電柱に二回ぶつかって、溝に三回ハマった。

 フィズが何回話しかけてもこの調子で、家に帰ってくる頃にはくたくたになっていた。


「はあ……」


 部屋に戻るのも億劫で、リビングのソファに倒れ込む。本当、しっかりしてほしい。

 おそらく──というか、十中八九ロイの姿を見て動揺していた。

 詳しいことは分からないが、昔の親友が東方の子だと言っていたから、きっとルークは黒髪の子に思い入れがあるのだ。でも、それしか分からなかった。


(リュウホの時もあんな感じだったのかな……)


 反応したのが()()だったのか、()()だったのかで、話は変わってくる。さらに言えば、彼の境遇や動機、様子からして、ろくな話が出てきそうにない。

 だけど、踏み込まなければいけないし、憶測で二の足を踏んでいても仕方ないだろう。

 なにより、気になった。


「…………」


 重たい首を動かし、横でぼーっとしているルークを見た。

 どのように声をかけるべきか。そもそも、気づいてくれるだろうか。考えたけど分かんなかったので、普通に声をかけることにした。


「……ねえ」


 起き上がると、ルークの腕をちょいちょいとつつく。

 ルークは、緩慢な動きだったが、一応フィズのほうを見た。少しは回復したようだ。


「……なに?」


「今日、どうしたの? 変だよ」


「へん……」


 ルークの瞳が揺れる。迷子になった子供のような顔に胸が締めつけられた。


「さっきの……ロイくんって」


「うん」


「なに?」


「…………」


 おそらく、こんなことを聞くのだから、彼はなんとなく分かっている。それでも否定したいように見えたから、彼の思う通りにしたほうがいいのか、本当のことを言ったほうがいいのか、迷った。


「ねえ、フィズちゃん」


 ルークの声が歪む。結局、寂しそうな声音に負けて、口を開いたけど、どうすればいいかの上手い返答は出てこなかった。


「……勇者だよ」


 だから馬鹿正直に真実を言った。

 ルークの目がゆっくりと見開いていく。痛む胸を慰めるように、フィズはわざとおどけてみせた。


「黙っててごめんねー。うちのお兄ちゃんはお手伝いをしてるだけの一般人です」


「ゆうしゃ……」


 フィズの言ったことを呟いて、噛みしめる。それから、彼は本当に不思議そうな顔で、問いかけた。


「黒髪なのに?」


 カッと血が逆流するかのような衝動そのままに、フィズは彼の頬をぶん殴る。ルークは蹌踉けてたたらを踏んだ。それから、傷ついた顔でフィズを見る。

 どうしてそんな表情が出来るんだ。縋るような目が鬱陶しくて、でも、完全に見放すことは出来なくて、フィズは彼を睥睨した。


「次言ったら本気で殴るから」


「…………」


 ルークは俯くと、部屋に行ってしまった。その姿を見送って、フィズは再度ソファに寝転がる。自然とため息を吐いた。

 かつてないほどイライラする。体は重いし、胃も痛い。胃潰瘍とかになったら完全にルークのせいだ。不快指数は高まるばかりである。


「なにが『黒髪のくせに』だよ……なんも知らないくせに……」


 思わず吐き捨てる。きっと、前に言われても怒っていただろうが、ロイの事情を知っているから、よけいに腹が立った。腸が煮えくりかえりそうだ。

 貧乏揺すりをして、もう一度息を吐く。そこで。


「フィズ……」


 隣から声がして、フィズは叫びそうになった。

 まさか、さっきの今で謝りに来たのだろうか。力ない声を出すんじゃねえ。

 謝るのは立派だと思うが、今はフィズも心の整理がついていないので、後にしてほしい。

 険しい顔のまま振り返る。


「さっきのことなら、また明日にしてくれない?」


「いや、ええと……」


 まだなにか言いたいのか?

 出て行かないなら、フィズが部屋に籠もろう。そう思って出て行こうとすると、その腕を掴まれた。怒鳴ろうとしたフィズの頬を撫でると、ルークは眉を下げる。


「……フィズ。あのね」


 あれ。そういえば、呼び捨てだ。唐突に気がついて、フィズは瞳を瞬かせた。

 いつもルークはフィズのことをちゃん付で呼んで、こうするのはレオーネの真似をする時だけだ。

 からかっているとは、思えなかった。──と、すると。


「……レオくん?」


 弾きだされた答えをそのまま、問いかけるように名前を呼ぶと、レオーネは安心したように笑った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ