「十二式神集結」
「いやぁ、悪いな。実はむちゃくちゃ腹減ってたんだ」
がつがつと朝食を貪る天空の位。
「で、お前は結局何しにきたんだ? こんな真正面から堂々と。隠密妖怪が聞いて呆れる……」
「ごちそうさまでした」
「話聞いてなかったみたいだね。アルテの質問は超絶スルーされてるっぽいよ」
「孔弌、ちょっと部屋を汚すかもしれないけど後でちゃんと掃除するからな?」
「落ち着いて、落ち着いてよアルテ」
アルテが暴れたら取り返しが付かないくらい部屋が崩壊する! なんとしても阻止だ!
「ふぅ、世話になったな。じゃ、あばよ」
と言って部屋から出て行こうとする。もしかしてただ飯食べにきただけ!?
「おいこら、まだ話が済んでないぞ」
アルテは部屋から出て行こうとする天空の位の肩を掴む。
「話? 何の話だ? あぁ、さっきの話か。隠密なのに堂々と来た件だろ? そりゃ俺が情けない事が嫌いだからさ。こそこそするなんてかっこよくないだろ」
「さっきのは聞こえてたのに無視してたッ! しかも聞きたいのはそこじゃないし!」
それにしてもなんという大物。他人の話なんかより己の食事とな。
「話を逸らすな。お前のそういうところは本当にどうにかならんのか」
アルテがやれやれといった感じでため息をつく。
「と言われても、本当にこれといって話すことはないはずだが」
本当にわからない風に首をかしげる天空さん。
「お前が何をしにきたかを聞かせろ」
「飯を食べに来ただけなんだが」
やっぱりただ飯食べに来ただけだったよッ!
「まぁ、それならご飯代の代わりに少しこっちの話に付き合うのが筋なんじゃないかな」
碧鮮が天空の位の前に回りこむ。
「そうだな、いくらなんでもただ飯は失礼だったな。食い逃げはかっこよくないな」
そう言い再び席に戻る。
どうやらそれなりの礼儀は弁えてらっしゃるみたいだ。というか謎の信念?
「まず質問だ。何故お前はここに私達がいると知っていた?」
「そりゃ、町の妖怪に聞いたんだ。たまにお前達が固まって行動をしているのを見かけたからな」
なんという正々堂々とした手段。本当に隠密なのか怪しくなってきた。
「そうか、ならばこちらの事情も理解しているのだな?」
「まー、それなりにな」
どうも噂話は聞いてるみたいだし、町の妖怪が知っている程度には僕たちの現状を理解してるんだろう。
「ならば単刀直入に聞くが、孔弌の式神になる気はあるか?」
「んー、その質問に答えるのは難しいな」
難しい……か。そりゃそうだ、まだ僕のこと全く知らないだろうし。
「"仮に今の俺に従う意思がなかったとしても、いずれ俺はお前の式神になるだろう"」
「…………どういうことだ?」
アルテの疑問には僕も同意だ。結局どういうことで、何が言いたいんだ。
「そうだな。今か明日か、一年後かは知らないがそのうちお前の式神になるだろうと言うことだ」
「……天空の位、そなた何か掴んでおるな?」
射竦めるように天空の位を睨みつける麗姫。
「俺から言えるのはそれだけだ。明確な答えになってなくて悪いな。だがいずれお前達もわかるだろ」
「つまり今すぐ僕の式神にはなってくれないってこと?」
「質問に質問で返すようで悪いが、逆に聞いてもいいか? 孔弌は俺に式神になってほしいのか?」
「僕はなってほしいよ」
「そうか。だが果たしてそれは本当にお前の意思か? 周りの期待や成り行きによって自分の行動を決められていないか?」
そう言われると確かに期待や成り行きってのも少しはあると思う……。
「でも、僕はちゃんと式神になってほしいって意思を持ってるよ」
今まで何回もその事は思ってきた。
「だが、お前が自分の意思だと信じているそれも周囲の環境によって刷り込まれ歪められた偽りの意思かもしれないぞ?」
「例えそうだとしても、それも含めて今の僕の意思があると思う。だって周囲に影響を受けるのは当然じゃない? だったらそれを受けとめて自分が昇華する足場にしたらいいと思う。大切なのは疑うことじゃなくて信じることじゃないかな。せめて自分の意思くらいさ」
そもそもいちいちそんな事考えてたら、自分って言うものが一体なんなのかわからなくなってくる。
「………………」
天空の位は少し驚いてるみたいだ。そんなに変なこと言ってるかな僕。
「てっきり強い心を持てば周囲が何を言おうと意思をしっかり持てるとかそういう答えが返ってくると思ったが、なるほど受け止めるか。確かに周囲からの影響が全て悪いものとは限らないからな。かっこいいぞ」
「……おい秋月、孔弌がまともな事言ってるぜ?」
「……あぁ。おい、氷凍、お前今朝の朝食に何を混ぜたんだ?」
「え? 僕は特に変わったものが入れてませんけど……。そういえばリエラさんも朝食作るの手伝ってましたよね?」
「私が主人に何か盛ったと仰るのですか?」
そんなに僕が真面目なこと言ったら可笑しいの!?
「よっしゃ、なってやろうじゃないか。いっちょ式神に」
「え、いいの?」
「あぁ。そして式神になるからには、何があろうと俺は必ずお前についていこう」
あっさり決めたわりにすごい覚悟だ……。
ん~、しかしそうなると名前だな。
とりあえず隠密っぽい名前を……。
「よし、涼夜だ! 君の名前は涼夜だ!」
隠密っぽい名前かどうかは甚だ疑問だけど、パッと頭に思い浮かんだ名前を叫ぶ。
僕の言葉と同時に深紫色の光が部屋を満たす。
これで十二式神が全員集まったのか。
なんというか、あっけない最後だったなぁ……。
「ん、もういいのか?」
「うん、これからよろしくね」
「あぁ。涼夜か。お前から授かったその名、大切にすると誓おう」
「えっと、じゃ誰か部屋に案内してあげてくれる?」
「あ、それなら私が行きましょう」
「んじゃ、頼んだよ。涼夜、リエラに聞いて適当に空き部屋掃除して自分の部屋として使ってね」
「あぁ」
「さて、これにて十二式神のほうは一件落着……か」
言葉とは裏腹に深く考え込むリュウ。
「当面の問題は町に妖怪をけしかけておる奴らの事じゃな……」
あぁそっか。まだあいつらが何なのかよくわかってないんだった。
「今までの推測通り彼らの狙いが十二式神だったのなら、ここに十二式神が全員集まった今彼らとの戦いは新たな局面を迎えることになるのかな……」
う~ん、どうなんだろう……。せめて沙羅が話をできる状態なら何か聞けるんだけどなぁ。
「もちろんそちらのほうが一段落するまでは、わしも当分ここに残るつもりじゃからな安心せい」
「うん、助かるよ蛍君」
そっか。って事はそっちの事件も解決したら蛍さんは帰っちゃうんだよなぁ。
なんかちょっと寂しいな。
「あ、涼夜部屋決めた?」
トイレから戻ってきたところで丁度こちらも戻ってきたらしい涼夜と出会った。
「あぁ、一階の奥にある部屋だ」
「あれ? 一階にしたの?」
「あの猫又が言うにはどうも二階は騒がしいらしくてな。静かに過ごしたいのなら一階がお勧めだと言っていた」
蛍さんいつの間に助言なんかしたんだ。
「なんでも定期的に凄まじい模擬戦が行われるらしいじゃないか」
「えぇ!? そんな話知らないよ、僕!」
「ん、そうなのか?」
ていうか、二階には僕の部屋もあるんだからそういうのはほんと勘弁だよ。
「よし、僕が仮親のようだね」
「くそぉ負けたか……」
「いや、ここはどうでもいいだろ……」
「いくよぉ! ダイスロォォォォォォォオルッ!!」
「3か、わらわが親だな」
「さぁ、早くダイスロールするんだっ!」
「はい、それポン」
「うわ、また僕の番飛ばされた。やるせない、だがそれがいい!」
「そなた、毎回早上がりの安手であがっておるな……この腑抜けが」
「私はお前のように毎回毎回役満狙いはしないのだ、事実今勝っているのは私の方ではないか」
「あ、俺リーチ」
「ふふ、十秒後に驚くそなたの顔が目に浮かぶわ、ほれリーチ」
「おっと、御無礼ロン……ってな」
「……なっ!?」
「立直、一発、三暗刻、翻牌、ドラ七、符がわからないから点数計算は任せたぜ……」
「符の計算は必要ない、数え役満の32000点だな……」
「はぁっ!?」
「漢なら心の目で裏ドラを見切るなんてお茶の子さいさいだぜ、悪いな麗姫」
「驚いたのはお前の方だったな」
「くぅぅ……」
「あのさ、麻雀まで買ってきたの?」
居間ではリュウ、アルテ、セラ、麗姫が机を囲んで麻雀をしてる。僕の記憶が正しければ麻雀なんてうちにはなかったはずだ。
「牌は用意したが、この机は倉庫にあったこたつをひっくり返しただけだ」
へぇ、我が家にこたつなんてあったのか。ていうか、牌を買ってきたのならちゃんとマットを買ってこようよ。
「そうだな、最後に最下位だったものは次は孔弌と交代するっていうのはどうだ?」
「え、いや僕はいいから、みんなで楽しんでてよ」
麻雀のルール知らないし。ていうか、なんでみんなは知ってるのか逆に疑問だよ。セラまで……。
「この家は遊んでいる奴ばかりだな」
リビングでハジケるメンバーを眺め、涼夜がしみじみと呟く。
「そうだね、むしろ遊んでない人を見つけるのは困難だよ」
氷凍とリエラ、それから僕がたまに家事してるぐらいだし。
「あっちは何をしているんだ?」
涼夜の指差す方向にはサロンにいるテンちゃん達の姿があった。
「……だめ、子供できちゃう…………」
「天奈、今更子供の一人や二人ぐらい別にいいんじゃないかな? 私も……できちゃったし」
「……ボクもうだめ」
「あぁっ! 私も子供できちゃいました……」
「人生をゲームしてるんだよ」
それにしても何て誤解を招きやすい会話だ。めっちゃ子供の目印の針刺さってるし。まるで剣山だ。
「よくわからないが、壮絶な内容のようだな」
確かに時と場合によっては壮絶なゲームになるよなぁ……。
それにしても、あの三人意外と仲がいいらしい。
アロも普通に一緒にいるし、やっぱり三大話できない式神って呼ばれてたぐらいだから連帯感あるのかな。
「結局、今日は何もなかったね」
あのままダラダラと過ごしてたら時間はあっという間に過ぎて、もう夕方だ。
「確かに異変は何もなかったようじゃが、本来ならばそれが一番じゃ」
蛍さんの言うとおりだ。せっかく式神が全員揃ったんだからこのまま何もないのが一番に決まってる。
「じゃが、むしろ今日はこれからが本番じゃろうなぁ」
そうだ。夕方にはいつもあの妖怪達が出てくる。
しかも十二式神が全員集結したんだ。何か進展がある可能性が高い。
あいつらが直接僕達を狙ってきたりとか。
特に最近は獣のほかにも蛇とかも出てきたから更に厄介だ。マングースを用意しておこう。
しかし、そんな蛍さんの読みも外れたのか、結局夕ご飯の後にあいつらが現れることがなかった。
そのままみんなで遊んだりして、いつものように適当に時間を潰し、今日はこのまま何もないのかななんて思ったり。
でもそんな予想は、日を跨ぐか跨がないかぐらいの時間に、慌てて居間にみんなを集めたリュウによって崩された。
「さて、今日は寝坊したのかなんなのか知らないけど、こんな時間に駅前通りに妖怪が出た」
やっぱり来たか。それにしてもなんという焦らしプレイ。
危うくこのまま就寝モードに突入するところだったよ。
今後の安眠のためにもできれば今夜で全部片付けたいんだけどなぁ。
「出た……んだけど、どうも様子がおかしいらしい」
「様子がおかしい? どうおかしいの?」
「それが、現場を目撃した妖怪もすぐに遠くへ避難したらしいから、詳しいことは僕もわからないんだよ……」
「とにかく行ってみるしかないってことだね……」
「そうだね、じゃ行こうか」
「うん、行くよみんなっ!」




