「麗姫の誘い」
夏休みに入って今日で12日目。
今日も今日とて、我が家の食卓には食欲旺盛な面々がずらりと並んでいる。
先日買ったテレビでは、朝のニュースが流れている。
やれどっかの大企業の会長の訃報だったり、某芸能人の不倫騒動だったり、再婚相手が虐待で子供を死なせてしまっただとか、何とも暗い話題ばっかりだ。
とは言え、そんな世間の動きなんかどこ吹く風で相変わらず能天気な朝食風景。
つい先日まで一人で食べていたのが遠い過去のように思えてくるから不思議だなぁ。
なんて風に僕が珍しく感慨深げにしててても何のその。朝から騒ぐわけですよ、この男が。
「なんか日に日にご飯がまともになっていくね」
「それはどういうことかなリュウ。最初の頃はまともじゃなかったって言うのかな?」
「だって、ラーメンしか食べてなかったじゃないかい」
僕のジト目から言わんとしている事を察したのかリュウがそう答える。
「いいじゃん、ラーメン美味しいじゃん! ね、テンちゃん?」
「……ん。ピザも美味しかった」
「ねぇ、ピザって何?」
スザクめ、ピザって単語に興味津津だな。このくいしんぼうめ。
「いいかいスザク君。ピザっていうものは太っている人のことだよ」
リュウのその言葉を真に受けたのかテンちゃんが引きつった顔でこっちを見てくる。
「……孔弌、あれ人肉だったの……?」
「んなわけないよっ!? もう、嘘つかないでよリュウ」
「いや、ある意味嘘じゃないんだけど……」
まったく、その理屈で言うとピザを食べてる人はみんなカニバリストだよ。
「結局ピザって何なの?」
「ナポリ発祥のイタリア料理のひとつだ。小麦粉生地の上にトマトソースやチーズ、他にも色々な具をのせて焼いた食べ物だ。また、生地も大きく分けてイタリアンタイプとアメリカンタイプの二つがある」
アルテ……あいも変わらず凄まじい知識だ。
「何を驚いている。前にも言っただろう、私はまず最初にこの時代の知識を付けていたと。ピザなんて常識的なものじゃないか」
それにしてもやけに詳し過ぎるよねぇ。
「まぁ、その、なんというか……特に食文化は入念に調べた。それだけだ」
「あ、そ、そうなんだ……」
「だが、生憎とまだ食べた事がないのだ」
アルテ……。まさか遠まわしに要求している?
「そうだね、それじゃお昼はピザでも注文しようか」
「そうか、それは助かる。百聞は一見に如かずともいうからな。私の知識のためにもぜひ現物は見ておきたい!」
アルテは冷静さを装いつつも浮かれた足で二階に上がっていった。
「そんなに(見聞のために)ピザが食べたかったのか、それともただのくいしんぼうなのか」
とにかく今日の昼食はピザになった。広告のチラシ探しておかないとなぁ。ていうか何枚頼めば足りるんだろ。10,000円超えるんじゃないかなぁ。
毎回ピザ食べるのにこんなにお金かかるのかと想像すると鬱屈としてくるな……。
「僕も何とか家庭で作ることができないか、ピザについて詳しく調べてみますね」
「調べるってどこで?」
「図書館と本屋に行ってきます。あ、場所は知っているので大丈夫です」
「すごい、すごいよ氷凍……。あぁ、君は何ていい子なんだ」
それはともかく我が家のオーブントースターでピザなんて作ろうと思ったら、とんでもない時間がかかるだろうなぁ。
「では、行ってきます。宅配ピザが届くまでには一度戻ります」
「あ、うん。いってらっしゃい」
「はい、それじゃその時間にお願いします」
――ピッ
ふぅ、とりあえず無難なメニューを選んでおいたし。注文はこれでいいだろう。
「さてと、お昼まで何してよっかな」
「孔弌、手持ち無沙汰なら将棋をしようではないか」
暇そうにしている僕の元に上機嫌の(恐らくピザが楽しみで)アルテがやってきた。
二階には将棋盤を取りに行ってたのか。
「将棋?」
「先日約束したではないか」
そういえばしたような。ま、どうでもいっか。どうせ暇だしやろう。
「よし、それなら俺達もいっちょ隣で将棋うつかっ!」
「あぁ、たまにはいいだろう」
僕とアルテが将棋の準備をしている横にセラと秋月がやってきた。
「セラ将棋なんてできるの?」
「いやいや、お前流石にバカにしすぎだろっ!?」
だって……ねぇ?
百円ショップで買ってきた簡易将棋を準備するセラと秋月。
対するこっちは五千円くらいのちゃんとした将棋セット。
……なぜ二セットあるんだろうか。本当に皆ボードゲーム大好きなんだなぁ。
「ま、気にせずこっちはこっちで集中しようではないか」
「そうだね……」
あんまり集中されてぼこぼこにされるのも困るけど。
「よし、王手飛車取りだセセラギ」
「ここで戦場にお知らせがございまーす。ただいま大型の台風十八号が大接近中」
セラがシートタイプのヒラヒラ将棋盤を揺らす。
「お、おいっ! 天候要素まで導入するなんて聞いてないぞ」
「おっとしかし、俺の陣地はここにいる桂馬が災害対策をしていたので全軍助かりました」
「なんだとっ!? その一見無意味な配置にそんな意味がっ!?」
なんかさっきから向こうが無茶苦茶気になることしてるんだけど……。
「孔弌、置いたぞ」
「あ、うん」
う~ん、流石アルテ。際どい所を狙ってくるね。
「おっと、残念ながら戦場に突然の落雷! 不運にもこの香車は死にましたっ!」
「何ぃっ!?」
本気で向こう側が気になる……。
「捕まえた捕虜は無条件で相手に開放することにしないか?」
「駒が残り三つになったからといってその提案は流石にないだろ」
「ちっ。あ、ちなみにこの王将は影武者だから取っても無駄だぜ」
「そんな手が……」
「よし、俺はここにいる祈祷師を使って戦場に火を起こす」
「ふむ……そうきたか。ならば俺はこちらの天馬騎士で呪術発動だ」
あっちは既に何か別のゲームになってるんだけど……。
「ふぅ、意外と早く終わったけど……うん、でも昼食には丁度いい時間だね」
ようやくアルテとの対局が終わった。なんだかんだで3局もやったよ。
「…………ふむ」
「う~ん、よしっ! そろそろ配達が来るから食事の準備しようよ」
「……ん? あぁ」
ちなみにセラ達はまだ怪しげなゲームをしてる。
「美味いじゃないかっ!」
良い意味での驚きに目を見開き、口元が緩むアルテ。
伸びたチーズがアルテの口と手に持つ生地を結んでいる。
でもまさかピザでそんなに大層なリアクションをされるとは。
「そういえば、孔弌達午前中は楽しそうだったね」
「ん? 将棋してただけなのにそんなに楽しそうだった?」
「うん、ずっと見てたけどすごく楽しそうだったよ」
「ずっと見てたの!?」
結構暇人なのかな、晩霞。そういえば以前から街を適当にうろうろしてたし。相当ハイレベルな暇erなのかも。
「……ボクも孔弌と将棋したい」
「いや、まぁ将棋ぐらいいつでも相手になるけどさ」
プロの勝負みたいに何時間もかけてやるわけじゃないんだし。
「ていうか天奈はどんなことでもとにかく兄ちゃんがやるなら一緒にやろうとするね」
「……ダメなの?」
「いや、ダメってわけじゃないと思うけど。ね、兄ちゃん?」
「あ、うん。やっぱり一人より二人、二人より皆って考えは偉大だと思います、はい」
「……それはもう孔弌に沢山教えてもらった」
うんうん、わかってくれたなら何よりだよ。
「…………ふぅむ」
アルテが何やら考え込んでる。さっきからどうしたんだろうか。
「……アルテ?」
「ん? どうした?」
「あ、いや、何かぼーっとしてたからさ」
「あぁ、気にするな」
そんなにピザが美味しかったんだろうか。
いくら美味しいものを食べたからといって、ここまで放心するっていうのもどうかと思うけど。
……そんなに気に入ってくれなら僕も今度氷凍と一緒に作る練習でもしようかな。
「孔弌」
「うん?」
「そなた午後は暇か? そうか暇か」
「断定された……」
午後か……ま、別に予定はなかったよね。
「うん、今のところ何も予定はないよ」
というかほぼ毎回予定なんかないけど。そんなものに縛られて生きていたくないんだ(キリッ
「そうか、ならばわらわの用に付き合え」
「うん、いいよ」
しかし、怠け者の麗姫が用事か……一体なんだろう。
「ほぅ。麗姫、お前……」
「む、何だその顔は」
「ちなみにその用事って何なの?」
「うむ、そなた昨日土産に甘味を買ってきたであろう?」
甘味……あぁ晩霞との帰りに買ってきたティラミスの事か。
「あれがどうしたの?」
「あの甘味を売っている店にわらわを連れてゆけ」
…………?
「おつかいなら、いつもみたいに他の人に頼めばよかったんじゃないの?」
「直々に品物を見て選んでみたいのだ。まったく、そのような事をいちいち気にするとは器の小ささが知れるぞ」
あぁなるほど。確かにそれは人に頼めないね。ていうか、さりげなく罵倒されているのですが。
「……そういうことだ。いいからさっさと案内せい」
「うん、じゃ行こうか」




