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第44話 ハイブリッド戦争

 ウルフィとベイルの、内政勝負は熾烈を極めた。


「くっ! マッシュガニン地区の鉄を売却。塩も売却。魔王城の酒はすべて売り払いなさい! 人型の魔物は、アルバイトをして資金を稼ぐよう通達! 世界各地の部隊は、森の中へ撤退。しばらく自給自足で生活するように! 一等地の土地を買い占め、カジノ尽きリゾートを建築するのです! アスティナさんを馬車馬のように働かせるのもお忘れなく!」


 社長室。ウルフィは、部下たちへと次々に指示を出す。


 その頃。ベイルも必死に対抗策を繰り出していた。


「カジノに対抗して、レース場をつくるんだ! かわいい女の子に、馬の耳を付けて走らせれば、儲かるような気がする! 貴族相手に、クラファンのお願いをするのも忘れるな。俺も『伝説のサウナーが案内する観光ツアー』を企画する! とにもかくにも、ここが正念場だ! もう少しでホーリーヘッド温泉が完成する! それまでの辛抱だ!」


 観光の派遣を賭けた一戦。だが、奇しくも拮抗状態。そうこうしているうちに、ラチがあかなくなったウルフィが動くのだった。


「ウルフィ様……さすがに資金が限界です。すでに、我々ダークエルフも不眠不休で働いている始末。ウルフィ様のためなら、この命尽きるまで働く所存ではございますが、このままでは事業停止もありえるやも……」


「くっ……!」


 社長室。

 ウルフィは大勢の前で、頭を抱える。


 ――まさか、ベイルがここまでしつこいとは。


 現状、両陣営が赤字。集客のために、建築や広告、企画費用などバンバン資金を垂れ流している。まさに血を地で洗うレッド経済。否、デッド経済。


 ウルフィは、これ以上、部下たちに『がんばれ』とは言えなかった。彼らは、ウルフィの命令なら、本当に死ぬまで働きかねない。


 このままでは……。




 その昔、ウルフィはダークエルフの森で『賢者』と呼ばれていた。誰よりも頭が良く、誰よりも知識に富んでいた。困りごとがあると、誰もがウルフィを頼る。


 農耕も治水工事も、建築に関しても、ウルフィの言うことを聞けば、すべてが上手くいっていた。


 だが、ある日。

 魔王軍が攻めてきた。


 敵の総大将はヴァルディス。魔王軍でもトップクラスの実力である彼が、数多の部下を率いて森を襲撃してきたのだ。


 ウルフィは、すぐさま策を練ってゲリラ戦を展開。魔物たちを次々に蹴散らしていく。


 だが、どうしようもなかったのが、総大将のヴァルディスだ。純粋な力でダークエルフたちを圧倒。小細工が通用せず、蹂躙してくる。


 敗北を悟ったウルフィは、彼との話し合いの場を設けた。


『――目的はなに?』


『魔王様が、ダークエルフの力を所望している』


『それは、奴隷になれということかしら?』


『自ら従うか、それとも力尽くで従わされるか。好きな方で構わん』


 人間社会に紛れ込むことのできるダークエルフは貴重な存在。魔王としても、配下に欲しかったのだろう。


『私たちにメリットがあるのかしら?』


『知らん。俺は、ダークエルフを従わせろと言われただけだからな』


『じゃあ、取引をしない? ダークエルフは魔王の期待する働きをする。その代わり、安住の地を約束してもらうわ』


『魔王様に直接言え』


『いいわよ。じゃあ、これ以上の争いは無用ってコトで、問題ないわね?』


 これ以上、戦いを続けても無駄だと悟ったウルフィは、すぐさまダークエルフたちを説得して、とりあえず降伏させる。そして、単身で魔王城へと赴き、交渉をした。


 結果、魔王に条件を飲ませることに成功する。


 ウルフィの内政力は凄まじく、すぐさま魔王軍にいなくてはならない存在となった。


 しばらくして、彼女は五大魔将のひとりに抜擢され、魔王軍に尽くすこととなる。対価としてウルフィは魔王軍に忠誠を誓うこととなった。


 ダークエルフの民は、ウルフィの行動が常に正しく、自己犠牲の精神の上に成り立っていることを知っている。ゆえに、彼らはウルフィのために働くことを厭わない。


 そして、ウルフィもそのことをわかっている。いざとなれば、この子たちは命を省みずに動く。それだけはさせたくない。ダークエルフは閉鎖的な民族だが、同族には寛容で誇り高い――。


「こうなったら……ホーリーヘッドの温泉を襲撃します」


 勝敗の鍵を握るのはホーリーヘッド温泉になるだろう。アレこそ、ベイルの要となる施設。完成したあかつきには、客をすべて持っていかれてしまう。


 だが、壊すことさえできれば、連中の計画は泡沫となるだろう。


「し、しかし、それはテロ行為では……」


「我々がやるのではありません。魔王軍にやらせるのです」


 ダークエルフは、あくまで一市民。魔王軍が勝手にやったことにすればお咎めナシ。これは事故だ。魔王軍襲撃という災害で終わらせる。


「――トーレスに連絡して、ホーリーヘッド温泉を壊滅するように言ってください。それで、我々の勝ちです」


 ――町から離れた場所につくったのが運の尽きだ。


 近い未来、ラングリードは陥落する。そうしたらダークエルフの世が始まる。人間たちを支配し、いずれは生態系の頂点に立つ。やがては魔王ゲルギオラスも倒し、ダークエルフが世界を支配する時代がくる。


 そう信じて、ウルフィは野心を燃やす。


      ☆


 一方そのころ魔王城。


「はぁ……はぁ……」


 魔王ゲルギオラスは苦しみの絶頂にいた。これまで散々贅沢の限りを尽くしてきた魔物の王が、ウルフィのせいで食事を減らされてしまったのである。


 ――いまでは、二日に一回の食事。


 城一番の大食漢である魔王の我慢こそ、食糧難を乗り切る最善の一手。部下たちに、食料を効率よく分配できるのである。


 ――いまは、我慢だ。


 もう少しで、ラングリードの町を陥落できると聞く。トーレスが軍団を率いて、最後の詰めに向かった。


 ――あと少し。あと少しだ。


「魔王様! 二日ぶりの食事でございます!」


 召使いたちが、巨大なテーブルを用意。そして、食事を運んでくる。


「うむ!」


 やっとだ! ようやくカロリーを摂取できる! もうちょっとだけがんばれることができる!


 凶悪かつ無骨な顔面が、邪悪な微笑みを浮かべた。


 ――だが。


「なんだコレは……?」


 テーブルにあるのは、巨大な皿に盛られた白い粉。それだけだった。


「はッ、小麦でございます」


「小麦……だと? ど、どういうことだ?」


「そ、それが……小麦を調理するだけのコックがおらず、このままお出しするしかなかったのでありまして、その……」


「なん……だとぉッ!」


 任務遂行のため、トーレスが城内の魔物を連れて行ってしまった。食糧難に続いて、人材難も発生していた。そして――。


「残った魔物のほとんども、食料調達のために出払っていまして――」


 暇な奴らは、全員狩りへと出かけたそうだ。食料調達とか言っておきながら、きっと、捕まえた獲物をその場で食べているに違いない。


 おそらく『なんの成果も得られませんでしたぁ!』とか言って、腹一杯になって帰還するに違いない。ちなみに、草食系の魔物のせいで、城の周囲は砂漠化を始めているらしい。


「……この小麦を……生で食えというのか?」


「水も御用意いたします。嫌なら、お下げいたしますが?」


「……いや、食う」


 二日ぶりなのだ。ここで食べねば、勇者に滅ぼされる前に餓死する。この巨大な身体を維持するためには、相当なエネルギーが必要なのだから。


 空腹を対価に、ウルフィの計略は大詰めを迎えている。


 だがこの時、魔王ゲルギオラスは、魔王軍こそ追い詰められていることに、まだ気づかないでいた。

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