「申し訳ない、また尺調整回だ!」
「で、どれにするの?」
店についてから既に十分。
ショーウィンドウを見る麗姫はかなり真剣な様子だ。薄々気付いてたけど、麗姫はかなりの甘味好きのようだ。
「なんだったらさっきから言ってるように、全部買っていってもいいし……」
どうせ皆も欲しがるだろうし、余った分を上げれば丁度いい。
「だめだ」
そう、なぜか麗姫はさっきからの僕の提案を断り続けている。
一番無難な戦法だと思うんだけどなぁ。予算さえあれば。
「わらわは、わらわの選ぶ至高の一品を買わせたいのだ」
買わせたいって、完全に上からの言い回しだ……。主人(笑
「本当にそれだけでいいの?」
「うむ」
結局麗姫が選んだのは黒ゴマプリン。
普通にショートケーキとかでもよかったのに。
しかも麗姫は僕が他の商品を買おうとすると止めてきた。
う~ん、麗姫の心は複雑すぎる。
「わらわが構わぬといったら構わぬのだ」
「そっか、麗姫が嬉しいなら僕はそれだけで満足だよ」
「ううむ……」
生クリーム系は家に帰るまでの間に溶けるかもしれないから、ある意味これでよかったとも言えるんだけどね。
いや、でもそういえば冷やす術とかもあるから問題ないのか。麗姫さんがやってくれるかどうかわからないけど……。
「…………孔弌」
ふと駅前で麗姫が声をかけてくる。
「ん、何?」
「わらわは面倒ごとが嫌いだ」
「うん」
まぁそれは既に周知の事実だから今更言わなくてもわかってるんだけど。
「普段なら厄介事に自分から関わったりはせぬ」
ん? 麗姫は何が言いたいんだ。
「だが……」
そこまで言って麗姫はバス乗り場の方に目を向ける。
歩くと面倒だからバスに乗って帰りたいって事かな?
麗姫はそのまま黙ってバス乗り場の方へと向かっていく。
とりあえず僕も後を着いていくと
「このような所におるとはな……」
ベンチの前で止まって、そんな事を言った。
そのベンチには男の人が一人寝転がっている。無気力そうにベンチで寝てるその姿は、まるでぷー太郎。
腕を組んで膝を立て、まるで置物のように静かだ。
なんて気持ちよさそうに昼寝してるんだろう……。
そんな男の人の前で麗姫は腕を振り上げて、そのまま……
「はぁっ!」
凄まじい破壊音がすると同時に、麗姫が術のようなものを唱え淡い膜が周囲をドーム状に覆う。
「麗姫、何やってんの!? ご乱心ッ!?」
「人払いの結界だ。並の人間には近づけぬようした」
なんと……。
「じゃなくて、どうしてそんなことしたの!?」
「……まったく、危ないじゃないか。何事も穏やかにいこうよ」
いつの間にかさっきの男の人が麗姫から離れたところに立っている。
「よくそのような事が言える。自身に有利なように環境を弄っておったものが」
「そこはほら、一応の警戒だよ。じゃ改めて、やぁ貴人の位久しぶり。十日ぶりくらいかな?」
麗姫の事を知っている……ということはこの人は、いやこの妖怪は
「十二式神……」
「あぁそうだ、こやつは青竜の位」
青竜の位……。
アルテの話では式神の三強の一体……おまけに頭もいいらしい。ルックスもイケメンだ!
「で、何の用だい? こう見えても暇じゃないんでね」
えー!? むちゃくちゃ暇そうに昼寝してたけどっ!
「式神になれ」
「……式神?」
言われた言葉にピンとこないのか、青竜さんは首をかしげる。
「そうだ、そなたはこやつの式神になるのだ」
「こやつ……ん?」
そこまで言われて青竜さんがようやく僕の方を見る。
「あ、どうも」
とりあえず頭は下げておくか……。
「……馬鹿者が。これから式神にしようというものに頭を下げてどうする」
「え、あ……いや、礼儀かなと思って」
「全くそなたは……」
麗姫が目を細めて僕のことを睨んでくる。
ふぅ、どう考えても味方とは思えない威圧感だ。
「……馬鹿にしているのかい、貴人の位?」
「馬鹿になどしておらぬ」
「見たところその少年、確かに並の人間よりは霊力が高い。恐らく討魔師だろう」
超新米だけどねっ!
「だけどとてもじゃないけど、僕を従えられる能力はない。君にしては珍しく、面白くない冗談だね」
はぁ……毎回これ言われるよね。
「それができるのだ。現に今のわらわはこやつの使い魔だ」
「……ふむ」
そこで一旦深く考え込む青竜さん。
「うん、わかった。その少年が僕を操ることができる器を持っているとしよう」
おぉ、すごい理解力だ。むしろ順応性?
「君がその少年の傍についているということを考えれば、何かややこしい事態になっている事もわかる」
「うむ」
え、なんで? なんでわかるの?
「何よりも君がおとなしくその少年に従っている事を鑑みればその少年の器量も相当なものであろうことも推察できる」
「うむ、こやつはわらわの僕。なればこそ従属するは当たり前のこと」
麗姫さん、言ってることが矛盾しまくってて意味不明なんですけど。会話成立してないぞ?
それに青竜さんよ、おとなしく従ってるように見えるのかなぁ、これって……。
「そもそも僕達のように大きな存在は、身の置き所にも困る。特に僕達十二式神は縛りがあるから真っ当な生活もできない」
縛りって悪事をしなくちゃいけないっていうあれか。
「だから、君の提案を魅力的だと思う」
おぉ、今までで一番平和的な流れじゃないのかこれは。
「もっともこれは、"その少年が僕を操ることができる器を持っているとした"場合の話だ」
あ、あれ? 話の流れが……
「式神になる前にとりあえず僕を組み伏せてもらおうか」
青竜さんの手元に青龍刀が出てくる。事前に聞いていたとはいえ、なんてわかりやすい得物なんだ。
「結局この流れか……」
「無論わらわも刃を交えさせてもらう」
「おや、消極的な君にしては珍しいじゃないか」
というかここで麗姫が加勢してくれなかったら、僕なんて三秒で細切れになりそうな予感!
「っよし!」
僕も覚悟を決めて刀を出す。




