「あざとアロ」
「ゆくぞ」
空中で静止したボールに麗姫が何やら手をかざすと、ボールが輝き始める。
「穿て」
それはもう、見事なレーザーでした。
光の帯を目で追うのは肉体強化を使っている僕にもかなり難しい。
「きゃあっ!」
ボール……というより、もはや兵器と化した物体は晩霞に命中
「晩霞、アウト」
「あぁ……残念」
言葉通り残念そうに晩霞が外野へと歩いていく。
「あの攻撃で無傷って言うのが恐ろしい……」
「兄ちゃん、くるよ!」
コートに残ったボールを碧鮮が拾う。
「よしっ」
大丈夫。今の僕なら集中すれば何とかなる。
「なんとかなりませんでしたぁぁぁあっ!」
ハイジャンプから繰り出されたボールに直撃して普通に外野送り。
しかもあのボール、触れた瞬間に体が痺れたような気がする。
例に漏れずスーパー異能ショットだったか。
「ぎゃああああああああぁぁああ、折れちゃう折れちゃう首折れちゃうっ!」
続いてリュウの断末魔。
まずいな、かなり押されてきた。
「よし、テンちゃん。そろそろ誰かを当てて戻るんだ」
「……うん」
でも敵の戦力を見る限り、誰に投げても一筋縄で行く相手じゃなさそうだけど……。
ちなみに山なりのボールは絶対に捕られる(皆空中飛行が当たり前だから)から外野へのパスも強烈なストレートボールだ。
「……必殺、水気を纏ったヌルヌルボール」
「うおっ、天奈きたねぇぞ」
「ボールが汚いのか、やり方が汚いのかどっちなんだ!」
「そんな事どうでもいいからよ、さっさと俺にボール回してくれよ」
「碧鮮、わらわを当てるとは覚悟はよいか?」
「いやぁ、ちょっと報復は勘弁してほしいかな」
「晩霞、私とのコンビネーションで行くぞっ! 挟み込め」
「うん!」
そこからは地獄だったと言っておこう……。
「あぁ疲れた……」
二ゲーム程したところでもう動けなくなった。まったく、とんでもない疲労だよ……。
「兄ちゃん、チーム変えてもう一回しようよ」
「あー、ごめん。悪いけど僕はもう無理」
体力も残ってないし、霊力もない。肉体強化なしでやったら病院送りになっちゃうし。
「仕方がない、こうなったらわしが参加しよう。沙羅、審判は頼んだぞ」
(――コクリ)
なんか蛍さんと沙羅って地味にいいコンビになってきてる……。
結構仲いいよなぁ。
ズバン、ズバン。
蛍さんの強烈な球が凄まじい音を立ててコートを行き来している。
明らかに人を殺せそうな紫電をまとっているように見えるのは多分僕の幻覚ではない。
ふぅ、リタイヤしてよかった。
「あ、あの……」
見学していたアロがこっちにやって来る。
「………………」
その隣には太陰さんもいる。
「こ、これ……」
おずおずと差し伸べられた手にはお茶が。
「あ、ありがと。すっごい喉が渇いてたんだよ」
この真夏に庭先で命をかけたドッヂボールをしてたからね。
「………………」
さて、太陰さんが物凄いこっちを凝視してるんだけど。
「あー、その。暇ならアロと太陰さんも参加してきなよ。楽しいから」
なお、一般人は生死をかけたスポーツになる。
「遠慮します」
なんという即答。
「私は……あぁいうのは、怖いから」
そうだねぇ。アロはどう考えても向いてなさそうだ。
でもそういう人に限って集団でやると最後まで生き残ったりするんだよなぁ。
さてと、休憩がてらに居間に戻って少し休むかな。
「あ、あのっ」
突然アロが大きな声を出して
「ぁ、あの……もしよかったら……、その……」
今度は徐々に小さくなっていった。
「わた、私の部屋に来ませんかっ!」
「え? アロの部屋に? うん、いいよ」
「ぁ……」
とてとてと歩いていくアロについて行く。
「………………」
「実は僕さ、ドッヂボールってすっごい好きなんだよ。上手くないけどね」
「そうなんですか?」
アロの部屋でくつろぎながら、何となく思っていたことを少し口にする。
「ほら、アロには前に言ったと思うけど僕って子供の頃結構捻くれてたからあんまり遊びの輪に入っていかなかったからさ」
「ぁ……」
「例の電話の人に勇気付けてもらって、素直になって周りと和解するまでは球技なんてしたことなくてさ」
友達ができ始めた頃は、休み時間毎にああやって遊んだものだ。
「でも、やり始めるとのめり込んでね。アロもまたこういう事があったら、今度は参加してみるといいよ」
「……頑張ってみます」
自信なさそうにアロが頷く。アロの投げた球ってやっぱり当たると……い、いや、何でもないです。
それからはチコと戯れたり、どうでもいい世間話をしてた。
う~ん、やっぱり猫は癒される。
「よし、じゃそろそろお昼ご飯準備しよっか」
あの人数分を作るとなるととんでもない時間がかかるからなぁ。
「あ、あの……私も、手伝って、いいですか?」
アロが遠目ながらも懇願するような目で見てくる。
「え? もちろんだよ。僕も助かるからね」
それにしても今日のアロはやけに積極的だなぁ。
「ふぅ、この時代の遊びってのも案外面白いじゃねーか」
本来のドッヂボールはああいうスポーツじゃないけどねっ!
「あぁ、暴力要素のない実に平和的な模擬戦だ。人の文化はここまで進んだのだな」
いやいや、そもそも模擬戦じゃないし!?
ていうか暴力要素も無茶苦茶あったよ。
「あの試合を撮影して映画にすれば売れるんじゃないのかい? 『○林ドッヂ!』とかいうタイトルで」
「そもそも少林関係ないし、あきらかに二番煎じだし売れないと思うよ。ストーリーにドラマもないし」
まぁ全部実写という点は評価できるけど。ドキュメンタリーにしたほうがいいんじゃないのかな?
「孔弌君の指摘が日に日に辛くなっていく気がするんだけど……」
つまり僕もこの数日で急激に成長してるってことか。
「孔弌、昼からはどうするんだ?」
「んー、まぁいつも通りダラダラと」
「うむうむ、青春しておるのぅ」
青春と言うより白秋、いや下手したら黒冬だと思うんだけど。
「それなら私と一緒に図書館にでも行か――」
アルテがそう言いかけた途端
「……孔弌が暇なら、ボク孔弌と一緒にいる」
とすかさずテンちゃんが割って入ってきて
「おいおい、孔弌は俺と一緒に肉体改造の旅2007をするんだろ?」
なんだそれ!? 2007って毎年あるのか? しかも旅なのっ!?
「あのー、できれば僕も昼は孔弌に色々とこの町の事とか買い物の事で教えてほしいことがあるんだけど」
「んだよ、そんなのリュウに聞けばいいだろ。神なんだしよ」
「いや、そうは言ってもねぇ……」
と言ってリュウを横目で見て苦笑する碧鮮。
「なんか今僕のこと馬鹿にしなかったかい?」
「いやいや、とんでもないよ」
「僕も兄ちゃんに教えてほしいことがあるんだけど」
「僕も……什景湯麺の下ごしらえがよくわからなくて」
そんなの僕もわからないよ。大体なんだよその料理、初めて聞いたよ。僕が得意なのはイタ飯で、本格的な中華は守備範囲外だ。
「あの、私も午後は孔弌と居たいと思ってるんだけど」
「わらわの傍にいるのは下僕として当然の義務であろうが」
僕は麗姫の下僕じゃないけどね。
「モテモテすぎワロタっと」
携帯片手に何をやってるんだ、リュウ。
「人気者じゃな、孔弌。他の者が見たら嫉妬で殺されてしまうぞい」
「まぁそれは嬉しいんだけど……」
いくらなんでも全員の相手をするのは……。
「………………」
「疲れた……」
結局全員の相手をした。
すごく疲れた。
昨日はあんなに疲れてたのに、今日は皆元気だったなぁ……。
「ん~、今日も早い夕餉だったね」
「仕方ないじゃろ。恐らく今日も出るじゃろうし」
まるで害虫みたいな扱いだな……。
「まぁわしがこうやって惜しみなく力を使える機会は少ないから、実はちょっと楽しいのじゃ」
あの獣に少し同情してしまった。
「さて、どうやらその件の相手がお出ましのようだぞ」
アルテがそう言うと全員がすっと立ち上がる。
「よし、じゃ今夜も張り切っていこうか!」
「「おうっ!」」
全員の揃った返事を聞いて僕も席を立つ。




