第46話 自爆勇者ベイル
「きたか、勇者ベイルッ!」
トーレスは南門の方を見やると、うっすら笑みを浮かべた。
ベイルの能力は異端中の異端だと聞く。ヴァルディスですら、ととのった状態の奴には手も足も出なかったそうだ。
――けど、そんなの嘘っぱちだ。
ヴァルディスは、魔王軍最強。敗北したと言ってはいるが、誇り高いヴァルディスのことだ。きっと、なにかを隠しているに違いない。
罠にはめられたとか、卑怯な手を使われたとか。そうでなければ、負けるはずがない。
そういう卑怯な相手を、トーレスは得意とする。
魔王軍五大魔将の中でも、もっとも対応力の高い変幻自在な戦闘スタイル。勇者ベイルとやらが、いかなる戦法を使ってこようと、トーレスなら対応できる。
だが――。
「うん? なんか、凄くない?」
部隊後方から、ベイルが突っ込んできた。その勢いは凄まじく、奴が通過するだけで魔物たちが蹴散らされていく。まるで激流が、すべてを飲み込んでいくようであった。
「な……ッ!」
ノータイム。ノーブレーキ。ベイルは一瞬の躊躇いもなく、まっすぐにこちらへと向かってくる。
魔物たちの隙間から、ベイルの顔が見えた。奴の瞳は、トーレスの視線を逃さない。野生の勘か、それとも綿密な思考の結果か。トーレスが総大将だと認識したのか、矢のような勢いで、こっちに向かってきた。
――ヤバい。こいつはヤバいッ!
トーレスは、自身の身体をオリハルコンゴーレムへと変化させる。世界で最も硬いとされる魔物だ。どんな物理攻撃も無効にできる。
――なのに、奴は素手で殴りかかってきた。
「てめえが、この群のボスだな」
「~~~~~~~~~~ッ!」
拳がぶつかった瞬間。
トーレスが吹き飛んだ。温泉施設だったものをぶち抜き、さらに城壁を貫き、ホーリーヘッドの岩盤へと叩きつけられる。
吹っ飛ぶ速度と同じぐらいの速さで、ベイルが接近する。岩盤へとめりこんだトーレスへ、さらに拳を数発叩き込む。
――嘘だろッ!? オリハルコンの肉体がへこんでいる?
「くっ!」
トーレスが身体を巨大化させる。オリハルコンの肉体で、ベイルを押しつぶすかのように殴りつける。だが、奴は涼しい顔して、腕一本で受け止める。
ベイルが跳躍。腹部に蹴りを一撃くらう。派手に吹っ飛んで、再び岩盤へと叩きつけられた。
「ウルフィの仲間か?」
「う……ぐ……ッ! な、なんのことかな?」
「しらばっくれるのなら、容赦はしない」
ベイルの右手に魔力が収束していく。
それを見たトーレスは、さらに身体を変化。クリスタルオーガへと変身。全身が水晶の鬼のバケモノ。魔法を反射する特性を持っている。
ベイルが魔法を放つ。
雷魔法ライトニングボルトか。
「あはははッ! バーカッ」
全身のクリスタルが、ライトニングボルトを受け止め反射させる。反射させる……反射……反射……できない? え? アレ? なんで?
「う、嘘だろッ!? な、なんという威力ッ!」
――魔法を反射しきれない?
鏡は光を跳ね返す――跳ね返すが、その光が強烈なものだったら話は別だ。例えばだが、その光が太陽のように凄まじかったら、鏡そのものを溶かし、消滅させる。
規格外のライトニングボルトが、トーレスを襲う。
「ぐ……くっ……ああぁぁぁぁぁッ!」
雷撃がトーレスを焦がす。だが消滅寸前で、ベイルが魔法を止めた。
「はぁ……はぁ……」
トーレスは少年の姿に戻り、ベイルを睨みつける。
ベイルもまた、トーレスを鋭い眼光で睨めつける。
「……ウルフィの差し金だろ? 認めろよ」
「知るかよッ!」
――勝てない。
どう足掻いても勝てる相手ではないことを理解する。悔しいが、これほどの実力なら、ヴァルディスを追い詰めたというのも頷ける。
戦闘を続けるのは無意味とトーレスは判断。ホーリーヘッドは壊滅し、すでに目標は達成している。ベイルの実力が気になって藪蛇を突いたが、もはや三十六計逃げるにしかず。
――変幻。岩食いミミズ。
大木のようなミミズへと変化。
すぐさま岩山へとかぶりつき、潜っていく。
「あはは! さすがは勇者ベイル! ヴァルディスさんが一目置くだけのことはある。しかし、勝負はお預けだッ!」
山の奥深くへと潜るように撤退するトーレス。だが――。
「逃がさないぜ」
地中を追いかけてくるベイル。岩山をクロールするかのように掘り進んで向かってきた。
「なななな、なんだそのメチャクチャな能力はッ!」
嘘だろうッ! 人間の腕力で、岩を削れるのか?
ここは、岩食いミミズのベストフィールド。人間が、魚に勝てないように、この状況で岩食いミミズよりも早く潜れるわけがない!
そう思ったのだが、奴との距離が徐々に迫ってくる。
「うばぁあぁあぁぁぁぁぁぁぁぁバケモノォォォォォォォッ!」
「誰がバケモノだ。おまえの方が正真正銘のバケモノじゃねえか」
地中の中、ベイルにミミズの尾を掴まれてしまう。
「あぁあぁぁぁッ! 放せッ! 放せぇぇぇッ」
全身をくねらせ、足掻いてみるも、ビクともしなかった。そして、ベイルは不気味な笑みを浮かべてこう言ったのだ。
「自爆しまーす」
キュイイイイイイインと、ベイルが光り輝いた。次の瞬間、奴が大爆発を起こす。それは、ホーリーヘッドを派手に刺激し、噴火を誘発させるのだった。
☆
俺は、ホーリーヘッドの地層深くで爆発した。正確には爆発魔法を使った。自爆というのは比喩だ。
まあ、普通の奴だったら、あんな場所で爆発魔法を使ったら、自分自身も吹っ飛んでミンチになっているところだ。俺の場合は、肉体がととのっているから無傷。
トーレスはというと、かなり派手にやられたが、ギリギリのところ火の玉のような魔物に変化して、爆発耐性を高めたらしい。ぎりぎり生き残っていた。逃げられてしまったのは残念だ。
ちなみに火山は噴火。だが、こうなることは予期していて、フランシェたちに結界を張ってもらったおいた。おかげで、町は無傷。住民たちは事なきを得たのだった。




