「珍客」
「ん~、うん!」
ベッドから体を起こして背筋を伸ばす。
「さて……」
もうちょっと眠りたいような気もするけど朝食準備しないとね。
ベッドから降りようとして手をつくと
「……あぁんっ♪」
「いぃっ!?」
柔らかい感触がして隣を見ると
スヤスヤと僕の横で寝息を立てているリエラ。なんという主人公の王道展開。
「…………ふぅ、よし、とにかく胸は触ってないぞ」
そういう問題じゃないような気がするけど……いや、待てよ?
なんでこんな状況になっているかはわからない。
でも、ここはむしろ触っておいたほうがいいんじゃないか?
逆に触らないのは彼女に対して失礼のような気がする。
「大体、こういう時に不可抗力で触ってしまうのが王道……それなら僕もその道に従うしかないじゃないかっ! こうなったら堪能させてもらうのが世の情け(←かなり意味不明)!」
不可抗力じゃないような気がするけどねっ!
……って、僕は何を考えているんだ!?
こんなエロ紳士は僕のキャラじゃないはずだ。
大体こんなところ誰かに見られたら死ぬ。
うん、やっぱりここは早くリエラを起こすのが一番の安全策……。
「ね、ねぇ。ちょっと……」
「んぅ……」
そう思ってリエラを軽く揺するけど起きない。
「やばいってっ、早くしないと誰か来ちゃうって!」
更に強く揺するけど起きる気配はない。
「誰か来るとどうなるんだ?」
「そりゃ色々とまずい状況になるんだよ」
…………。
……え?
「ァ……アァ……ウッ、アルテ」
今の僕の心境は、倒したと思ったフ○ーザ様が崖の上に立っているのを発見したク○リンみたいな感じ。
ガタガタで体が震えてくる。くそ、これだから主人公ポジションは! どうせこの後誤解が誤解を生み理不尽な暴力の被害者になるんだろ。
「どうした孔弌?」
ん? もしかしてアルテは僕の隣にリエラが寝ているのに気付いていないのか?
これは……上手くやればやり過ごせ、
「王道とやらに従うんじゃないのか?」
はい、無理でした。
「昨夜はお楽しみだったようだな」
「いや、アルテ。これは誤解だよ」
とにかくリエラを起こして僕の無実を証明しなくては。
「ご主人様ぁ~……」
寝ぼけたリエラが僕の腰に手を回してくる。
いや、だから何で立てたはずのないフラグが既に立っちゃってるの?
別にリエラのルートを攻略していたような気はしないんだけど。それから呼び方は昨夜訂正したはずだぞ!
「孔弌どいて。そいつ殺せない」
ギロリとリエラを睨みつけ手を向けるアルテ。
「ってえぇ!? ちょっと待ってよアルテ!?」
「アルテを抑えるために、慌てて両腕を出して待ってくれをというジェスチャーを試みる。
しかしそんな僕の慌てっぷりとは裏腹にアルテは微笑んで手を下ろし、僕のほうを見てくる。
「ふふっ、安心しろ。ちょっとからかっただけだ」
「別にあらぬ誤解もしていないから安心しろ。私は不十分な証拠で状況を判断したりはしない」
冷静だ……。正直お約束どおりに色々と不幸な目に会うのかと思ってた。
ありがとうアルテ……。
「大体、お前にここまでいくような甲斐性があるわけないだろ?」
「信じてくれたのは嬉しいけど、嫌な裏づけの仕方だね」
「まぁ兎に角、先に下におりて朝食の準備をさせてくるから、落ち着いたら降りて来い」
「うん」
させてくる……? いやいや、ツッコんだら負けだな。
「というわけで太陰さん改めリエラが僕の式神になりました」
朝の食卓で結果だけを話す。
「よし、計画通りっ!」
リュウのガッツポーズにイラついたのは僕だけじゃないはずだ。
そんなことはどうでもいいか。優雅な朝食タイムといこう。
「で、結局なぜそのリエラは今朝お前の隣で寝ていたんだ?」
場の空気が一瞬で静まり返る。
なぜそんな危険な話題をあえてここで出すんだアルテは。さては僕を消しに来てるな。
「もちろん夜伽です」
えぇ!? 何やばい空気にアクセルかけてんの!? ねぇ、わざとなんでしょ?
「添い寝で主の体を暖めるのは家来ならば当然じゃないですか」
当然じゃないと思う。そんな役目はゆたんぽか猫に任せておけばいいよ。
「つまり、お前は義務感から孔弌にただ"添い寝だけ"をしていただけということか」
「はい」
その返事に場の空気がいつもの陽気さを取り戻す。
「リエラ、お前が昨日観察していたのは孔弌のことだけか?」
「え?」
リエラの驚きの声。僕も驚いた。
アルテは昨日、リエラが僕のことを見ているのに気付いていたのか。
「……あぁ……差出がましい事をしてしまいましたね……」
「いいか、次からは交代制にするぞ?」
「……はい」
「ちょっと待って!? さりげない流れで変な制度作らないでよ!?」
リエラもちゃっかり返事してるし。
「孔弌、危なくなったら俺の部屋に逃げて来いよ。お前が寝る時のためにハンモック用意したからよ」
「安心しろ。俺もお前が逃げ込めるように部屋に対ミサイルシェルターを付けておいた」
「どうしてセラと秋月の二人はそんなに無駄に用意周到なの!?」
そもそもシェルターなんてどこで買ったんだ!?
「なんていうか前の時の攻防がすごかったから、二人なりに色々考えたんだと思うよ……」
「スザク……前の時の攻防って何だい?」
「まぁ兄ちゃんはいつも通り構えててくれればそれでいいと思うよ」
はて……。
「これで、ようやく残るは天空の位だけなんだけど」
天空の位か……。
とにかくその式神を捕まえれば今回の事件は解決……か。
「昨夜の獣達にも嗅ぎ付けられてなかったみたいだし、探し出すのはなかなか難しそうだねぇ」
「隠密行動が得意な奴だったからな。確かに探し出すのは骨が折れそうだ」
「いっその事山狩りならぬ町狩りでもしてみる?」
「孔弌君、町は山と違って建物とか身を隠すものが沢山あるからそれは難しいよ」
「そもそも人数が足りぬじゃろ……」
「ま、いつも通りのんびり構えてるのが一番だろうさ」
リュウの言うとおり、あとは時間に任せるしかないような気がしてきた。
この十二式神の事件はもうすぐ片付くんだ……。
でもまだわからないことがある。町に出る獣とあの妖怪達だ。
あいつらは結局何が目的なんだろう。
十二式神を探し出すのが目的っぽいんだけど、実際の所よくわからない。
「……。考えても詮の無いことだし、僕もリュウを見習ってゆっくりしようかな」
さし当たっては目の前の朝食をゆっくりと租借しよう。
――ピンポーン。
丁度箸を手に取ったところでチャイムの音が鳴り響く。
「お、こんな時間にお客さんか。珍しいね」
確かに朝食時にお客なんて珍しい。ていうか、この家にお客が来る事自体珍しいんだけどさ。
「何をしておる、わらわの優雅な朝食に邪魔をする不届きなやからをさっさと切り伏せてくるのだ」
「なんで僕がそんな狂気じみたことをしなくちゃいけないのさ……」
まぁとにかく出てこようか。
「待ってください孔弌さん。お客様の相手は私がしてきましょう」
「え? でも家主が出たほうがよくない?」
「その時はそのときで孔弌さんをお呼びするか、お客様をお通しします」
う~ん、二度手間のような気もするけど本人がやる気なら別にいいのかなぁ。
「どっちでもいいから早く行ったらどうだい?」
気だるげにリュウが急かす。なんかむかつくので朝食を少し奪い取ろう。
「あ、ちょ、それ僕のだよっ!?」
――ピンポーン、ピンポーン。
そうこう揉めている間に再びチャイムが鳴る。
「ほら、ご立腹のようじゃないか。さぁ食料強奪は諦めて早く玄関に行くんだ」
「それじゃリエラに頼むよ。その間に僕はリュウからカロリー源を奪い取るから」
「はい」
「うーん、近所迷惑の苦情だったらどうしよ……」
最近この家荒れてるからなぁ……。
「いや、これだけ広い敷地で騒いだって別に誰も来ないと思うよ」
そういうものなのかな。
「……あの、孔弌さん」
リエラが困惑したような顔で戻ってきた。
「あ、リエラどうだった?」
「それが、その、珍客というか何というか、とにかくお通しします……」
珍客? 一体どんな人が来たんだろう。
「こちらです」
そんなリエラの声に導かれて部屋に入ってきたのは……
「よう」
………………誰?
部屋に入ってきたのは黒い服を着込んだ男だ。と言っても子供っぽい外見と整った顔立ちのせいでやや中性的とも言える顔立ちだ。所謂イケメンの卵と言っても過言ではないだろう。
「あのぉ、恐縮なんですけどどなたでしょうか?」
とりあえず僕は身に覚えがないから、もしかしてリュウのお客さん?
『天空の位っ!?』
食卓から僕以外全員の驚きの声が上がった。




