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キズナの鬼  作者: 孔雀(弱)
第10章挿話「阿保家の夜」
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「行動開始」

視点が飛び飛びで非常にわかり辛い回とも言える。


 ◇◆◇男性陣◇◆◇


 例の夕食のあと、孔弌以外の男達が集合していた。

「と、いうわけで諸君も勘付いている通り彼女たちは必ず行動を起こすだろう」

 リュウの言葉に、その場に集まった男性式神陣が頷く。

「孔弌君の貞操を守る……今僕達は一人の人生を背負っている」

 あぁ! よっしゃ! などと口々に呟く面々。

 こういうちゃらんぽらんな空気の時ほど、無駄に行動的だ。

 主がそうなので、使い魔である彼らも似てしまったのか。それとも元々の気質が能天気なのか。


「まず指揮は僕が取らせてもらう。そして参謀に碧鮮君、頼めるかい?」

「お安い御用だよ」

 リュウと碧鮮を中心に綿密な作戦を練り上げていく式神達。

 ここに孔弌がいたら、なぜその行動力と結束力を日常的に発揮できないの!? などとツッコミを入れている事だろう。

「そして先手必勝ということで、各種トラップを用意した」

 リュウが部屋の置くからガチャガチャと金属を取り出してくる。

「設置ポイントは、まずこの見取り図で赤いマークがしてあるところだ。ここは防衛の要所になると予測される地点だ」

 壁にでかでかと張り出されているのは、この家の間取りだ。


「ねぇ、リュウなんでそんな面白そうなもの持ってるの?」

「いやぁ流石に普段の戦闘であまりにも僕の影が薄いからさ、こういうの使って目立とうと思って取り寄せたんだ」

「あぁ、昨日届いた宅配便ってそれか。リュウはいつも無益に行動的だね……」

「まさか真っ先に仲間に使うことになるとは思わなかったけどね……」

 そういってリュウがトラップや火器の使い方を説明する。

「それじゃ秋月君には残ったトラップの設置を任せるよ」

「了解だ」

 リュウからいくつもの金属を受け取る秋月。

「では各自先ほど決めた持ち場で待機。僕はここで指令とサポートを行う」

 アサシンのように五人は気配を消して部屋から出て行く。




 ◇◆◇晩霞◇◆◇


 夜の闇にまぎれるようにひとつの影が行動を起こす。

「……うん、そろそろいいよね」

 晩霞だ。

 彼女の行動は非常にシンプルだった。

 孔弌が眠りについたであろう時間に部屋に侵入。

 そして布団の中に潜り込む……という典型的な夜這いだ。

 ――ピンッ。

「え?」

 ふと足元で何かが引っ掛かったような気がした途端、けたたましい爆音が全ての音を消し去る。

 秋月が仕掛けた起爆トラップだ。


 神クラスの妖怪といえど、その勢いに耐えるにはあまりにも無防備すぎた。

 晩霞は窓を突き破り屋敷の外へと吹き飛ばされていった。

「うぅ……、驚いた」

 ぱっぱと服を叩き汚れを落とす。

「……今の、何だったんだろう」

 特に気に留める様子もなく屋敷の玄関へと向かっていく晩霞。

 ちなみにあえて解説させてもらうが、今のトラップは普通の人間なら命を二回落とすレベルの破壊力があった。

 よい子は真似しちゃだめ、ゼッタイ。




 ◇◆◇アルテ◇◆◇


「今の爆発音……やはり始まったか」

 アルテの部屋にも爆発音は届いていた。

(――やはり他の式神とガードマン達も動いているのか)

 既にこのような混戦が始まるだろう予測がついていたアルテは冷静に現状を分析し始める。

「うむ、とにかく部屋から出てみるか」

 中にいては外の様子はわからない。

 幸いアルテの部屋は天奈の部屋に次いで孔弌の部屋に近い。

 うまく言えば妨害を潜り抜けてすんなりと到達できるかもしれない。


 慎重にドアを開き、耳を欹てる。

 少しずつ少しずつ、ゆっくりと確実にドアを開き

「……よし」

 余裕とばかりに部屋から一歩を踏み出した瞬間

「……なっ! これは」

 いくつかの文字で構成される魔法陣のようなものが足元に浮かび上がって淡い光を放っている。

 転送魔法!? 私に気付かれない程となると……。

「……碧鮮か」

 そしてアルテの姿が消える。




 ◇◆◇麗姫◇◆◇


「……何やら騒がしいな」

 月光の差し込む廊下を堂々と歩いているのは麗姫だ。

 彼女は孔弌の配下に加わったのが割りと後の方だったので、孔弌の部屋からはだいぶ離れた場所からスタートしている。

 ちなみに式神達は皆孔弌の部屋の近くの空き部屋を自分の部屋にしていくので、必然的に孔弌の使い魔になった順に孔弌の部屋に近い所に自分の部屋がある。

 何ゆえ自分がこんなにも遠い部屋なのか……と、今更になって不満を募らせていると廊下の先で何か赤い光が奔る。

 突如として迸ったのは超高温の熱光線だ。触れればその部位が焼き切られるのは間違いない。

「ふんっ」

 それを防いだのは彼女の神装具だ。

 そこからも自動防御の布は彼女を守る盾となり、次々と飛来するトラップから主を防ぐ。

 物理的な攻撃だろうと、霊的な攻撃だろうと彼女に害をなすであろう攻撃には全て反応する。

 今の阿保家は、たった数メートル歩くだけでも命がけの恐ろしい屋敷と化していた。


 ――ピンッ。

 紐に引っ掛かったと思ったら、何かのピンが外れる音がした。

 先ほどはこのあとに爆発が起こった。あのぐらいの爆発なら何とか布が衝撃を吸収してくれるだろう。

 しかし今度の罠は単純な爆風ではなった。

「これは……」

 でてきたのは火ではなく煙だった。

 それもただの煙ではない、睡眠ガスだ。

 流石にこれでは防ぎようがない。

 対人間の罠が自分に効くとは思えないが、それらを承知した相手がわざわざ設置するほどだ。

 恐らく妖怪にもそれなりに効き目があるように霊的な付呪するなど改造を施しているのだろう。

 煙に巻き込まれまいと麗姫が一歩下がる。


 ――ブゥン

「なんだと!?」

 足元に光が浮かんだかと思うと術が発動した。

 法術による罠は、条件付けで発動するように仕組んだ陣を隠しておくのが基本なのだ。

 麗姫の足元の陣を中心に気流の流れが起こる。

「く、風が集まってくる」

 科学と法術の複合トラップだった。

 風によって、睡眠ガスが麗姫の元に収束する。

 煙で視界が塞がれるうちに麗姫は意識が遠のくのを感じた。




 ◇◆◇天奈◇◆◇


 ――ガチャ。

 扉を開けて出てきたのは天奈だった。

 彼女の部屋は孔弌の部屋にもっとも近い。

 それこそもう目の前にあるようなものだ。

 しかし、そんな簡単に辿り着けるわけもなく……。

 ――ヌチャ。

 粘り気のある音がしたかと思うと

「……あ、あれ?」

 天奈の足は地面に固定されていた。

 強力な拘束系のトラップである。


 ――ガタ、ガタンッ

 そのままなぜか床が一回転する。

「……なにこれ」

 天奈は一階の廊下の天井に宙ぶらりんの状態になった。

 家の構造的に非現実的なトラップだが、あるのだから仕方ない。




 ◇◆◇男性陣◇◆◇


「いえーい、またもや成功だよっ!」

 一人自室で喜ぶリュウだが決して独り言ではない。

『これで四人も兄ちゃんの部屋から遠ざけたね』

 彼らが連絡に用いているのは龍鳴石という石だ。

「あれ? やばいぞ、一人トラップを回避して順調に近づいている者がいる。至急応援を!」

 彼の目の前にあるモニターには各所に仕掛けられたカメラからの映像がリアルタイムで送られている。

 そしてそのうちのひとつには緑髪の少女の姿があった。




 ◇◆◇アロ◇◆◇


「……はぁはぁ」

 ここまでで最も孔弌の部屋に接近しているのは、以外にもアロだった。

 ――ピンッ。

 何かトラップの発動する音がする。

「……ひゃっ」

 ビタンと少女が転ぶと、その頭上を数本の矢が通過する。

 このように先ほどから運を味方につけて罠を回避しているのだ。

「あぅぅ……」

 転んだときにぶつけた顔を摩りながらアロは目的地へと向かっていく。


 ――ヒュウゥゥゥ。

 ふいに廊下の奥から風の音がした。

「……?」

 廊下の窓が開けっ放しにでもなっているのだろうか?

 疑問に思ったのもつかの間、突如体がすごい勢いで引き寄せられる。

「簡単に孔弌に辿り着けると思うな」

 風で引き寄せられた先で立ちはだかっていったのは秋月だった。

 彼は風を操り周囲の空気を集めることでアロを引き寄せたのだ。

 ちなみに先ほど麗姫が引っ掛かったトラップもこの応用である。


「……あ、あの……」

 アロは酷く狼狽していた。

 他人と接するのが苦手な彼女にとって、例え戯れであったとしても誰かと手合わせをするというのはひどい苦痛なのだ。

「怖気づいたのなら部屋に戻れ」

 秋月のその言葉を聞いてアロは再び決意を固めた。

「いきます」

 弓を顕現させる。

 自分から進んで戦いを挑むなんて以前の彼女からは考えられなかった事だ。

 引き絞って放たれた矢は一直線に秋月目掛け飛んでいく。


「はっ!」

 避けると同時に秋月が風の刃を飛ばす。

「…………ッ!」

 アロはたどたどしいながらもなんとか横に飛び回避。

「え? あ、あぁっ!」

 しかし自分の横っ飛びの慣性を殺しきれず。

「……あ、れ? きゃあぁぁぁぁ」

 自分から窓に突っ込み庭へと落ちていった。

「………………」

 呆然とする秋月であった。




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