第45話 ホーリーヘッド防衛戦
ホーリーヘッド温泉は、難攻不落の温泉施設だ。城壁には兵士が待機し、大砲などの兵器も常備されている。
城壁はすでに完成しているので、防衛もしやすい。なにかあればラングリードの町から10分以内に援軍が駆けつけられる道もある。有事の際には砦としても使える軍事施設になる予定だった。
しかし、この日――。
トーレス率いる魔王軍が、怒濤の如く押し寄せてきた。
「ついに、動きましたか……ベイルの読み通りでしたね」
夜のラングリード。
フランシェは、城壁の上からホーリーヘッドの方角を見やる。月明かりにさらされた魔物の軍勢が、凄まじい勢いで施設へと向かっていく。
ベイルが肩を並べながらつぶやいた。
「施設はどうなっても構わない。兵士たちの安全を優先に行動してくれ」
「かしこまりました。では――」
「ああ、俺はひとっ風呂浴びてくる。あとは、頼んだぜ」
そう言い残し、俺はサウナへと向かうのだった。
☆
魔王軍五大魔将。
変幻のトーレス。
彼は、万の魔物を率いて、ホーリーヘッド攻略を始める。近づくや否や、まず弓矢が浴びせられる。次いで、魔法部隊による抵抗。さらには大砲による砲撃。
だが、トーレス軍は怯まず城壁へと取り付いた。
兵力差は圧倒的で、すぐさま城壁を突破。その瞬間、敗北を悟ったのか、兵士たちは一目散に撤退を始める。
ウルフィからは『なるべく殺すな』と、言われている。これらも、生きていれば大事な客になるとのこと。なので、それらを見逃し、魔物たちは破壊行動に移る。
「しかし、見事だね」
トーレスは施設を見て驚愕する。
この城壁の中だけで、小さな町が成立しているようだ。ホテルも、レストランも、お土産屋も、武器屋も道具屋もある。
土地も余っているし、ここからさらなる発展が見込めただろう。潰しておいて正解だったかもしれない。
いや、これだけの設備があるのなら、魔王軍の拠点として使いたいぐらいだとトーレスは思った。
――けど、ウルフィには壊すよう言われてるからね。
魔物たちが、力任せに建物を破壊していく。瓦礫の山を築いていく。
「さて、ぼくもやるかな」
トーレスは右腕を伸ばした。すると、肩から先がみるみるうちに肥大化。膨張して、まるで大木のように膨れ上がる。やがてそれは次第に火竜の顔面を成した。
パカッと口を開いたかと思うと、喉の奥から火炎が吹き荒れる。家屋を次々に焼き尽くしていく。
「あはははははッ! 久しぶりに大暴れできるッ! 楽しいなぁッ! やっぱり魔物はこうでなくっちゃッ!」
――魔王軍こそ、ぼくの居場所だ。
一介のスライムでしかなかったトーレスに、居場所を与えてくれたのはヴァルディスだった。
この世界で『魔物』と定義されている存在で、もっとも最弱なスライム。トーレスは、その最弱の種族の中で最強だった。他のスライムよりも筋肉が豊富で、さらには色を変えることができる。知能も高い。
トーレスの故郷はスライムだけが生息するスライム島。世界でもっともスライムが安全に暮らすことができるとされている安息の地である。
――だが、ある日。魔王軍のヴァルディスがやってきた。
調査のための来訪だったみたいだが、危機感を覚えたスライムたちは、反射的に彼へと襲いかかった。結果、簡単に蹴散らされてしまう。いや、蹴散らされるもなにも、相手にすらならなかった。
トーレスも、仲間のために戦いを挑むが、余裕で潰されてしまう。スライムの中で最強といっても、所詮は最下位種族。考えてみれば当然。最強の蟻がいたところで、人間に勝てるわけがないだろう。
けど、負けるわけにはいかないと、トーレスは思った。
――もっと強くならなければ。
――仲間を守らなければ。
スライムの軟体な身体を駆動させて腕と足をつくった。さらには頭部もつくった。戦闘に置いて、どのような姿が有利なのかをヴァルディスとの戦いの最中で考えた。
結果、ヴァルディスとまったく同じ姿になった。
すると、本物のヴァルディスは『ほう』と、感心した。
初めての擬態。スライムの姿よりも戦闘能力が増した。だが、到底及ばず、数秒で叩きのめされる。
――けど、そんなトーレスをヴァルディスは認めてくれた。
『スライムのくせに、面白い能力を使う。おまえ、魔王軍にこないか?』
『アー』
言葉はなんとなく理解できたが、しゃべり方を知らなかったので、トーレスは『アー』としか言えなかった。
『俺は侵略しにきたわけではない。島の様子を見にきただけだ。もし、おまえが魔王軍に入るというのなら、この島を外敵から守るよう言ってやる。その代わり、魔王様のために働け。――俺は、強い奴は好きだ』
そう言って、ヴァルディスは手を差し出した。トーレスは、その意味がなんとなくわかったので、その手を取ったのだった。
その後、トーレスは魔王軍で働くことになる。雑用をしながら、言葉を覚えて、しゃべれるようになる。訓練もした。身体を変幻自在に動かせるようになると、より精密に擬態できるようになった。
さらに、魔法の使い方を覚えると、トーレスの才能は爆発的に開花した。魔法なんて使ったことがないから気づかなかったのだが、トーレスの身体には凄まじい魔力が内包されてたのだ。
肉体に魔力を込めると、身体を何倍もの大きさに膨れ上がる。コレを利用すれば、自分よりも遙かに巨大な魔物にもなれた。
トーレスの実力は、魔王もヴァルディスも認めるところとなる。
結果、世界で最も弱い魔物の、もっとも強い個体は、五大魔将としての地位を得ることになる。
幸運だった。あの時、ヴァルディスが手を差し伸べてくれなかったら、これほどまでに変幻自由な人生は送れなかっただろう。
ああ、楽しい。
自由は最高だ。
なんでもできる。
なんにでもなれる!
「あははははッ!」
トーレスが楽しく破壊行為をしていると、部下の魔族が叫んだ。
「トーレス様ッ! や、奴です! 奴が……勇者ベイルがきましたッ!」
襲撃開始から50分。どうやら、予定通り『奴』がととのったようだ。




