「十二式神とその主」
「な、なんだ、これは……こんなことが……」
間抜けな驚き声が聞こえる。
「そんな、私の血と負の感情で固めたクリスタルが」
「ようやく会えたね、おじさん。いや、時雨っ!」
「阿保、孔弌……」
「僕はお前の道具なんかじゃない……それを今から証明してみせる」
「くぅっぅ……」
「例え僕がお前に創られたのだとしても、お前の計画通りの人生を歩んできたとしても……それがどうした! 僕は阿保孔弌! みんなもお前の道具なんかじゃない、僕の大切な家族だ!」
「何をふざけた事を……」
「そして……」
こんなに怒ったのは生まれて初めてだ。
僕の人生を弄び、皆の心を弄び、蛍さんを傷つけて、町を壊して、リュウをっ!
「お前だけは、僕達が直々に決着をつけてやるっ!」
「……ボクも、絶対に許さない。ボクは、孔弌の式神!」
「天后の位……」
「兄ちゃんの敵は、僕の敵だ。あんたはここで灰にする!」
「朱雀の位……」
「悪いな。かつての主といえど、ここで手加減する程私は優しくない。地獄以上の苦しみを味わわせてやる!」
「勾陳の位……」
「あなたなんか、大っ嫌いですっ! 例えどれほどの力があなたにあろうと、必ず射抜きます!」
「六合の位……」
「二度と笑えなくしてやるよ、創造主様よ!」
「太裳の位……」
「僕の氷は、あらゆるものを停止させます。決してあなたを逃がしたりはしません。覚悟はいいですか」
「氷凍の位……」
「そなたの行ったわらわ達への無礼の数々、しかと罰を受けてもらうぞ、醜悪な式神術者」
「貴人の位……」
「主の意向だ。……お前を叩きのめしてやるっ!」
「白虎の位……」
「私は、孔弌の、皆のための力になりたいっ! 仲間と共に!」
「騰蛇の位……」
「ここまでされると流石に僕も気分が悪いんでね、消えてもらうよ時雨」
「青竜の位……」
「覚悟はよろしいですか? ド腐れ野郎様」
「太陰の位……」
「仕えるべき主を見つけたのなら、もう迷う必要はない。あんたとの700年の因縁にケリをつけさせてもらう」
「天空の位……」
「それがどうした。いくらお前達一体一体が神以上の力を持っていたとしても、私はそのお前達の力を写し取りひとつに集めているのだぞ」
わかっていたけど、どうやら本当に僕たちが結界から抜け出しても時雨の力は強化されたままらしい。
元々蛍さんと戦いになるぐらいに強かったけど、今はそれ以上のとてつもない力を感じる。
「でもそんなことがどうしたって言うのさ。僕にはこんなにも頼もしい式神達が力を貸してくれるんだ、あんたにだって勝てるさっ! いくよ、みんなッ!」
僕の掛け声と共にそれぞれ散っていく。
打ち合わせをしたわけでも、戦闘経験が豊富なわけでもない。でも、できると思う。
「僕に合わせてっ!」
散っていたそれぞれに指示を出す。
「アルテ、麗姫、碧鮮っ!」
「あぁ!」
「うむ」
「わかったよ」
声を呼んだだけで三人は僕の意図を読んでくれる。
この三人には元々指揮能力がある。
僕の手の届かない所の指示はこの三人に任せて、他の皆にも指示を出す。
「テンちゃんっ!」
指示といっても、こうやって名前を呼ぶだけ。
「……うんっ」
それだけで伝わる。
周囲を取り囲んだ皆を緩急付けて動かしていく。
攻撃を行いつつ、前衛と後衛を入れ替える。
敵を霍乱したり、攻撃を乱したり防いだりする。
奇襲をかけたり、プレッシャーをかけたりする。
敵の動きを読み、仲間の動きを読み指示を出す。
各個撃破されないように陣形と構成を次々と変えていく。
僕以外にはみんなが不規則に動き回っているようにしか見えない。
もしかしたら当の式神達も、全体の動きは把握できていないかもしれない。
そのぐらいにバラバラに、みんなに動いてもらっている。
「……孔弌の声、すごい。体が暖かくなってくる……」
水を巧みに操って、牽制と防御を入れながら前衛で戦うテンちゃん。
「体が、自然に動くよっ!」
炎による牽制と奇襲をして、接近戦で取り付いて相手を惑わすスザク。
「まったく、お前には敵わんな。スザク、秋月、側面を!」
他のみんなに細かい指示を出しながらも直接正面からぶつかって行くアルテ。
「私も、役に立てるっ!」
弓による遠距離射撃で敵の攻撃を払い落としつつ攻撃するアロ。
「まるで心が震えるみたいだぜっ! はぁぁっ!」
素早い動きで撹乱しながらも、一瞬の攻撃を繰り出すセラ。
「ここが、僕の居場所」
氷の盾を使って、敵の大技に割り込んで味方を庇い続ける。そして時にはテンちゃんの出した水を氷にしてチームワークを高める氷凍。
「わらわも興がのってきたわっ!」
小競り合いを全て布で受け流し味方を庇う。その一方で遠距離から大技を狙う麗姫。
「余所見をしている暇はないぞ」
風を使って攻撃を逸らしたり、スザクと一緒に不意打ちで敵を惑わす秋月。
「いくよ、はああぁぁぁぁあぁぁぁっ!」
武器を完全に開放し敵に大ダメージを与える主砲の晩霞。
「氷凍、秋月、左から来るよ!」
敵の攻撃を察知し、それを事前に味方に伝えながら近中距離で戦う碧鮮。
「主の命ある限り、私はそれに従うだけですっ!」
味方を守ったり、カードで敵の動きを封じるリエラ。
「ほうら、隙だらけだぞ」
死角からの攻撃で常に敵の注意を逸らし続ける涼夜。
更にその役割を完全に固定させずに流れるようにローテーションさせていく。
敵を中心に360度、空中すらも飛び回りあらゆる方向からの波状攻撃。
そして僕もみんなに指示を出しながら戦う。
刀で切り結ぶ。炎を飛ばす。盾で味方を庇う。風で攻撃を逸らす。
「こんなことが許されるわけがないっ!」
時雨が特大の炎球を放ってくる。その直線状にいるのは無防備になっているアロだ。
「麗姫っ!」
「うむ、承知した」
麗姫が即座に回り込みその炎を布で防ぐ。
「何故だ! 何故お前達が他のものを庇う! そんな風に創った覚えはないぞぉっ!」
「あぁ確かにこういうことは知らなかった。だが、新しい主が教えてくれたのだ、家族は助け合うものだとな!」
「こんな、こんな……」
「諦めろ時雨。これが器の違いだっ!」
アルテが時雨の脇に刀を滑り込ませて、そのまま薙ぎ払う。
「十二式神の力をひとつに集めたあなたと、十二式神とひとつになった孔弌。その違いが出てきたね」
飛んでいった時雨に碧鮮が電撃を直撃させる。
「みんな今だっ!」
僕の掛け声に皆が飛んで行った時雨を中心に円弧状に広がる。
「いっけぇっ!」
『おおおっ!』
僕の掛け声に全員が全力の一撃を放つと、けたたましい爆発音が響く。
町の修繕費って僕らが払うことになるのかなぁ……。
「っと、そんな事よりこれで倒せたかなっと」
「まだ、じゃ……」
「蛍さんっ、平気なの?」
ヨロヨロと体を動かしながら蛍さんがやってくる。
「うむ。沙羅が、応急処置をしてくれたのでな。尤も術は使えないので、物理的な応急処置じゃが」
「そういえば、その沙羅は?」
「今はリュウを安全な場所に運んでおる。わしもすぐにそっちにいってリュウの応急処置をしてくるのじゃ……。すまぬが後は任せるぞ」
そうだ、そういえばリュウは……っ!
「安心しろ……とは残念ながら言えぬ。じゃが、リュウもあれでわしの四倍生きているとんでもない大妖怪じゃ。信じるしかない」
信じるしかないって……。
「孔弌よ。リュウを助けに行きたいのならば、今はとにかく目の前の厄介ごとを片付けるべきじゃ」
そう言って蛍さんが硝煙のほうに向かって刀を構える。
「ふっふ、ふふふ、さっきのは流石に効きましたよ」
ゆらりと煙から人影が出てくる。
「もう、許さない。お前達を皆殺しにして、この町もろとも消してやる!」
「誰も許してもらおうなんて思ってないから安心しろっ!」
刀を出して時雨に向ける。
「はぁぁぁあああああああっ!」
時雨の体からとんでもない量の力が溢れ出す。
霊力はまるでオーラのように時雨の体を包み込み、その形をジグザグと鋭利に変化させ続ける。
「はははははっ、すごいすごいぞッ! まだこんなにも力が溢れてくるのか!」
歓喜に打ち震える時雨の姿。だけどそれは、とても邪悪で醜い姿に思える。そう、例えるならまるで黒い光を放つ日輪。
時雨が腕を薙ぐ。ただそれだけの動作だった。
「え?」
何が起こったのかわからなかった。気がついた時には僕の体は建物にめり込んでいた。
今の、たったあれだけの動作で体を飛ばされ、後方の建物に叩きつけられたっていうのか。
「がっ、あぁ……」
理解と共に痛みが体に響く。血の逆流、息の逆流、様々なものが体の中で逆流している感覚。何もかも思い通りに動かない。
「僕はずっと憧れていた、強さに! 強いというとは、すなわち美しいということ。それを追い求めているだけなのに、どうしてこうも毎回邪魔が入るんだ!」
こいつは……、自分の行動に全くの迷いがない。
「だってそうだろ? 間違ったことはしてないだろうに。なのに君達のようにいつも僕の前には邪魔が入る」
「狂ってる……」
こいつは、まるでどす黒い悪意の塊。自分を信じて疑わない、最低のナルシスト野郎だ。
「そんなことの為に……僕を、皆を苦しめて踏み台にして……」
「自分で作った料理を自分で食べるのは何がいけないんだい?」
そう言って僕の方を向いて腕を向けてくる。
「もうこの力を手に入れた今となっては邪魔なんだよ。全員」
紅色の光線が真っ直ぐ動けない僕に飛んでくる。
「はぁっ!」「たぁっ!」
そこにテンちゃんとアルテが割って入ってくる。
「大丈夫か、孔弌!」
「……今度はボクが孔弌を庇うからっ!」
「うおぉっぉおおっ!」
他のみんなも、さっきの攻撃でぼろぼろになってしまった体を引き摺りながら攻撃を止める。
「しっかりしろ、孔弌。お前は俺達のボスなんだぜ?」
セラの伸ばす手につかまり起こしてもらう。
「うん、ごめん……ッ、よし、さっさとあいつ吹っ飛ばして皆で家に帰ってご飯食べようっ!」
「あぁ」
「そういえばもうすぐ朝食の仕込をしないといけませんね」
「僕もうお腹ぺこぺこだよっ! 帰ったら朝ごはんの前に何か食べようよ」
「私は孔弌の作った豚汁が飲みたいかな」
みんなの笑顔を見ていると不思議と僕も力が湧いてくる……。
「さて、そうと決まったらそろそろ何か次の策を練らないとやばいね」
「あぁ、碧鮮の言うとおりだ。正直かなり辛い」
「そうこう言っておるうちに、きたぞっ!」
時雨から飛んできた攻撃を散開してかわす。
確かにこのままじゃ勝ち目が……。
十二式神の力をひとつに集めて強化されたあいつの力ははっきり言って僕達全員の力を合わせても届くかどうか……。
「くそぉっ! どうすればいいんだ! 僕に、もっと力を!」
僕が叫んだその時、突然それは起こった。
「あれ、何これ……!」
左手の模様が今までに見たことのない光を放ち始めた。
いや、見たことのない色というか、模様がすごい速さで回転しだした。
「くぅぅうっ!」
そのあまりに眩い光に直視することができず、思わず目を細める。
「な、なんだこれはっ!」
声のしたほうを見るとアルテの体が光り輝いていた。
いや、アルテだけじゃない。式神達全員の体が光を放っていた。
「む……吸い寄せられる……」
式神達はそのまま光になって僕の左手に飛んできた……。
「な、何が起こったの?」
見渡してもみんなの姿はどこにもない。
あるのは少し離れたところで力を溜めている時雨の姿だけだ。
そんな……みんなが消えた!?
『……案ずるな孔弌、私達はここにいる』
アルテの声がどこからか響く。
『はい、どうやら私達はあなたの中にいるようです』
次いで聞こえてくるリエラの声。
え?
……どういうこと?
『これは、一体どうなったんだろうね……はは』
呆れたように笑う晩霞の声。
『私はただたんにどうにかしてあいつを倒したいと思っただけなんだが』
『……ボクも。ただ、孔弌と一緒にあいつを倒したいって強く願っただけ』
『どうやらこれもお前の体が持つ特殊能力の副産物、または神装具の力か。どちらにしろお前の力らしいな』
『あぁ、細かいことはどうでもいいんだよ! 要するに合体したってこったろ?』
なるほど、合体か。
『まぁセラの言うとおり細かい事はなしだ。とにかく私達の力を全てお前に集めた。これであいつを倒せ』
『……孔弌、行こう』
これで僕もあいつと同じようにみんなの力をひとつに集めたってわけか。
それなら条件は互角……。いや、それ以上だ!
次で12章が終わります。
その後エピローグで物語完結となります。




