「及ばぬ思いと強さ」
目の前で幼稚な悪戯を実施してるこの人が、みんなが警戒していた貴人の位か。
なんてしょぼい……。
とにかくそうとわかれば、何とか言う事を聞いてもらえるように頼んでみないと。
「あのぉ……」
「なんだ」
うん、今までの式神達と違ってすごく高圧的だ。
「ちょっと話をしたいなぁ……なんて……」
「断る」
即答だぁ。
「力づくになっちゃうかもしれないよ?」
「構わぬ。気分がすぐれぬから少し力を使いたいと思っておったところだ。寸刻の間そなたにはわらわの運動に付き合ってもらおう」
不思議な光が貴人さんを覆う……って明らかに運動ってレベルじゃねー!!
これは間違いなく生命が脅かされるレベルだよ。僕の儚くも美しい命が散ってしまう。
「そなたも雄ならば、己の力を見せつけるいい機会だろう」
「アロ、説得できないのぉ……?」
コク、とアロが頷いて
「あ、あの……」
「なんだ六合の位。今はそなたと話をしておる暇はない。それともわらわの楽しみを邪魔するのか? だとしたら、そなたもただでは済まないぞ」
うわ、こりゃ完全に臨戦態勢だよ。
なんか相手の戦意を下げる技とかないかなぁ。
争いから生まれるものは何もない! とか言ってみるのはどうだろうか。
よし、ここはひとつかっこよく英語で平和を説いてみよう。
「not war make love!(訳:争いなんてやめて子作りしようぜ!)」
「何を言っておるのだ! 来ぬのなら、こちらからゆくぞ」
うわ、布みたいなものを持ってこっちに飛んできた。くそ、説得失敗か。フランス語にしておけばよかった。
「そらっ!」
「うわっ!」
すごい速さで布を振るってきて、紙一重でそれをかわす。刀で切られたように服の裾が千切れる。
「侮るでない裸虫よ。布といえども、鋭く振るえば槍のような刺突攻撃も可能、更に硬化させれば刃物のようにもなる」
やばい、この人あれだ、タオルとかで人を殺れる人だ。東方の人だ。
「あ、あの……私……」
「あ、アロはそっちでおとなしくしてて」
少し離れた所にいるアロが怯えながらこっちを見てる。
「戦いが嫌いなんでしょ。大丈夫、僕だって伊達に今までみんなの戦いを見てきたわけじゃないよ! 僕が守るから安心して」
まぁ正直マジバトルは一、二回ぐらいしか見てないけどね。
「そこの裸虫の言うとおり、戦う意思のない者は下がっておれ! 目障りなだけだ!」
突き刺さるような冷たい視線をアロに送る貴人さん。
「で、でも……」
「まともに他人に触れるどころか、顔を合わせることもできぬ者が戦場で何の役に立つ、下がっておれ!」
怒鳴ってるよ、怒鳴ってるよこの人。こりゃ今までの式神の中で一番怖いかも。
「陽の陽と陽の陰、陰の陽と陰の陰……」
目を閉じてブツブツ何か言いだした。
これは、あれだな一種のトランス状態にはいったのかな。
観察してると、白い光と黒い光がそれぞれ左右の手に集まってきてるみたいだ。
ていうか観察してる暇があるなら、逃げたほうがよかったりするのかな。
大丈夫だよね、大丈夫だよね、僕の命。
「……陰陽半」
白の光と黒の光が一つになっていく。
こういう技ってアニメとかマンガだとかなり強いよね。
現実では大丈夫だよね? 別にそんな恐ろしい攻撃が来たりしないよね? 安心してていいんだよね!?
「……消し飛べ」
その声とともに案の定なんかやばげなレーザーが飛んできた。僕とアロ、二人を巻き込む程の大きな光だ。
「アロ!」
庇うように前に出る、くそ、間に合え!
そう念じながら射線上に飛び出した瞬間、すごい衝撃で意識が落ちそうになる。
「ふふ、やはり久々に目一杯力を使うというのは気持ちがよいな」
「ゲホッゲホッ、危なかった……ものすごく痛いけど、助かった」
咄嗟に身を守ろうと思ったら、目の前に円盤のようなものが現れて何とか助かった。これは氷凍の力かな。
もっとも、全ての衝撃を殺すことはできなかったけど。痛いなぁ……。
「あれを防ぐほどの防術……。やはりそなたただの裸虫の子ではないな」
タオルを構えてそんな事言われてもなぁ……。
「よいぞ、そのぐらいでなければ憂さ晴らしにもならぬわ!」
くそ、やられてばっかりだと思ったら大間違いだぞ。
ここからが僕の華麗で雅な反撃の始まりだ!
「くらえっ!」
とりあえうず炎の光線を撃ってみる。
思うんだけど、この攻撃って毎回牽制に使うけど、大した効果ないよね。
「ぐっ……」
両手でタオルを広げて必死に防いでる。
今回は意外となかなかいい牽制になってくれたらしい。
いや、別にスザクの力を軽く見てるわけじゃないけどさ。
「なるほど、間髪入れずにこの攻撃とは……一枚では少々めんどうか」
そう言うとフワフワとどこからかもう一枚タオルが出てきた。
タオルマスターだ、この人タオルマスターだっ!
「よいぞ、好きなだけ攻撃してみよ」
な、なんて余裕なんだ……。さてはドMだな。
いや、相手の攻撃が効かない事を見せつけるのは少年漫画の定番か。
でもあのフワフワ浮いたタオル何だろ。この流れは絶対何かあるよね。
「ええい、とにかく突撃あるのみ!」
炎を連射する。
が、フワフワ浮いてるタオルが全ての攻撃を完璧に防いだ。
「な、なんだあれ……」
とか言いつつも何となくこうなりそうな気はしてたんだよね!
「ふふ、ははっ」
うわ、余裕で笑ってるよ。
「ほれほれ、今度は守りに専念せぬと死ぬぞ」
ヒュンッヒュンと点による攻撃が連続で浴びせられる。
くそ、突きは防ぎにくいんだよ……しかも槍とか針じゃなくて布だし。
でも突きというより属性的には鞭と同じカテゴリーなのかな。
「くそぉ!」
こうなったら僕も剣を出して近接戦だ。
瞬時に刀を出して布攻撃を防ぐ。
「なかなか器用な奴ではないか……だが、地力が圧倒的に劣っておるッ!」
体が弾き飛ばされる。うぅ、剣で布に負けた……。
「ふふふ、安心するがよい生かさず殺さずゆっくりと痛みを与えてやる」
――パシンッ
「痛っ!」
今度は布を本当に鞭みたいに撓らせて打ってきた。
「僕はマゾじゃないぞ!!」
布を引き戻した時に一気に間合いを詰めて、斬りかかる。
「うっ……、これは」
今度はフワフワ浮いてる方の布に防がれた
「これはわらわの意志とは関係がない自動防御でな……わらわが何もしなくとも、そなたの攻撃が通ることは決してない」
なんというネタバレタイム。あのフワフワ浮いてる布はオートガード機能があるのか。
汚いな、流石妖怪汚い。絶対チート性能だ。いくらなんでも厄介すぎるでしょ、あれは流石に。
「ぐぅ……」
また一方的に攻撃を受ける。
つ、辛い……。マラソン大会と同じぐらいつらい。
「さて、もう満足だ」
攻撃がやんだかと思うとふいにそんな事を言った。
あぁよかったぁ、やっと気が済んだのか。
それなら話し合いを……。
「これで終いだ」
またさっきみたいに力を溜め始める。
って、ちょっと……!
「十二式神随一の破壊力、とくと拝むがよい……」
その言葉と同時に白と黒の光線が迫ってくる。
無理だ、さっきみたいに僕に防げるような力じゃない……。
それに、もう力もあんまり、残ってないかなぁ。
もう少しE残しておけばよかったなぁ。
どうでもいいけど、Eと巨って似てない?
「うわぁぁああああぁぁぁああ!!」
そして目の前が白く染まっていく。
「キャアアァァアッ、孔弌さんっ!」
「力の差がわかったであろう。もうそなたのように下等な者がわらわにかまうでない」
………………。
…………。
……。
「孔弌さん、孔弌さん! 目を開けてください」
僕から少し離れた所からアロが声をかけている、泣いてるのかな……。
朦朧とする意識でそれだけを確認した。
「どうしたのアロ? なんで泣いてるの?」
「こ、孔弌さんよかった……」
手で涙を拭ってあげようとすると
「ぁ…………」
アロが半歩下がる。
「あ、ごめんね……」
怖がらせちゃったか。
はぁ、なんか体のあちこちが痛いな。
これは筋肉痛……なわけないか。
…………照明の光が眩しい。
「ん……」
ここは僕の部屋だ。
眠ってたのかな……えっと、確か僕は……
式神にボロボロにされて気を失いそうなところで、アロが僕を運ぶとか運ばないとか言いだして……
今部屋にいるってことは……アロは……。
「目が覚めたようだな」
「アルテ……」
起き上がろうとすると。
「まだ起きない方がいい。どこかに体を強く打ちつけたのだろう裂傷、擦過傷に褥瘡、それに刺傷もあるな。それから霊力による攻撃も受けたみたいだな、器にも傷が付いている。」
なんて言いかたされるとすごい重症みたいだけど……。
「まぁどれも大したことないから、明日の朝には普通に動けるだろ」
なんだ……よかった。
「アロが半狂乱になって帰ってきた時は焦ったぞ。しかも珍しく大きな声で喚き散らすからな」
「結局そのあと僕はどうなったの?」
「部屋に運び込んで数時間、それが今の状況だ。近隣の人間には目撃されていないから幸い大きな事件にはなっていない」
なるほどね……。
「傷も今言ったとおり大した事がない。恐らくアロが応急処置に治癒の術でもかけていたのだろう」
「そういえばそのアロは?」
「帰って来てすぐに本人も倒れたよ。精神的にかなり無理をしたんだろうな、涙と疲労で顔がグシャグシャになっていたよ。それからすぐに気がついてずっとお前の看病をしていたんだが、流石に相手がお前といえど、他人が怖いあいつに長時間面倒を見させるのも辛いかと思って交代を申し出て休んでもらおうと思ったんだが……」
「だが?」
「その間に食事を用意してくると言って台所の方に行ってしまった」
食事って……僕がこのまんま暫く起きなかったらどうするつもりだったんだ。
「そういうことなら、現代の料理器具の使い方もあまりよくわからないだろうからということで天奈も一緒に台所について行ったよ。まったく、あの他人嫌いのアロにここまでさせるとはな」
「そっか……」
みんな心配してくれたんだ……。
「あぁそれから……」
まだ何か報告があるのか。
「あとで動けるようになったら庭の方を見て回ってみるといい、驚くぞ、ふふふ」
なんだ!? 庭は一体どうなってるんだ!?
魔界の花が咲き乱れる庭園とか、どこまでも落ちていく落とし穴とかないだろうなぁ……。
「さて、ところで孔弌」
「ん? どうしたの?」
「大方の話は……何とかアロから聞いた。貴人の位に会ったらしいな」
「う、うん……」
あの金髪で高圧的でいかにもアレな服を着てて、ちょっと小悪党なあの人か……。
「あ、あの……」
「ん? あ、アロ」
声のしたほうを見るとアロがお盆を持って立っていた。
「ありがとね、傷を治してくれたり、みんなを呼んできたりしてくれて」
「え、あ…………」
いい匂いが漂ってくる。アロって料理できたんだなぁ。
「あ、あのそれで……貴人の位の……」
「あぁ、私も丁度貴人の位の話をしようと思っていたところだが……どうやらアロもその事で用があるようだな」
アルテがアロに話をするように促すと
「あの……つ、次は……私も……私が……」
「……あの、アロ、悪いけどもう少し要領よく話してもらえるかな……」
これじゃ支離滅裂どころじゃないよ。
「こいつが言いたいのはつまり、次は自分も孔弌と一緒に戦う。とでも言っているのだろう」
「アルテの意訳あってるの?」
コクコクと頷くアロ。
アルテすごいなぁ……。アロ検定準二級を授けよう。
「でも、大丈夫なの?」
アロは戦いも好きじゃないし、それ以上に体が触れたり視線があったりするのすら怖いのに。
「わ、私だって、役に立ちたいんです。でも……私、こんなだから、さっきみたいに……」
一瞬だけ俯いて
「嫌なんです。守ってもらえるの嬉しい、でも、私もみんなみたいにあなたを支えたいんです!」
「そうだなぁ……それならば、一度お前たち二人で戦ってみるといい。ただし、保険としてできるだけ私達もすぐに駆けつけられるよう待機しておく」
「そっか、よし、今度こそ負けないぞ!」
「……は、はい」
「さてと、お前たちは作戦会議でもしておいてくれ。私達は少し出かける」
「ん? 何か用事があるの?」
「また昨日のように獣が出たらしいのでな。実は今ここに残っているのはこの部屋にいる者だけなのだ」
「さっきテンちゃんもいるって言ってなかった?」
一緒に料理を見に行ったとか何とか。
「あの、天奈さんは、調理器具の使い方を教えて、すぐに出て行きました」
「ま、お前も無事みたいだから私も行ってくる。いいか、お前は安静にしているんだぞ。なに、すぐに戻ってくるから安心しろ」
「あ、うん。いってらっしゃい」
「また来たのか……何が目的なんだろう」
あの妖怪達、犬みたいなのをいっぱい使って何してるんだろ……。
とにかく、今日はおとなしくしてよう。幸い体も大したことはなさそうだし。
やられた直後は死ぬかと思ったけど……応急処置がよかったのかな。
「…………イ、ッ!」
と、流石に体を広げるのはムリか……。
体に痛みが走る。
「孔弌さん……」
アロが心配そうな目でこっちを見てる。
「ごめんね、あんなに威勢よく啖呵きっちゃったのにあっさり返り討ちにあっちゃって……」
ほんと情けないなぁ……。
あの貴人さんも全然余裕があったし、結局僕って一人だとこの程度なんだね。
負けたんだ……僕は。
「ごめんなさい、孔弌さん……ごめんなさい!」
「どうして謝るの、アロは何もしてないよ。悪くない」
「何もできなかったからです!」
アロ……。
「次は……ちゃんと、ちゃんと私もいます。だから……」
「……うん」
そのあとアロが作ってきてくれた料理を食べながら(これが御世辞じゃなくて本当においしかった)三人でとりとめのない話をして、そのうち皆も帰ってきて入れ替わり立ち代り誰かがやってきてベッドに寝たまま色々な事を話して就寝ってことになった……。
さてと、次に貴人さんを見つけたその時は、アロと僕とで再戦になるなぁ。




