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キズナの鬼  作者: 孔雀(弱)
第10章挿話「阿保家の夜」
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「事の発端」

ここからサイドストーリーが3話続きます。

本来は本編終了後のおまけシナリオで作った物なので色々はっちゃけてますが、どうぞお付き合い願います。

 ――事の発端は少女の一言だった。

「……それならボクもう大人。孔弌と寝た」

 この一言が開幕を告げる角笛になろうとは、件の少年阿保孔弌は全く気づいていなかった。

 そしてこの物語は、少年の知らぬ所で起こっていた激闘の話である。





(――天奈が孔弌と寝た!?)

 最初に天奈の言葉を理解したのは、十二式神きっての頭脳の持ち主であるアルテだった。

 昔、自分と天奈は不仲だった。それどころか十二式神は皆不仲だった。

 だが、現世に蘇り再会してからの天奈にアルテはある種の友情を抱いていた。

 いや、むしろ友というより家族や同胞と言った方がいいかもしれない。

 最も一緒にいることが多いアルテだ。天奈が孔弌に決して浅くない情を抱いているのは理解している。

 もちろん自分の気持ちなども当に天奈に知られているだろう。そして他の者にも。

 だからこそお互いに牽制し合う結果となり、孔弌が毎回のらりくらりとアタックをかわすことも手伝いそれ以上関係が進むことはなかった。


 アルテも内心ではそれでいいと思っていた。そしてそれ故に孔弌との距離を強引に詰める事はしなかった。

 多少積極的だとしてもいつもギリギリのラインで止めていたのだ。

 だがしかし、天奈が孔弌と閨を共にした……となれば話は別だ。

 自分だって天奈が到達した場所まで行く権利はあるはずだ。

 もっとも、孔弌が天奈に対して操立てでもしていれば話は別だが。

「ご馳走様。ちょっと準備があるので部屋に戻る」

 結論として、アルテは早速準備を始めることにした。

 自分の主に夜這いをかけるための準備だ。

(――綿密な計画こそが物事の因果をうまく運ぶコツ……)

 アルテは食器を下げると早々に部屋に戻って計画を練ることにした。



「ご、ごちそうさまっ!」

 以外にもアルテに続いて席を立ったのはアロ。

 彼女は極度の対人恐怖症を抱えていて他人とまともに接することができない。

 だが自分の主である阿保孔弌に対して強い興味を抱く彼女は、弱点を抑えて彼へと積極的に接近することがしばしばある。

 元々対人恐怖症という荷物が足を引っ張っていて彼女は滅多に本来の力を見せることがない。

 しかし、自身の恐怖症をも上回る程の行動力を発揮したときの彼女は非常に優秀だ。

 戦闘、思考、応用、意思、全てにおいてまんべんなく強い力を発揮するようになる。


 そして今回彼女の行動力の元となったのもやはり孔弌だ。

 孔弌が他の式神からも慕われているのは遠目から見守っている彼女にもわかっている。

 だから孔弌は滅多に一人にならない。ほとんど必ず傍に誰かがいるのだ。

 アロはそんな極稀に生まれる、孔弌が一人の間にしか彼に接近することができない。

 彼女は彼にそんな時にしか近づけない自分が嫌いになっていた。

 今までは自分の対人恐怖症のことを気にしたことはなかったが、孔弌と出会いその考えが徐々に変わってきている。

 そして天奈の一言を聞いた彼女の中にひとつの決意が生まれた。

(――私も孔弌さんと……添い遂げたい)

 その思いは彼女をまたひとつ人の輪へ近づけるチャンスを与えるのだった。



「わらわも戻る」

 更にアロの後に続いたのは、十二式神のリーダーでもある麗姫だ。

 彼女もまた、普段の高慢な態度とプライドが邪魔して滅多に見せないが孔弌に好意を寄せている。

 本人はまだ半分ほどしか自覚していないが、その思いは日増しに強くなっていく。

 特に孔弌が誰か他の式神と一緒にいると嫉妬にも似たような思いが彼女の中で生まれる。

 そのように元来独占欲が強い彼女だが、式神内の暗黙のルールのようなものには従っていた。

 普段は規則などは気にしない彼女だが、この掟は破ろうとはしなかった。

 確かに多少の独占欲はある。しかしこの少年を独占するのはあまりに贅沢すぎる。


 彼を彼の意思なくして一方的に独占してはいけないのだ。

 そしてこれは他の式神も重々理解しているだろう。

 だから彼女は思う。

(……なれば、わらわにも等しい権利があるではないか)

 そう、彼女もまた激しい孔弌争奪戦への参戦を表明したのだ。



「じゃ、私もこれで……」

 前の三人から多少出遅れたが、晩霞が決心したのもほとんど一瞬だった。

 彼女は式神になる以前から孔弌に淡い情を抱いている。

 言うなればこの参戦はある意味必然である。

 新参者である彼女は未だにこの家で許される行動の範囲がまだ理解できていなかった。

 だから彼女は、孔弌との距離の測り方は他の式神を参考にしていた。

 どこまでが許容されるのだろうか?

 そんな疑問は天奈の一言で簡単に解決された。


 "……それならボクもう大人。孔弌と寝た"

 要するに全部許されるのだ。節度さえ守れば彼が許す限り何でもできるのだろう。

 彼女はそれに気付くと、胸が喜びで満たされたような気がした。

 元々他人というものを遠ざけてきた彼女なので、こうして誰かを思うことは初めての経験だった。

 初めてゆえに、純粋で真っ直ぐな思いだった。誰かに甘えてみたいというそれだけの。



「あのさ、なんかみんな怖かったんだけど」

 女性陣が去った理由について孔弌は全くわからなかった。

 彼女たちが何故だかはわからないが自分に好意を抱いてくれていることには何となく気付いている。

 本来この孔弌という少年は読みが鋭く賢いのだ。もっとも今はその賢さを使うベクトルの方向が滅茶苦茶だが。

 だから彼女たちが天奈の言葉を誤解して、自分に対して何か積極的な行動をとろうとしている事は察することができた。

 だがそれはあくまで彼女たちが次にとる行動のスタンスを読んだだけで、行動そのものを読んだわけではない。

 いかに賢いといっても、今までは普通の少年だったのだ。彼女たち式神の行動力をまだ理解してなかった。

 自分の身にこれから何が起こるのだろうか。全く見当がつかない。



「……それじゃ孔弌、ボクも先に戻る」

 そう言って元凶でもあり、この場に残った最後の式神女性陣である天奈が立ち上がる。

 彼女もまた孔弌と同じような状況だった。

 とにかく他の式神が彼に何かを仕掛けようとしていることは何となくわかる。

 だが、何をしようとしているのか?

(……わからないけど、皆だけ抜け駆けはダメ)

 自分が誤解を生む発言をした事に全く気付いていない天奈。

 孔弌と一緒になってから彼女はこんな風にたまに天然な一面も見せるようになっていた。



「ふむ……これはどうやら僕たちも作戦を立てる必要があるね」

 女性陣が去ったあとでリュウがそう口にする。

 彼はよく道化のようなふざけた言動で場を混乱させるが、元々はとてつもない力と英知を備えた優秀な神である。

 ただ英知の方は孔弌同様使い道を間違えているような気がするが。

 いや、むしろ彼が孔弌をそういう方向に導いてしまったと言った方がいいかもしれない。

 ともかく一連の出来事でリュウは、彼女たちが今夜にでも孔弌の元に夜這いをかけようとしているということをいち早く見抜いた。

「そのようだな」

「しゃーねぇな」

 そして他の式神男性陣も少し遅れてそんなリュウと同じ考えに達した。


 状況分析から結果を導き出す秋月。

 直感の冴えるセラ。

 人の機微に聡いスザク。

 同じく人の機微に聡くなってしまった氷凍。

 そして元々頭の切れる碧鮮。

 リュウと五人の式神は同じ考えに達し、更に共同戦線を張ることにしたのだ。

(――孔弌を守り抜く)

 それに何の意味があるのかは、正直彼らもよく理解していない。

 だがやらなくてはいけないという思いが彼ら全員にあった。

 それが例え非常にご都合主義な天の意思であってもだ。


「孔弌君、大丈夫だ。僕たちが君を守るから今夜は安心して眠ってくれ」

 確かに元々は賢い……が、孔弌は普段は深く考えるという行動を放棄しているのだ。

 よってリュウのそんな一言も孔弌には全く理解できなかった。否、する気がなかった。

「それじゃ行くぞ諸君。僕の部屋に集合だ」

 そして男達はブリーフィングルームへと向かうのだ。

「とりあえず皿洗いでもしようかな」

 誰もいなくなった食卓で手持ち無沙汰になった孔弌は家事をすることにした。

 みんなが何をするかは知らないけど、多分また楽しいことだろう。

(――まぁ、その分疲れることだろうけどね……)

 こうして様々な思惑の交差する長い夜が始まるのだった。



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