「VS黒幕」
「こうやって全員で行動しているとよくわかるけど、我が家ってかなり大所帯だね」
僕とリュウの後ろをぞろぞろとついて来る十二体の式神+蛍さん+沙羅。
「でも本当によかったのかい、蛍君?」
「ん? 何のことじゃ?」
「沙羅君さ。彼女、敵に支配されてるんだから敵の前に連れて行くと命令に逆らえないんじゃないかい?」
「もちろんその危険はあるのじゃが、本人が行きたいと言っておるからの。それに万が一の時に揺さぶりに使えるかも知れぬからな、協力してもらおう。たとえ命令を受けたとしてもわしならば即座に気絶させる事もできる」
揺さぶりって、まさか人質にでもするつもりなのかな……。
「孔弌、おぬしが考えておる作戦は恐らく通用しないじゃろうな。こやつは元々切り捨てられたのじゃから」
「さて、そろそろ件の場所に到着するよ」
「うむ。沙羅、おぬしは一応暫く身を隠しておけ。わしが許可を出すまでは決して出てきてはならぬぞ?」
(コクリ)
それにしても不思議な程人が少ない。田舎とはいえ、駅前はそこそこ賑やかなのに。
「おや、やっと到着ですか。随分と遅かったですねぇ」
僕たちの前にはいつもの針使いと髪切り、そして……。
「お前は…………ッ!」
アルテをはじめとして、式神達から驚きの声を上げる。
でも、それ以上に僕は驚いている……。
「……おじさんっ!」
妖怪達と並んで立っているのは、間違いない僕のおじさんだ。
いつも通りのくたびれたシャツと少し汚れたスーツを着ているが、表情は初めて見る険しさ。
「やぁ、孔弌君」
「どういうこと? 何でおじさんがここにいるんだ!?」
「おじさん!? 孔弌、こいつがお前が前に話していたお前のおじさんなのか?」
「う、うん……」
すごい勢いで聞いてくるアルテの言葉に思わず返事が少し遅れる。
「そういう事か……、やってくれたな時雨!」
「随分な口調じゃないか。生みの親に向かって」
「え……?」
生みの、親?
一体何がどうなって……?
「孔弌、詳しい話は後じゃ。とにかくこやつは最悪の敵。絶対にここで仕留めねばならぬッ!」
おじさんが、最悪の敵……? 仕留める?
「ようやく全ての式神が君の下に集まった。これで準備は整ったよ」
なんだ? なんなんだ、突然こんな次から次へとわからない事ばかり……。
「ふふ、ふふふふ」
おじさんが突然笑い出す。あきらかに僕の知っているおじさんとは違う……。
「待ったよ。本当に長い間待っていたよ、こうなるのを!」
「孔弌、退け!」
「え?」
アルテの掛け声。だけど、動揺している今の僕にその言葉の意味を理解する余裕はない。
「……くぅっ!」
一瞬の衝撃に時間差を追いて周囲の空気が震える。
「孔弌よ、平気か?」
気がつくと僕は蛍さんに引っ張られていつの間にか離れた場所にいた。
そしてさっきまで僕がいた所におじさんが立っている。
「孔弌、しっかりするのじゃ。おぬしがあの男と今までどういう関係じゃったかは知らぬが、あやつはわしらの敵じゃ」
……敵。
おじさんが、敵。
「おじさん、本当に敵なの? おじさんは一体?」
「……敵かどうか決めるのは君だよ孔弌君」
口元を吊り上げ、凄惨な笑みを浮かべながらおじさんが答える。
「はぁぁぁぁああっ!」
おじさんが叫ぶとそこを中心に青色の光が出る。
「いいねぇ、気持ちがいい。こうやって全力を出すのは久々だ」
そういっておじさんが軽く腕を振るうと道路が抉れていく。
「さぁ、七百年前の続きを始めようか。唯一種妖怪、描禰古末神蛍」
「言われずともな。おぬしを放っておくほどわしは締め付けが緩い妖怪ではないぞ……」
「おいおい、ここまできて私達を無視するのか?」
「……ボクも、戦う」
武器を構えたアルテとテンちゃん、そして他のみんなもそれぞれの武器を構えておじさんに敵意を向けている。
「おっと、式神たちに言っておくよ。"動くな"」
その言葉を聞いた途端、みんなの動きが止まる。
「縛り……ッ。お前との、契約は切れたはずじゃ……くぅっ!」
セラが何とか動こうとするけど、体はビクともしないみたいだ。それどころか口を動かすのすら辛いらしい。
「君達を創り出す時にそういう力ものせておいたからね」
「孔弌、そ、なた、だけでも、こやつをっ!」
「そうだ、孔弌。こいつを、倒さなければ……」
みんなの必死な声が聞こえる。
そうだ。僕は、僕は……、僕の敵はっ!
「戦う、皆を信じる! 皆を守るんだッ!」
「おや、育ての親に刃を向けるのか」
「………………」
「困ったな。流石に大神クラスの妖怪を相手にしながら、力を付けた君まで相手にするのは骨が折れる」
おじさんは視線を蛍さんに戻してそのままそちらの方へ意識を集中させる。
「孔弌君の相手は、そちらに任せたよ」
「了解しました」
「というわけで、私達がお相手いたしましょう」
髪切り女と針男が割り込んでくる。
正直あまりにも突然の展開で何でこんな事になっているかはよくわからない。でも
「いくよっ!」
今やるべき事はみんなを助ける事。そのために!
二人を相手に刀を交える。
肉体強化、刀を常時出したままにして臨機応変にそれぞれの力を使う。
「はぁぁっ!」
針男がいつもの極大針で突いてくる。
「くぅっ……はぁっ!」
盾で弾き返して、カマイタチを飛ばす。
「たぁぁぁあっ!」
後ろから近づいてきていた影女を水のロープで払い飛ばす。
「……まだ粘るか、しつこい」
「えぇ、ついこの間まで妖怪の存在すら知らなかったというのに、大した成長です。本当に末恐ろしい」
一旦距離を離し、敵の隙を探す。
一見互角の攻防だけど、向こうには余裕がある。
あの妖怪達とは一対一で競り勝ったことすらないのに、それを二人同時だから流石に厳しいか。
これじゃ加勢に行くのはとてもじゃないけど……。
ちらりと蛍さんの方へ少し意識を向けると、おじさんとすごい攻防を繰り広げていた。
強化した僕の動体視力でも目で追うのが精一杯な速さ。
どうやらおじさんもかなりの手練のようだ。
一瞬の隙に繰り出される攻撃と術の応酬。
仮にこの二人を倒しても僕に介入する余地があるのか怪しい。
「……おいおい孔弌君、僕を忘れてもらっちゃ困るよ」
「リュウ? え? 何しにきたの?」
正直リュウには悪いけど、この真面目な場面でリュウが役に立つとは思えない。
というより明らかに空気ぶち壊しというか何と言うか……。
頼むからシリアスなシーンで出てこないでくれ。滅多にないんだから。たまにぐらい我慢しようよ。
「式神達が全員揃っている今、もうこの町に特殊な結界を張る必要はないから……」
リュウが少し手を広げ、その体が少し浮かび上がる。そして額の赤い模様が激しい光を放つ。
「やぁぁぁぁあっ!」
天から流星でも降ってきたかのようなすごい勢いの光がリュウに降りてくる。
「そうか、どこかで見たことあると思ったらお前はあの時の端獣……黒応龍か!」
おじさんが忌々しげに吐き捨てる。
その視線の先には翼と角の生えたリュウが立っている。
いつもの軽い雰囲気とは違い、別人のような圧倒的威圧感を放っている。
「ここからは僕も全力で行かせてもらうよ……」
リュウ(←New)は一瞬で僕の傍までやってきて
「とぁぁぁああっ!」
瞬く間に僕の前に立ちはだかっていた二人へと距離を詰め
「くぅっ!」
「ぐぅわっ!」
簡単に相手を蹴散らしていく。
どういうことだ? リュウに一体何が……。
「孔弌君、君はそっちの男の方に追い討ちを」
「う、うん、わかった」
とにかくリュウの指示通りに吹っ飛んでいった男に追い討ちの炎を浴びせ、突っ込んで刀で叩き伏せる。
「くぅっ! そう簡単にやられてたまりますかぁ!」
「はぁぁあっ!」
体勢を立て直した相手を切り結ぶ。
どうもリュウの攻撃と僕の追い討ちがかなり効いていたみたいで押し返してくる力が弱い。
「くぅ、一刺し、一刺しさえすればっぁあっ!」
「僕は、負けないっ!」
押さず押されずの鍔競り合いが続く。
こいつの攻撃を食らうと傷が消えなくなるから一撃でも当たるわけにはいかない。
そうなると僕のスタンスも自然と守りに寄るから、今みたいな力で押し切る戦法で実力の差を埋めることもできなくなる。
「たぁっぁあっ!!」
「くぅぅうっ!」
「なっ! ぐぅっ!」
遠くからリュウの声が聞こえたかと思うと横から二口女の人が飛んできて、そのまま僕の眼前に居た針男を巻き込んで飛んでいった。
「孔弌君、下がって!」
言われたとおり、指示に従って後ろに飛ぶ。
「汝塵為給・・・・・・蒸発せよっ!」
リュウが男達の飛んでいった方向に手をかざすとその周囲が炎に包まれた。
「……リュウ? これ、どういうことなの?」
強すぎる。いくらなんでもこれは圧倒的すぎだ。
「ふふ、どうだい、驚いたかい?」
驚いたというか、これは一体……。
お前は本当にあのリュウなのか?
「孔弌君、僕がこの町に十二式神だけを通さない結界を張っていたのは知っているだろう?」
「うん」
「十二式神"だけ"、なんてそんな便利な結界を常時張り続けるのはすごく力を消耗するって知っていたかい?」
と、言うことは
「リュウは結界を張り続けてたからあんなに貧弱だったの!?」
「そういうことさ」
なんてこった……。
「さぁ、これで三対一だ。観念するんだね、時雨」
「………………」
おじさんは表情を変えずにリュウと蛍さんを見つめている。
三対一っていうか、この戦いで僕は戦力になるのか?
「期待はしていなかったが、まさかこうも簡単に敗れてしまうとは」
おじさんがつかつかと、さっきリュウが蹴散らした二人の下に寄っていく。
「うぅ、すみません」
「申し訳ありません……」
ぼろぼろだけどまだ意識はあるみたいだ。リュウが手加減したのかな。
「ねぇ、リュウ。おじさんはあの人たちを回復させようとしてるんじゃないの?」
昨日リエラにしてもらった治癒の術ならあの傷でも動けるぐらいまでは簡単に回復するだろう。
そうなるとせっかく倒したのに再び敵が三人に戻る。
「いや……」
そういってリュウが少し警戒する。
「仕方のないやつらだ、せめて私の役に立ってから消えなさい」
「え? 何を、うわぁぁっ!」
そういっておじさんが針男の頭を鷲掴みにしたかと思うと針男の体が消えた。
「……時雨様ッ!? 何を!?」
「食ったのさ。そうすれば君達のような無能な妖怪でもこうやって僕の力になれるだろ?」
「そんな、私達は組織にこんなにも尽くしてきたのに!?」
「君達は元々見限られていた。だから今回何かの役に立つかと思って連れてきてみたけど、案の定これじゃ仕方ないだろう?」
「……そんな、ずっと親だと思って尽くしてきたのに……」
「案ずることはないよ。これからも僕の体の一部として尽くし続けることができるんだから」
「そんなっ! あんまりじゃないですか!」
「もっとも君達は元々孔弌君を成長させるための当て馬として連れてきたのだから、その役目は十分に果たしたと言える。最後によくやったと、賛美の言葉を贈ろう」
「それじゃ、最初から捨て駒のつもりで今回の仕事を……」
「髪切りなんて下等な妖怪じゃ、これが限界なんだ。仕方ないね」
と言っておじさんが女の人を蹴り飛ばす。
「うっ! ぐ…………」
あまりの光景に、動けない……。これが、おじさんの本性?
おじさんは、やっぱり皆の言うとおり悪い奴だ。こんな奴許しておくわけにはいかないっ!
「私は……、私はっ!」
そう言って髪切りの人は最後の力を振り絞って鋏を地面に突き刺す。
「うあぁぁぁああっ!」
物質透過の能力を使って地面の中に潜っていった。
「おや、逃げたか。最後まで使えない道具だ」
「………………おじさん」
僕はもうさっきまでと違い、迷いなくおじさんに刀を向けていた。
「それに比べて孔弌君。君は多少のイレギュラーはあるものの実によく使える道具になってくれたよ」
「……え?」
「そうだね、ここまできたら教えておこうか。阿保家を皆殺しにしたのは何を隠そう私だよ」




