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フィズの言ノ葉魔法論  作者: 七篠空木
声なき声が喉を焼く
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「女の子を囲んでなにしてるの?」


 スマホに番号を入力すると、出来るだけ低い声を出して、彼らの前に躍り出た。

 彼らはフィズを見ると、クレアの肩に腕を回して笑い声をあげた。


「仲良く話してただけだよ」


「そうは見えないんだけど……ねえ、あなた」


 クレアを見る。目が合ったクレアは泣きそうな顔をしていて、でも涙は流していなかった。


「大丈夫?」


 その言葉を投げると、クレアは大きく目を開いて、首をぶんぶんと振った。


「たすけて」


 声は聞こえなかったけれど、そう口が動いた。舌なめずりをすると、フィズはクレアを掴んでいる腕を掴んで、電気を流した。

 怯んだその隙に手を払い、彼女をひったくるように抱き寄せる。


「リュウホ!」


 気配がしたので、彼の名前を呼ぶと、クレアの体がふわりと浮いた。男達はぎょっとして、青くなった。

 それから男達は次々に膝を折って、倒れていく。最後にケヴィンが悲鳴をあげて、その腕を捻りあげた状態でルークが姿を現した。


「あんた、どこでこんなに魔力を吸ってきたんだ」


「やめろ!」


「化け物になるよ。それでもいいの?」


 暴れるケヴィンを押さえ、ルークは彼を叱咤する。勢いに気圧されたのか、それとも別になにかあるのか、ケヴィンは徐々に大人しくなった。

 だけど、鋭い目つきは変わらない。


「──もう大丈夫。降りてきていいよ」


 やがて、長い息を吐くと、飛んでいるクレアに声をかける。その声でクレアが(たぶんリュウホと一緒に)地面に降りてきた。


「なんだよ、お前」


 ケヴィンは歯ぎしりをすると、改めてクレアを見た。


「僕が、せっかく話しかけてやってるのに、お前はそれを拒否するのか」


 クレアの目が揺れる。彼女がなにか言おうとする前に、ケヴィンがそれを遮った。


「お前みたいな女、一人じゃなんにも出来ない癖に、勝手に違う学校に行って。男が嫌いみたいな顔をしながら男を誘うような体して、男に囲まれてこの──」


 フィズがその横っ面を叩こうとした時、リュウホの声が聞こえた。


「クレアちゃんを散々怖がらせて、最初に言うことがそれなノ?」


 だけど、肝心の姿が見えない。

 フィズは思わず口元を押さえた。リュウホの透明化を解いてないままだ。


「クレアちゃんは本当にかわいいカラ、お話したいのも、触りたいのも、付き合いたいのもすごくよく分かるけどネ」


「す、ストップストップ」

 

 慌ててルークが割り込んで、彼の透明化を解いた。

 現れたリュウホは、ケヴィンを睥睨する。


「好きだから、なんでもしていいって免罪符にはならないんだヨ」


「お、お前、いつもクレアと一緒にいる……」


 急に現れたリュウホが、クレアを庇うように立っているのを見て、ケヴィンは後退った。


「リュウホだヨ」


 リュウホは肩をすくめると、ケヴィンを挑発するように笑った。


「止めてくれたレオくんとフィズちゃんにお礼も言わないで、恥かいたことだけ訴えるつもり? プライドだけは立派だネ」


「この……っ」


 ケヴィンが手を振り上げた。フィズが駆け出そうとしたが、ケヴィンのその手を、リュウホはすいっと後ろに避けた。

 懐に手を入れる。それから何か白い塊を取り出して、それを彼の口に突っ込んだ。


「あっつ!」


 ケヴィンが飛び上がる。何かと思えば、肉まんだった。

 にやーっと笑うと、リュウホは、自分でも食べる。フィズも含めて全員がぽかんとした。


「食べていいヨ。特別に百円にしたげるネ」


「見た感じ外人のリュウホくん……押し売りって単語知ってる?」


「是。知ってるヨ。お前の好意の表し方デショ?」


 鼻で笑う。相変わらずキレキレだ。

 ケヴィンが固まった。その顔色は、可哀想な程青かったけど、フィズは、同情する気にはなれなかった。


「いいから食べなヨ。お腹空いてるからイライラするノ」


「そういう問題じゃ……」


「みんなサ、キミのこと、ボコボコにしたいの我慢してるんだヨ」


 不意に声が低くなる。ケヴィンが息を飲んだ。


「……それとも、問答無用で殴られたいノ?」


 フィズに視線を送ってきたので、ケヴィンを見据えるて、指をポキポキと鳴らす。それだけで、ケヴィンは喉を引き攣らせてしまった。


「いい? ちゃんと聞いてネ」


 頭をかくと、リュウホは指先をケヴィンに突きつけた。


「まず最初に、今までのキミの行動は、好きな子を怖がらせていたノ。暴走してたのをあの二人に止めてもらったノ。あのままだったラ、キミは、クレアちゃんのこと傷つけて、どうしようもないことするところだったんだヨ。それを、ちゃんと知っておかなくちゃダメ」


 怖がるケヴィンの目を見て、リュウホは幼い子に言い聞かせるように話し始めた。


「それは、僕はやめようと思ってるのに、あいつらが……」


「思ってても、声に出さなきゃ伝わらないんだヨ」


「あいつら見ただろ、僕みたいなのが逆らえるわけない!」


「逆らわなくていいヨ」


 ケヴィンが目を開いて、言い訳していたのをやめた。彼を上から下まで睨め回すと、リュウホは問いかける。


「……身なりがいいネ。キミの家お金持ちデショ?」


「え、うん……だから、あいつらが金を持ってこいって」


「クズみたいな連中だネ」


 ケヴィンの訴えを冷たい目と言葉で押さえつけると、リュウホはため息を吐いた。


「お金はもっと有効に使うべきダヨ。キミの両親はどんな人なノ?」


「どうって……」


「助けてくれそうカナ?」


 リュウホの言葉にケヴィンは思案すると、俯いた。


「分かんない……金盗んだりしてるから、言ったら怒ると思うし……」


 両親からお金を盗んでいるのか。

 フィズはもう聞いているのも嫌だった。リュウホも顔を顰めたが、それでも彼と話をするために口を開く。


「訴えたらいいジャンと思うケド、ボクは法律に詳しいわけじゃないシ、実際に行動しなきゃいけないのはご両親ダカラ、なにも助けてあげられないノ」


「訴える……」


「それくらいできると思うヨ。そうじゃなくても、転校とか、大人だったラ、できることもアイデアも多いデショ」


「…………」


「……嫌な人が周りにいる時にネ、離れようとするの、すごく難しいことだケド」


 慰めるような声を出すと、リュウホはケヴィンの肩を叩く。


「デモ、そういう我慢はしなくってもいいノ。嫌だナと思ったラ、誰かから逃げることを考えたっていいんだヨ」


 それからその肩を掴むと、リュウホは彼に訴えかけた。


「そのためには、まずキミが『助けて』って声を出さなきゃダメ。分かるネ?」


 ケヴィンの瞳が揺れる。


「ボクもネ、最近友達に教えてもらったノ。難しいことダカラ、出来ないことを気にしなくってもいいヨ。デモ、キチンと相手のことを考えて、自分のした事は考えなきゃダメ。そこは逃げちゃダメ」


「……でも」


 彼がなにか言おうとしたのを、リュウホの力説が遮った。


「クレアちゃんがかわいくて好きなのは分かるヨ。本当もうどうしようかナと思うのはすごく分かるケド」


 それ言って大丈夫か? 後ろに本人いるの忘れてないか?

 リュウホの言葉に、クレアが赤くなる。


「……止めた方が良いかな……?」


「いや、もうちょっといいんじゃない?」


 面白がっているな。半笑いのルークに、フィズは呆れて半目を向けた。


「好きなラ、ちゃんと考えなきゃダメ。最初からボクらが出てきても良かったところを、それはキミが傷つくからって、クレアちゃんがお話しようとしてくれたノ。キミ逹のこと、怖いって思ってたのに、どれくらい頑張ったか分かる? キミよりちっさくて、女の子なんだヨ」


 その言葉にハッとクレアを見る。クレアは肩を震わせて、リュウホの後ろに隠れてしまった。


「それが相手のこと思いやるってことなノ。キミにも色々言い分はあると思うけどネ、それは言い訳にしかならないヨ。分かるデショ?」


 その問いかけに、彼は目を瞠って、下を向いた。

 拳を握ると、バッと顔を上げる。

 今まで虚ろに濁っていたその目が、綺麗に輝いていた。


「あの、クレア」


 呼ばれたクレアがびくっと肩を震わせる。

 フィズを見たクレアに、頷いた。たぶんもう大丈夫だと思ったあら。

 彼女は、リュウホから手を離すと、一歩前に出た。


「……僕、クレアから見たら、どう思うか分かってたはずなのに、なにも考えてなかった」


 ケヴィンが頭を下げた。


「本当ごめん」


「……もういいよ」


 ケヴィンの顔がぱっと輝いた。許すのだろうか。

そう思ったけれど、一歩近づいたケヴィンに合わせて、クレアは後退る。

ケヴィンの顔が引き攣った。


「もういいから、私に関わらないで」


 冷たい声と眼差しに、ケヴィンが瞠目する。

 フィズも驚いたが、でも、本当に嫌だったのだろう。

 長い時間我慢して、ようやく解放されてもまた追ってきて、散々傷つけた。二度と顔も見たくないだろう。


「……あ、あんた達も」


 掠れた声で、どもりながら、ケヴィンが話しかけてくる。


「考えが足りてなかった。ごめん」


 それでもフィズ逹に謝ったケヴィンは、すごいなとは思ったが、確かにフィズも、これ以上顔を見たくないとは思った。

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