「安寧」
「ほんとに今日は何もなかったね~」
既に時計は八時を回っている。
どうやら本当に敵さんからの襲撃もないみたいで、今もテレビを見ながらダラダラしてる。
「……ん、とっても平和な夜」
「だね~」
「……ボク、こうやって孔弌とテレビ見るの好き」
「どさぐさにまぎれて膝に座ろうとするのはやめようね~」
「……むぅ」
リュウが半分呆れたような声で
「君たちも相変わらず仲がいいねぇ」
「なんせ僕はテンちゃんの主人ですから~」
「一般の式神は主人と対等の付き合いはしないんだがなぁ……」
なんか皆が言うにはそうらしいけど
「そう言われてもね~」
「そのダラダラ口調、何とかならないのかい?」
「いいではないか。怠ける時にはきっちり怠け、きりっとする時はきっちり決めていれば」
アルテは、きりっとする時もどこか余裕かましてるけどね。
「……でも、リュウの言うとおり孔弌みたいに式神を扱う人は珍しいと思う」
「そうだな、確かに普通は……まして私達のような妖怪に家族になってください……なんて並の精神ではないな。今はどうか知らないが、少なくとも私達のいた時代では」
「へっへっへっ、つまり僕は並以上ってことか」
これからは特盛孔弌と呼んでくれぇ。
「まぁしょせん式神なんて道具程度だと思われるし、よくても従者みたいなものだからな。本当はお前も私達を使い捨ての物のように扱うほうが戦闘面においてはよいのかもしれないが」
「残念でした、僕は皆の事はそんな風に思えないし、それに仮に物だったとしても大切に扱うよ。大事なものなら」
「そうだな。まぁ私も別にお前にはそうなってほしくないし、今みたいなお前が好きだ」
「そういえばふと思ったんだけどさ」
「ん? どうした?」
視線を晩霞のほうに移して
「晩霞ってさ、どうして今までみんなの前に姿見せなかったの?」
「え?」
「なんかさ、喋り慣れてないから人と話すの苦手だって言うけど、今も普通に話に入ってきてるよね?」
さっきだってごく自然に話に介入してきたし。こりゃ、アロみたいな対人恐怖症というより、普通に内気なだけなんじゃ。
「んー、あのね、それは……」
晩霞が言いよどむ、それと同時にみんなから痛い視線が。
(もしかして僕地雷踏んだ?)
周囲にテレパシーを送る。
(やれやれ)
周りのみんなが呆れたような顔をする……うわぁ。
「みんなもう知ってると思うけど、私戦いになると我を忘れちゃうから……」
内気で戦いが嫌いな戦闘狂キャラ。滅茶苦茶にもほどがあるな。
「みんなにもいろいろ迷惑かけた……何回も攻撃に巻きこんだり。それに、みんなと会ってる時に突然破壊衝動がくるかもしれないし」
「なんだ、そんな事気にしてたの?」
「えぇ!? そ、そんなことって……」
「だって、みんなそんなこと気にしないでしょ? 仲間なんだし」
「いや、正直に言うと当時私達は基本的に皆不仲だったから、それなりに気まずかったと思うぞ」
げ、そうなんだ……。
「だが今は気にしていない。別に性格にコンプレックスを抱えているのはお前だけではないからな」
「……ん、ボクもこうして今みたいにみんなでわいわいしてるほうが好き」
「俺も孔弌の側にいるとよー、元から祭りごとは好きなんだが、もっとこう不思議と何か、戯れたくなってくるというか、慣れ合いたくなるというか……」
「そうだな、俺もそんな気分になる。本当に不思議な奴だお前は」
「お前の能天気さとか見てるとよー、俺の存在がちっぽけに思えてくるんだよな」
能天気に能天気って言われた!
「僕はなんだかこう、無条件で側にいたくなる匂いがするんだ、兄ちゃんから」
なんじゃそりゃ……なんかすさまじいフェロモンとかでてるのかな……。
スペシャルメンズスメル……いや、なんでもない。
「まぁ、どんな匂いが出てるにしろ、僕は皆が仲良く一緒に暮らしてくれてたらそれで満足だよ」
「そうだね、仲良くするのはいいと思う」
晩霞は何気に仲良しって言葉が好きだな。今日だけでもう数回聞いたような気がする。
「孔弌も大丈夫だよ、きっと太陰の位とも仲良くなれる」
仲良くなれるか。そもそもさ
「第一印象が痴漢ってのは、正直つらいなぁ……」
"この人痴漢です"そんなセリフを言われた日には、社会的に死ぬらしい。
「ふぁっ~、それにしても本当に今日は平和だなぁ」
まぁこれが普通だって言われればそうなんだけど、なにぶん、ここ数日が忙しかったからなぁ。
「あぁそういえば忘れてたけど、今日晩霞とショッピングモールに行った時ついでに洋菓子店に寄って皆の分のお土産買ってきといたから」
「何!? それを早く言わないか」
アルテがっつきすぎだろ。どうした?
「そなたにしては気が利くではないか」
「そんなわけで冷蔵庫にティラミスが入ってるから一人一個ずつね」
「うわっ、すごい美味しいよこれ」
「って、もう取り出してるし」
こういうときのスザクの行動の速さは恐ろしいな。
「なんか、最近できたばかりのお店で買ってきたんだけど、一番人気があるメニューなんだってさ。あまりに人気すぎて即売り切れになることもあるんだって」
「よくそんなものを十個以上も買ってこれたな……」
「丁度いい時間に寄ったからね」
そんな風に暫くみんなでわいわいとお菓子を食べる事に。
それからなんだかんだで四時間ぐらいずっとテレビ見てた気がする。
リビングに導入してまだ数日なのに、主要娯楽と化しつつあるな。
バラエティとかシリアス系以外のドラマとか映画は、今までみたいな流し見と違って大勢で見る方が楽しいよね。
「さてと、そろそろ寝るか」
「お、早寝だね」
「あのね、十二時就寝で早寝っておかしくない?」
僕は基本的に日付が変わる前には寝るからね。いつも通りだよ。
「まったく、夜はこれからだというのに」
リュウは昼寝してるからだろ……。
「なんだ連れぬ男よな。わらわを放っておいて、自分だけ床に就こうというのか」
いや、麗姫も昼間、リュウに勝るぐらいゴロゴロしてたから余裕なんだよ。くそ、ニート達め。
「そもそも私達は妖怪だから睡眠はあまり必要ないんだがな」
横からアルテの呆れたようなツッコミがはいる。……あんまり寝なくても平気とか、妖怪いいなぁ。
「わらわは精神を休める為に休息をとっておるのだ」
休ませ過ぎてるんじゃないか、とは言えないなぁ。
「あれ、あそこにいるのは……」
「………………」
部屋に戻ろうと思って階段を上がったところで沙羅が目に入った。
窓から外を眺めてるみたいだけど、相変わらず俯いてるな。
しかし、なんだかんだ言って蛍さんも完全に放置してるな。
居間にはいなかったから、風呂にでもいったのかな。
「何見てるの?」
「………………」
あー、喋れないんだったなぁ。
「外を見てたんだよね?」
――コク
「庭でも見てたの?」
――コク
まぁあんな珍妙な庭だからなぁ、興味をそそられるのはわかるけど。
「まぁ君の立場が立場だからなぁ。もっと自由に行動させてあげられたらいいんだけどね」
――フルフル
微かに首を振る沙羅。この子、帰るところがなくなって本当に全部どうでもよくなったのかなぁ。
「えっと、君の仲間だって別に君を見捨てたり、裏切ったわけじゃないと思うんだけど」
こんな風に慰めて、またこの子が向こう側に戻ったらそれはそれで困るんだけど。
――フルフル
またもや微かに首を振る。
「あー、あの、多分だけど僕が同伴すればみんな文句言わずに君の外出を許してくれると思うんだけど」
「………………」
「う……」
命の宿っていない眼に射竦められて続きの言葉が出ない……こいつは凄まじい眼力だ!
「その、そんなに暗そうにしてないでさ、何か楽しい事一緒に考えようよ」
明日の夕飯はすき焼きだっ! とか。
はぁ、あのメンバーですき焼きやったら本気で戦場になりそうだな。
「………………」
そのまま窓の外に広がる夜空を見上げる沙羅。
その姿がすごく絵になってる。もしや意外とロマンチストなのかな。
「それならそれでいいや。もし何かあったらすぐ言ってね」
「………………」
コクリと頷いてそのまま下に降りていく沙羅。
そういえば沙羅って今蛍さんと同室だけど……、無性に中の様子が気になるな……。
ここはLet's 覗き見……いや、やめておこう。うん。
興味本位で蛍さんの気分を害したら危険だ。
好奇心猫を殺すって言うからね。いや、まぁこの場合はむしろ猫に殺されるかもしれないんだけど。
とにかく僕もおとなしく部屋に戻って寝よう。それが一番だ。
明日もどんな大変な事が待ち構えているかわからないからなぁ。




