No.8 一話 ~07~
紅葉の始まる季節の街はいつも以上に色あせて見える。そんな寂れた街外れの路地に甲高い銃声が響いた。車の中でもはっきりと聞こえてくる銃声に俺はポンコツの車を降りる。ドアを開くたびに悲鳴を上げるこの車もそろそろ換え時かもしれない。
咥えた煙草の煙が目に入って酷くしみる。安物のコートを靡かせながら先ほどから銃声の響く裏路地へと進んだ。
「クソ餓鬼が! ぶっ殺してやる」
身なりからしてまともな組織の人間ではなさそうなチンピラが、拳銃に弾を込めながらゴミ箱の陰に隠れる子供に狙いを定めている。
「子供相手にそんなものを振り回すな」
俺はチンピラの背中に向かって言葉を投げかけた。振り返るチンピラは充血した目を見開いて俺に銃口を向ける。どうやら薬をやっているらしい。小刻みに揺れる口元からはだらしなく涎が垂れていた。
「うるせぇ!てめぇからぶっ殺すぞ!」
「その腕で当てられるなら撃ってみればいい」
チンピラとの距離はそんなにあいていない。それでも俺には相手が撃ってきても当たらない自信があった。その自信の通りチンピラの拳銃から放たれる弾丸は壁や足元にぶつかり、まともに飛びやしない。
「くそ!腕が震えやがる」
震える腕をもう一方の手で押さえるチンピラに俺が歩み寄っていく。チンピラが俺に気がついてまた引き金を引いた。頬に走る赤い糸。滴る血が顎を伝いシャツの襟に赤い水玉模様を作った。その僅かな時間に俺はチンピラの脚を払い、組み伏せていた。チンピラの拳銃を拾い上げ、弾倉を確認。倒れたチンピラに二発打ち込んで俺は拳銃を捨てる。
顔を上げるとゴミ箱の影から恐る恐る顔を覗かせる少女と目が合った。手には大事そうに男物のかばんが握られている。そうか、あの子供はこの男から鞄を盗んだんだ。俺は短くなった煙草を地面に捨てて踵で踏み消した。
「火、持ってるか?」
新しい煙草を咥えた俺が少女に語りかける。格好をつけてワザと彼女の目を見ない。それがクールだと思っていたんだ。少女は慌てて鞄からマッチを取り出して俺の傍にやって来た。そして震える手で火を点す。俺は腰をかがめてその火を煙草の先に移した。
吸い込む紫煙が体中に染み渡る。少女は俺をうっすら涙の浮かぶ目で見上げている。幼いながら俺が危険な人間だと感じているのだろう。でも逃げ出すほどの勇気が無いらしい。俺は帽子を脱いで少女の頭にかぶせた。
「お前、名前は?」
「・・・・・・イキシア」
風に乗って耳に届く小さな声。俺は帽子の上から彼女の頭を撫でた。
「ついて来い。泣き虫イキシア」
普段滅多に見せない笑顔を浮かべて俺は、彼は、イド・リヴァーは言った。
第八回。
今回は短くまとまりました。本来の(?)イド・リヴァーが登場する数少ない場面。現実世界でも過去が人を作り出すもので、小説の中でもまたしかり。もっとイド・リヴァーの人物像を表現したいですが、それはいつか別の機会に。今はクレイマンの物語を楽しんでいただけたら幸いです。
ご意見ご感想、お待ちしております。
青六。




