「こんな爽やかな朝は……そうだ、スポーツをしよう!」
「………………」
朝起きてからずっと何か違和感を感じる。
なんか前にもこんな感じの事があったような。
「まぁいっか。下に降りて朝食作ろうっと」
引っかかるけど、とりあえず階段を下りる。
「あ、あのさ」
朝食が終わって、席から離れようとする太陰さんに声をかける。
「……なんですか」
ひぃ、なんて露骨な敵対心。
「あ、これといった用があるわけじゃないんだけど……」
流石に気まずいから少しぐらい言葉を交わそうと思っただけなんだけど。
「用がないのなら呼び止めないでください。どうぞ、私のことは空気のように扱ってくださって構いません」
そのままスタスタと歩き去っていった。
「あぁ……」
取り付く島もないと言うかなんというか。
「兄ちゃん、勝負はまだ始まったばかりだよ。ふぁいとっ!」
……勝負って何の?
「自分の短所を生かして影が薄い空気というポジションを確立させたのに、それすらも奪おうと言うのですか……」
台所の隅で氷凍が泣いている。
「あれは放っておいたほうがいいよ……」
「うん、僕も丁度そう思った」
意味がわからない苦悩だけど、そっとしておいてあげよう。
「んんー、なんか体を動かしたい気分だなぁ」
「いやいや、セラはいつも体を動かしてるじゃないか……」
何で"久々に運動がしたいなぁ"みたいに言ってるんだ。
「セラでなくとも、この晴天を見ていると家の中にいるのがもったいない気がするな」
読んでいる本から少しだけ顔を上げるアルテ。
「うん、アルテが言うとそれっぽいかな」
文化系って感じだし。強いけど。
「そうだな。どれ、私も少し庭に出てみようじゃないか」
と言って本を机の上に置いて立ち上がる。
ちなみに机の上にある本のタイトルは……
「"若きウェルテルの悩み"、なかなか意味深なタイトルだな」
ウェルテルさんはなんで悩んでるんだろう。抜け毛かな。
そんな風にさて、何かするかなと腰を上げ始めると騒ぎ出すのがこの男。
「ふっふふ、迸る若さを持て余しているみたいだな諸君」
「リュウ、今度はどんなトラブルを巻起こそうとしているの?」
「おいおい、まるでトラブルメーカー扱いだね」
ある意味でトラブルメーカーみたいなものだと思うんだけど。
「体を動かすなら、球技! これしかないでしょ」
スポーツか。確かに人数もそこそこいるからやろうと思えば結構何でもできるな。
何気にバスケとかバレーでも二チーム作れる人数いるし。
「いや、孔弌君。ここはシンプルにドッヂボールだね」
ドッヂボールか。
「遊びだからね、細かいルールを無視して適当にやるなら一番わかりやすいだろうし」
確かに、遊びでやる分には小手先のテクニックとかもあんまり必要ないし。
「うん、それじゃあドッヂボールでもしよっか」
「……孔弌、ドッヂボールって何?」
テンちゃんがきょとんとした様子で尋ねてくる。よし、ここはわかりやすく説明をしてあげようじゃないか。
「ドッヂボールって言うのはね」
「ドッヂボール……聞いたことがあるぞ」
「なんだ、知ってんのか秋月?」
「あぁ。互いの精神を宿した"たま"をぶつけ合う古代から続く幻の儀式だ。その道の者になると龍のオーラや後光を纏った"たま"を投げられるようになるらしい。ちなみに"たま"とは球であり、魂でもある」
「なんだ、それ……めちゃくちゃ楽しそうじゃねぇかっ!」
「あぁ、だが危険も大きい。この儀式の勝敗は非公式戦の場合基本的にどちらかが全滅するかまで続く。恐らくこれは手っ取り早くどちらが皆殺しになるかを決めるための措置だろうな。戦争を最少の被害で終わらせる効率がいいやり方だ」
「だから、いつものことだけど違うからね!? そんな危ないことしないから!」
どうしてセラと秋月はこういう流れになるんだよ、いつもさぁ……。
「とにかくちゃんとルール説明するから、参加したい人は集まって」
「しかしなんという偏ったチーム編成……」
僕のいるコートには、テンちゃん、スザク、麗姫、そしてリュウ。
相手チームのコートには、アルテ、セラ、秋月、碧鮮、晩霞。
ちなみに審判は蛍さん。コートの外ではアロと沙羅が見学してる。
意外なことに僕がこのメンバーの中で一番頼りにしているのはスザクだ。
活発だし、運動が好きそうだし、負けん気とやる気もある。
麗姫は……そもそもまともにプレイしてくれるのか?
リュウは問題外だな。うまく球を避けても風圧で死にそうだ。まして受けるなんてもっての外だ。某先生並に死にやすいリュウなら触れた瞬間粉々になりかねない。
そうなるとつまり消去法的にテンちゃんがチームの二番手になるわけだ。
「よし、それならこっちは最初の外野にテンちゃんを出すよ」
最初に外野になった人だけは内野の選手を当てたときに内野に戻ることができる。
それ以外の人は戻れない。今回はそういうルールだ。
「そうだな、ならば私達は秋月に任せよう。いけるな秋月?」
「あぁ、了解した」
なるほど。向こうはそう来たか。
そしてあっちのチームのリーダーはアルテなのか。
「準備は済んだようじゃな。では試合を始めるぞい」
蛍さんがコートの中央にやってくる。
ちなみに庭にラインを引いただけの簡易コートだ。
「ジャンプボールは……僕が行こう」
身長を考えると、多分それが一番のはずだ。麗姫やリュウはやる気なさそうだし。
「晩霞」
「あ、うん」
あっちは晩霞か。
身長はかなり際どい差だ。勝てるだろうか。
「ほれ」
蛍さんの掛け声でボールが天高く打ち上げられる。
「えい」
ボールに触ったのは晩霞だった。
ていうか勝てるわけない。
「そういうのアリなの!? ねぇ!?」
飛び上がった晩霞はどう見ても10mの高さを超えてる。
「行くぞッ!」
落ちてきたボールをキャッチして即座にアルテが投球フォームを作る。
「う……っと! よし、捕れた!」
球は見事にスザクに命中するが、スザクもなんなくキャッチしている。
「なるほど、真正面より掠らせる方が討ち取りやすそうだな」
「兄ちゃん、どうすればいいの?」
「すぐに敵チームの誰かに投げ返して」
「うん。……とおッ!」
とても子供とは思えないすごい速さの球を投げる。
そういえばさっきのアルテもそうだった。
あれ、そうか……そうか! 僕はなんて愚か者なんだ!
皆は妖怪じゃないか!?
文字通り超人的な動きをする皆。
どうもただのドッヂボールで終わりそうに……ないっ!
「ふんっ、あまっちょろいぜっ!」
スザクの球をキャッチしたセラが即座に投げ返す。
球の軌跡が見えなかった。そのぐらいすごい速さだ。
誰にも当たらずにボールはコートの外まで出て行った。
ベキッと細木が折れる。
「あんなん当たったら死ぬる……死ぬるんよっ!」
死なないまでも骨折は確実だ。ていうかむしろよくボールが破裂しなかったなぁと思う。
こうなったら保身のためにも肉体強化を使おう。
あとはボールが家の方向に飛んでいかないことを祈るだけだ。
「いくぞ、せせらぎ!」
ボールを拾った秋月がセラに向かって投球。
そしてそれをキャッチしたセラが投げ返す。
つまり挟み撃ちの形になるな……って漫画のセリフでかっこつけてる場合じゃないし!
「よっしゃー、ここだぜっ!」
セラの放った球が麗姫を捕らえる。
「ふん、この程度、わらわが動くまでもないわ」
二枚の布がボールを包み込むように受け止めている。
あぁ、そうか。もうこれはドッヂボールじゃないんだね!




