第61話 命懸けの贔屓
しばしの休憩を挟んだのち、俺たちは再びサウナへと入る。
――強い。
ヴァルディスの成長力はハンパない。と、素直に思う。初めて戦った時も感じたが、こいつにはサウナーとしての凄まじい才能を感じた。
少なくとも、俺がこれまで戦った誰よりも強い。誰よりもサウナを楽しんでいる。
――凄え、つらい。
こんなに才能あるサウナーと殺し合わなくちゃならないなんて。
じっくり身体を温めていた、その時だった。
――バン!
扉が豪快に開いた。外の冷たい空気が、ほのかにサウナをかき回す。俺たちは、ピクリと反応して、来訪者を見やった。
現れたのはハッピ姿のアスティナだった。いつものようにロウリュウの準備をしての登場だった。
「アスティナ……?」
「悪いけど、手伝わせてもらうわよ」
「邪魔をするな。これは俺とヴァルディスの戦いだ」
「冗談じゃないわ。この戦いには、世界の命運が懸かっているんだから、指をくわえて見てるだけなんて嫌よ」
すると、ヴァルディスはほのかな笑みを浮かべて言葉を滑らせる。
「ほう、小娘。ベイルに加担する気か?」
「いけないことかしら?」
俺にだけ上質な熱波を与えて、ととのい度を上げる。それはあまりにもフェアではない。いや、アスティナはそのフェアではない行為を望んでいるのだろう。
「…………構わん。それがおまえたちのやり方だというのなら、好きにすればいい」
しかし、俺にも意地がある。
「出て行け、アスティナ。俺は、実力でコイツを捻じ伏せる」
「簡単に引き下がるコトなんてできないわ。勇者が仲間と共に戦ってなにが悪いのよ」
アスティナは、俺の言うことを聞かずにロウリュウを始める。サウナストーンに水がかけられる。バチバチと響き渡る音は、まるで俺たちの激闘の火花を演出しているかのようだった。
「もう一度言う、出て行けアスティナ――」
「うるさい! ひとりで背負い込むな! あたしは、絶対にあんたを勝たせなくちゃいけないの! それが、大魔道士リオンの娘としての使命なんだからッ!」
厄介なことになったと思った、その時だった。扉の向こうから声が聞こえた。
「別に、いいんじゃないかしら?」
そう言って、入ってきたのはもうひとりのアスティナだった。
「アスティナがふたり……?」
俺は、目を丸くしてつぶやいた。
「トーレスか……」
ヴァルディスは気づいたようだ。
変幻のトーレスの力ならば、アスティナを真似ることぐらい容易かったのだろう。口調までをもコピーし、彼は言葉を紡ぐ。
「そうよ。いくらなんでも、これはフェアじゃないわ。悪いけど、あたしはヴァルディスさんに協力させてもらう。いいわよね?」
「くっ!」
アスティナがタオルを鞭のように振るった。トーレスもタオルで応戦する。魔力を帯びたそれらが、バチンとぶつかり合った。
「こんなところで戦ったら、熱中症になって死ぬわよ? お互い熱波師なんだから、仕事をしましょうよ」
「誰が熱波師よッ! この偽者がッ!」
風魔法で切り刻もうとするアスティナ。トーレスも風魔法を放って相殺する。
「「やめろ」」
俺とヴァルディスが同時に言い放った。
「ここはサウナだぜ。静かにできない奴は出て行ってくれ」
「うむ。下がれトーレス」
たじろぐふたり。
けど、アスティナは引かなかった。
「わかったわよ。静かにするわ。けど、ここがサウナだってんなら、熱波師としての仕事をする権利はあるわよね」
そう言うと、彼女はタオルを振り回して空気を循環させる。トーレス(アスティナ)も同じようにタオルを振り回す。
「偽者に技術で負けるわけがないわ」
「どうかしら? あなたの一挙一動、真似させてもらうわよ」
俺とヴァルディスは、お互いを一瞥する。そして、フッと笑って彼女たちの手伝いを許すのだった。
☆
はっきり言おう。トーレスのコピー能力は侮れない。奴の動きを観察していたが、ほぼ完璧。
動きは当然だが、熱波にほのかな魔力を込めてリラックスさせる技術も真似できている。敵ながら見事だと言うほかないだろう。
冷水、そして外気浴。俺たちは完全にととのった状態となった。タイミングは同時。強襲をかけることはできない。
用意してくれていたタオルで身体を拭き、衣服と装備を纏う。すると、メリアがポーションを持ってきてくれた。
「ベイルくん。特別製のオリポです。生薬の種類を変えてみたのです。これなら、きっと翼が生えるぐらい元気になりますよ」
「ありがとう――」
するとヴァルディスのもとにもメリア(トーレス)がオリポを提供していた。さすがは魔王軍随一のコピー能力の持ち主といったところか。おそらく配合に関しても完全に再現しているのだろう。
「ふふ、あなたのオロポは完全に真似させてもらったのです。ズルは許さないのです」
俺とヴァルディスは一気に飲み干す。
そして――。
再び戦いが始まったのだった。




