No.6 一話 ~05~
結論から言おう。どうやら結束式とは私たちを呼び寄せる口実に過ぎなかったらしい。会議室の大きな円机に座る街の有力マフィアの幹部たちは最後に入室した私たちを一斉に見つめてくる。ぞっとするような寒気が背中を走り、暑くも無いのに汗が背骨に沿って流れ落ちていく。
「さて、主役も揃ったようだ。会議を始めようか」
深く重たい声が部屋に木霊する。ルッソファミリーのボスの声だ。
私たちは案内人に導かれるまま席に着く。席につくといっても座るのはもちろんボスであるクレイマン一人で、私はその後ろで目立たないように立っている。他のファミリーの幹部とはあったこともないので誰がこの場を仕切る者で、誰が招かれたものなのか分からない。
ただ、招かれたであろう者は私たち以外に三組居るようだった。どうして分かるかと聞かれたら私はこう答える。皆私と同様に強張った顔をしているからだ、と。人の事は言えないがまるで顔面が筋肉痛で上手く笑えてないような、そんな表情。自分も彼らと同じ顔をしているのかと思うとやるせない気持ちになった。
「皆様、今日は忙しい中ここにお集まりいただき感謝する」
ルッソ・デミチェンコが髭を揺らしながらゆったりとした余裕のある言葉使いで一人一人の顔を見ていく。
「今日集まっていただいたのは、彼ら新しいファミリーをどう扱うかについて話し合いの場を設けるためです」
まんまと嵌められた。私は悔しさで拳を握り締めた。この場は私たちファミリーを新たな勢力として認めてもらえる場でも、私たちの努力をねぎらう場でもない。ここはただ単純に新たな諍いの種になるかもしれない私たちを黙らせるための場所だ。それが今のデミチェンコの言葉ですぐに分かった。
この街にはもう幾つものマフィアが存在する。ルッソファミリー、バッソファミリー、オースティンファミリー。有名どころはこの三つ。その他にも規模の小さい組織が十近くあり、私たちのように所定のしまを持っていない半分チンピラのような集まりは山ほどある。その一つ一つが小競り合いを起こしては街で騒ぎになっているのだ。
だが水面下で徐々に力をつけてきている有力な若手は大手の彼らにとっては大きな火種になる可能性がある。そしてその火種が自分たちを焼き殺す業火にならないとも限らない。つまり、彼らはそんな危険な芽を早めに摘んでおきたいのだ。
「遠まわしに言ってもしょうがありまへんで、ミスタールッソ。彼らも話し合いなんて面倒なことしてる暇ないんとちゃうか?」
オースティンファミリーのボスが田舎者っぽい口調で鼻の穴に指を突っ込んだ。この街で三番目に大きなファミリーのボスとは思えない態度だ。
「早い話、どのファミリーに加わりたいかっちゅう話やで。ほら、端から言ってき!」
おそらく相当高級なハンカチーフだろう。刺繍の入ったそれで鼻くそをふき取り、全く興味が無い態度でオースティンファミリーのボスが口にした。
「オ、オースティンファミリーに・・・。」
私たちとは反対側に座る男が唇をかみ締めて小さな声で言った。男の後ろに立つ付き人も顔には出さないが悔しいのだろう。視線を足元に向けていた。招かれた私たちは円机の端から一人ずつ、言葉を詰まらせながらも希望のファミリーの名前を出していく。
私は無意識に下唇を噛み締めていた。この状況でこの申し出を断れるはずが無い。断れば組織もろともフラエズ河の河床へ沈められてしまう。
そろそろ私たちの回答の順番がやって来る。私は悔しさのあまり曇っていく視界を隠すために瞼を閉じた。
「とんだ茶番だ」
とんでもない言葉が聞こえたような気がして私は慌てて目を開いた。もしかしたら聞き間違いかもと思ったが、間違いようの無いクレイマンの声が続く。
「私はルッソファミリーでもバッソファミリーでもない」
一度言葉を区切ってクレイマンがゆっくりと席から腰を上げた。
「ここに居るのはリヴァーファミリーの、イド・リヴァーだ」
言葉にするにはあまりに恐ろしいその台詞をクレイマンは淡々と、そして堂々と言い放った。そして帽子を片手に私に向かって小さく合図する。
「帰るぞ」
「・・・・・・」
私はあまりの出来事に声が出ない。とりあえず首を縦に振ってみたが上手く体が動いてなかったような気がする。今はその恥ずかしさよりも恐怖と驚きが勝っていた。
「待ちたまえ」
クレイマンが会議室の扉を押したとき、私たちの足を止める一声がかけられた。ルッソ・デミチェンコだ。猫の毛が逆立つように体中に鳥肌が立った。だがクレイマンは違ったらしい。一度扉にかけた手を離し、余裕を持って振り返ると包帯の下から覗く瞳に強烈な覚悟と意思を灯らせて口にした。
「クソ食らえ」
イドがまだ私たちのボスになる前からの口癖だ。それを言い放ち、クレイマンは今度こそ扉を開く。
このタイミングでその言葉が出るものだろうか。クレイマンは本物のイド・リヴァーにも負けないほどの度胸を持っている。本当に心のそこから褒めてやりたいようなそんな不思議な気分になった。
会議室を出た後、クレイマンは帽子を目深にかぶって特に急ぐ様子もなしに絨毯の敷かれた廊下を進む。何だろう、この感じ。私はその背中に手を触れたいのを我慢して黙ってその後ろについて行く。だが一つ分からない事がある。確かクレイマンに見せたボスの注意事項の中に『クソ食らえ』の口癖は書いていなかったような気がしたからだ。もしかすると偶然なのかもしれない。だが、これはただの偶然ではないような気がした。
第六回。
今回も読んでいただき有難うございます。ところでサブタイトル、分かりにくくないでしょうか? 自分で書いておいて、なのですが…。そんな細かいところもご意見お待ちしております。
青六。




