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話を進める度に、ルークはどんどん嫌そうな顔になっていき、最後に「気持ち悪いな」と呟いた。
やはり、男から見ても気持ち悪いらしい。顔を歪めるルークに、少し安心した。
彼は、女子が嫌いだと言っているし、モラルにも欠けていると思う。どうかと思う発言も多いが、そういう感覚はフィズ達と同じようだ。
話してすっきりした。相づちを打って、フィズはため息を吐く。
「クレア、かわいいし大変だよね……」
「関係ないよ」
ばっさり切られて、思わず顔を向ける。
驚くフィズを尻目に、ルークは紅茶を飲んだ。
ゆったりとした仕草が優雅で、こんな話をしているのに、天気の話でもしているのかと勘違いしそうだ。
「確かに、目立つ容姿をしてるとか、仕草がかわいいとか、そういうことは人に好かれる材料にはなるよ。でも、犯罪に巻き込まれやすかったりするのにそういうのってあんまり関係ないんだ」
「犯罪……」
「怖がってる女の子を囲んで笑ってるような奴らなんでしょ?」
パンチのあるワードに眉を寄せたが、容赦ないひと言に口をつぐむ。
確かにそうだ。知り合いだと言うし、一応相手は好きな子だという名目で近づいてきてるから、考えもしなかったが。
ル-クは指を折って「犯罪に巻き込まれやすい人」の例えを挙げる。
「隙があると巻き込まれやすいよ。家に一人でいる時間が多いとか、帰り道に一人になるとかね。一人になると、誰かがが助けを呼びに行くことも出来ないし、捕まったらもうアウト」
「…………」
「後は、クレアちゃんみたいに大人しいと声を出すこともないし、怖がって反撃も出来ない。助けを呼ばないっていうのは、そういうのを探してる人に的にされやすいんだ」
ルークはそこで話を切ると、固まるフィズを見た。
言っている意味は分かるか。そう問われて、頷く。そういうのを探しているというのは、つまり、捌け口を探しているということだろうか。
「フィズちゃんは、クレアちゃんのことを真剣に心配して考えてるかもしれないけど、どこかで『そんな酷いことになりっこない』って思ってるんだよ」
鼻で笑うルークに、フィズは思わず俯いた。
胃がちくちくする。正面から至らないと責められるのは、恥ずかしかった。
「犯罪を起こしやすいのはどういう人だと思う?」
問われて、思わず肩を揺らした。フィズが答えないのが分かっていたのか、ルークは先に話し始める。
「家庭環境や周りの関係でストレスのはけ口がない。もしくは最初からそういう人。刺激を求めてる人。色々いるよ。止める人がいないっていうのもあるのかもね」
クレアの話だと、そういう集団らしいし、あまり柄が良くないのだろう。止めるには力のある人が必要で、そういう人が周りにいないのかもしれない。
ルークの話は、フィズがあまり見ない世界だった。友達が関わっていると思うと、ぞっとする。
身震いをするフィズに、ルークは問いかけた。
「それで? この後はどうするの?」
「……あたしとリュウホで、しばらく送っていくってことにはなった」
チェルシーは危ないし、リュウホもあまり力が強い方ではない。そこら辺、フィズなら男に見えるし、力も強いからどうにでもなるだろう。一見すると弱そうだから、油断も誘えるかもしれない。
それでも、一応危ないから、大人の判断を仰ごうということにはなったのだが。
クレアの家は、片親だそうで、今日も父は遅くなるのだそうだ。リュウホの両親は海外だし、フィズの両親も離れている。チェルシーは家にしばらく泊まってもいいと言ってくれていたが、根本的な解決にはならないだろう。
「あのさぁ……」
ルークが大きくため息を吐いた。額を押さえると、彼は呆れた顔を隠しもしないでフィズに指を突きつけた。
「まさか、あんたがどうにかしようとしてない?」
だめだろうか。
今の話を聞いて、気合いが入った。半端な気持ちではなく、ちゃんとしようと、そう思ったのだが。
「フィズちゃんは、そこら辺の男よりは力が強いからさ。いざという時が来ても、対処出来ると思ってるかもしれないけど、それはお門違いだよ」
真剣な顔で言われて、面食らった。後退ると、その腕を掴まれる。
「あんたは、悪意に慣れていなさすぎる」
心臓が跳ねる。力が強くて驚いた。
ルークと接していると、レオーネは、こんなに強い力が出せたのかと思うことが多い。
「喧嘩なら確かに勝てるかもしれない。でも、普通に危ない人っていうのは、あんたの中には存在しないカテゴリみたいだな」
ぐいっと腕を引かれて、フィズはルークに抱きしめられた。背中と腰を撫でられて、思わず体に力が入る。
だけど、でも、体は動かなかった。声も出なかった。ただ驚くばかりで。
固まっていると、くすりと笑う声がした。
「ほら。声も出せないだろ」
ルークが離れていく。
叱られた。からかわれた。ルークの言うことをはね除けることも出来ず、その通りだったのが、なんだか情けない。
涙が浮かんできた。羞恥で顔が熱い。
「……ま、まあ、そんなわけだから……」
そんなフィズを見て、ルークは顔を逸らした。
気まずい沈黙が流れる。俯くフィズをちらりと見ると、ルークは頬をかいた。
「……俺が行こうか?」
「え?」
「だから、俺が行こうか?」
想定外の提案に、フィズは顔を上げる。視線がかち合って、ルークは目を逸らした。
「最初は、怖いだろうけど、クレアちゃんから話したほうがいいと思う。恋はさ、障害があるほうが燃えやすいって言うでしょ?」
喉を触ると、Tシャツを口元まで引っ張り上げた。
「あれは俗説じゃなくって、そういう心理傾向があるんだよ。この場合、フィズちゃん達が障害になりかねなくって、攻撃の対象がこっちに向かってくることもあるからさ」
「…………」
「もし分かってくれそうになかったら、今度は俺が対処するよ。それでいい?」
確認を取られて、唖然としていたフィズは意識を戻した。
「そ、それは助かるけど……でも、ルークのほうこそ大丈夫なの?」
「これでも、戦争を体験したことがあるんだよ。この体はひ弱だけど、でも魔力は多いし、なんとかなるでしょ」
お前はそんな調子でいいのか?
喉を通りかけたツッコミを飲み下す。おそらく油断しているわけではないし、もし油断していたとしても、フィズより何倍も強いだろう。
でも、大丈夫だと分かっていても、心配なものは心配だ。
「……怪我しないでね?」
だからそう言うと、ルークは片眉を上げた。
「なに? ずいぶんと優しいじゃん」
「そりゃあ、目の前で人が怪我するのは嫌だよ」
それにレオーネの体だ。誤魔化すようにつけ足すと、ルークは無感動な相づちを打った。
「ルークこそ、女子は嫌いとか言ってたのに、クレアに優しいんだね?」
「……別に、あの子に対して優しくしてるわけじゃないけど」
「じゃあ、なに?」
小首を傾げてみせると、ルークは勢い良く立ち上がる。
「あの子になにかあって、迷惑がかかるのはリュウホだからだよ!」
それからカップ麺をゴミ箱に捨てに行った。
さすがに、フィズの為だとは言ってくれないらしい。
「まあいいや。へへ」
フィズも後を追うと、ルークの背中にぴたっとくっつく。
「ありがとう」
笑いかけると、ルークは相変わらず変なものを見るような顔をする。
その表情を見ながら、フィズは彼の腕と体の間に腕を滑り込ませた。
「じゃあ、早速特訓だね!」
「は?──え、ちょっと」
ぎゅーっと抱き締めると、そのままその体を後ろに投げた。
フィズの殺意から、さすがに事態が予測出来たのか、ルークは床に投げ出されなかった。
「いきなり何すんだこの馬鹿女! 特訓? あんたに稽古つけろってか?」
受け身を取って素早く立ち上がるルークに、フィズはにっこりと笑いかける。
「んなわけないでしょ。リュウホもクレアも、レオくんとあなたに面識があるんだよ?」
ルークが息を飲んだ。顔色がさっと引いていく。
「まさか」
そのまさかである。
フィズは仁王立ちになると、警戒するルークに指を突きつけた。
「レオくんはそんな悪人みたいな顔をしないの! 一晩で特訓します! まずはあの胡散臭い笑顔からどうにかして!」
「うわ! 絶対嫌だ! 絶対嫌だ!」
「つべこべ言うな!」
逃げ出すルークを捕まえると卍固めをする。
その日、フィズは初めて睡眠時間を犠牲にし、徹夜でなにかするという経験をした。




