「エセ修行回」
「な、なんだこれ……」
目が覚めると体が楽になっていたから、日の光でも浴びようと思って外に出たんだけど
「庭が……てか、え? これ、庭なのか!?」
昨日まで何もなかった我が家の庭に、けったいな"アスレチックのようなもの"と"そこそこの大きさの池"と"花壇(これは別にいいけど)"があった。
ていうかよく一日でこんなもの作れたな……。
家の方からスザクがやってきた。
「あ、兄ちゃんおはよう。もう体はいいの?」
「おはようスザク。体は……大丈夫だと思うよ」
むしろ快調過ぎて自分でも不安なぐらいだ。
「スザク、庭で何かするの?」
こっちに来るってことは外出じゃなくて、庭に行くってことだよね。
「うん、昨日秘密基地作ったからちょっと見てくる」
…………これ以上何が出てくるんだろう。
スザクの後についていき、かつては手付かずで放置してあった辺りに入っていく。
そのうち小さな礫が敷かれているこじんまりとした庵にたどり着いた。
「なにこれ……」
驚きを通り越して呆れたよ。
もうどうでもいいや、僕は海底でユラユラ揺れる海藻みたいに波に身を任せるよ。
「それにしても、ここだけ和風だから何か周りとのギャップがすごいな……」
「あっちの林には秘密基地もあるんだよ」
「秘密基地ってこの庵のことじゃないの!? まだこれ以上があるの!?」
半日の間に我が家の敷地で一体何が起こったんだ?
「うははは、孔弌君、よくぞ元気になってくれたね」
「トースト齧りながら豪快に笑わないでよ、パンクズが飛んでくるんだけど」
全くリュウは……パンクズが勿体ないじゃないか。
「孔弌さんは、汚れるとか汚いとかじゃなくてパンクズの心配をするんですね」
横にいる氷凍も話しかけてくる。さっきまで全員分のパンを用意していたせいでようやく席につけた次第だ。
しかし、この人数分の食パンを一台のトースターで焼くのは流石に時間がかかるなぁ。
案外昨日みたいに鍋とかのほうがいいのかな。
「へい、パンのおかわりだ!」
流石にセラは最初に食べ始めたから早いなぁ。
「え、すみません。パンは今焼いているので終わりなんですよ」
――チンッ。
「あ、丁度最後のパンが焼けたみたいですね」
「お、丁度よかった。このパン貰うからな」
「うわぁぁぁあ、僕のパンがぁぁぁあ」
氷凍のリアクションが無駄にうるさいっていう。
「全く、想像しい連中だね。食事はもう少しエレガントにしてくれないか」
さっきまでパン食べながら豪快に笑ってたやつが……。
「時に孔弌君……」
リュウが少しだけ真面目な顔になった。
何か大事な話かな、少しだけ緊張する。
「学校の課題はちゃんとやっているのかい?」
「うわぁぁぁぁああ、そんなもの存在しないんだぁ」
なんてことを言いやがりますかこいつはぁ!
夏休みや冬休みの最後の日に『明日から、学校だなぁ』って言われるのと同じぐらい嫌な言葉だ。
「まぁ目を逸らすだけじゃ逃げられないのが現実だ。がんばれ」
「そして、その他人事のようながんばれって言葉が一番嫌いなんだぁぁぁあ」
「……孔弌、課題って何?」
「いいかいテンちゃん、課題っていうものは子供たちに計画通りの行動がいかに重要かを教えてくれる一種の試練のようなものなんだ。でも同時に人生はそう計画通りには行かないんだという事も教えてくれるものでもある。しかも大人の仕掛ける巧妙で下劣な手法のせいで幾度となく最終日手前に苦汁をなめることになるという恐ろしい儀式でもあるんだ」
なんで宿題って年々難しくなるのに、問題数は増えていくんだろ。
「……ん、よくわかった」
ふぅ、わかってくれたか……。
「随分と偏った意見じゃのぅ……」
「事実だよ、事実」
うんうん……僕は全国の同志たちの代弁者だ。
「ま、当の本人たちに課題があまり好ましく思われていないのは事実だからねぇ」
あまりどころか、無ければいいって思ってるのがほとんどだと思うんだけど。
多くの人はずっと遊んでいたいと思ってるからね。
朝食が終わった後そのまま解散してみんなそれぞれの部屋に戻ったけど
アルテに一応今日は一日家にいてくれって言われたからなぁ。
課題……誰がそんなバカな選択肢を選ぶかっ!
僕には曲げられない信念があるんだ!
ま、まぁ時と場合によっては……譲歩も考えるけど。
さてそんなバカな事一人で考えてないで、とりあえずうろうろしてみるか。
「おう、孔弌じゃねぇか」
「あれ? どこか出かけるの?」
玄関の方に向かってるみたいだけど……。
セラを一人で外出させてよいのだろうか……。
「ん、ちょっと庭の方にな」
「なんだ、庭かぁ~。そっか~」
ふぅ、安心安心。
この家の敷地内なら他人様に迷惑をかけることはないだろうし。
「なんか引っかかる態度だな……。まぁいいけどよ」
「それで、庭で何するの?」
というか、これ以上庭に何をするつもりなのか……。
やばい、ヒヤヒヤしてきて少し汗が出てきたぞ。
「おいおい、大丈夫か孔弌? すごい汗だぜ」
「な、夏だからね……」
この汗は多分嘘を付いている味だ。
「ほら、手巾貸してやるよ」
「うわ、ハンカチ持ってるよ!?」
紳士的だけど、すさまじいギャップだ。
「何そんなに驚いてんだ?」
「い、いや、何でも……」
しかし、あの服のどこにハンカチを仕舞ってるんだ……。
脇の下……、いや、ないない。
「ふぅ……で、結局庭で何するの?」
嫌な考えを振り切って、何とか話題を戻す。
「鍛錬だ、鍛練」
「鍛えるってこと?」
何を……かは、知らないけど。どうせ体のトレーニングだろうけど。
「あぁ」
それにしても鍛錬かぁ。
ん~む……。
「ねぇ、僕も一緒に行っていい?」
ここの所自分の非力さが嫌になってきたからなぁ。
暇な時間に運動がてら体を動かすぐらいしておいたほうがいいかも。
「ん? 俺は構わないぜ。でもいいのか? お前まだあんまり激しい運動ダメなんだろ?」
「そういう状態で戦う時を想定して……の特訓さ」
「おぉ、流石孔弌。そういうことなら喜んで手伝うぜっ!」
セラならこういえば納得してくれるって信じてたよ。
「しかし、改めて考えてみても、やっぱりこれを一日で作ったってすごいね……」
まさか自分の家にアスレチックができることになるとは……。
S○SUKEができそうな設備だ……。
それに、しっかりと形になっているあたりセラは器用なのかもしれない。
さっきのハンカチといい、やっぱりもうちょっと見なおしたほうがいいのかも。
「すごいだろ? 設計は全部氷凍にさせた。細かい所の調整もな……」
「………………」
前言撤回だぁ!
氷凍苦労してるなぁ。
パシリフェロモンでも出てるのかな。
序列も低そうだし……。そんなのあるか知らないけど。
「セラはいつもこんな風に暇さえあればトレーニングしてたの?」
「まぁそうだな」
すごいなぁ。
「俺はよ……、頭も悪いし、術も凝ったものは使わない。あるのは霊力と腕っ節だけだからな。それだけが俺にできることだからな。自分の力だけで生き残っていくためにはやるしかなかったんだよ」
「………………」
「ま、今はただ習慣になっちまったって言うか、やらないと気がすまないだけだ。というかもうほとんど俺の趣味なんだけどな」
何も考えてないみたいだけど、セラも色々と悩んでるのか。
「で、お前は何を鍛えたいんだ? おおっと言っておくが頭脳は流石の俺も助言できないぜ?」
「誰もセラに勉強を教えてくれなんて言わないと思うよ……」
もちろん僕も言われないだろう。
ん~、何を鍛える……か。
このアスレチック一週ぐらいすれば、少なくとも根性とかはすぐ鍛えられそうだなぁ。
「ここの筋肉か? それともこっちか? それとも耐久力とか持久力か? まさか骨から鍛えるのか?」
骨とかはともかく持久力は……確かに足りてないなぁ……。
1500M走も6分前後だし……。
「セラは、僕が強くなるためにはまず何を鍛えたほうがいいと思う?」
それもできればすぐ成果が出てくれないといけないからなぁ。
早かったら今日にでもまた貴人さんが現れたり、強い妖怪が出てきたりするかもしれないし。
「孔弌が強くなるには……か、ゴクリッ」
なぜ今つばを飲み込んだ!?
「ん~……」
こう、唸りながら真剣に考えるセラを見るのは……むしろ不安になってくるな……。
「って、そういえば俺はお前がどういう風に戦うのか全くしらねぇんだった」
「はっ、そういえばそうだった!」
実際僕の事を認めてもらう時もよくわからないクイズ対決しただけだし。
「そうだなぁ、特技とか神装具の特性とかあるだろ?」
僕の武器って確か……
「リュウが言うには、これが僕の武器らしいんだけど……」
力を込めて、左手に浮かび上がってきた模様を見せる
「これ……か?」
「うん、これ」
「………………」
「………………」
「…………そうか」
あれ!? なんで残念そうなの!?
「どうだ? 模擬戦でもしてみるか?」
「僕の命が危なくなったりする?」
一番重要な事を聞く。
「ふっ、悪いがどんな事にも全力で挑む性質でね。手加減は得意じゃないんだ」
「無駄にかっこつけてさらりとそんな事言わないでよ……」
もしかしたら殺しちゃうかもっ☆ミ って言ってるんだよね……。
「それなら、天奈に手伝ってもらった方がいいかもな。俺だとうっかりお前を討ちとってしまうかもしれないから……」
う~ん、確かにテンちゃんなら
「……孔弌、一人で考えても進まない時は、仲間の手も借りる。最近気づいた鍛錬のコツだ」
「まぁ別に鍛錬に限ったことじゃないと思うけど。しかも最近気づいたのかよ」
確かにセラの言うとおりだし、ここはテンちゃんを呼ぼう。
「テ~~ン~~ちゃ~~ん!」
家に向かって叫んでみる。
全身から湧き上がるこの熱い思い! テンちゃんに届け!
「あのな孔弌、そんなんで来るわけ……」
「……何?」
「うおわっ、お前いつの間に俺の背後に!? 条件反射で唾かけそうになったぞ」
セラは背後に立たれたら唾をかけるのか……嫌な反射だな。今後のために一応覚えておこう。
「……セラ、驚き過ぎ」
「それにしても、まさか本当に来てくれるとは」
呼んだ自分でも驚きだよ。
「……孔弌…………?」
「あ、いや、僕はすぐに飛んできてくれるって信じてたからね?」
とにかく事情を話して協力してもらおう。
「……ん、話はわかった」
さっすがテンちゃん、理解が早くて助かる!
「セラはもっと見習え!」
「何!? わけもわからず突然怒られた!?」
「お察しください……」
「そ、そうか。まぁいい。それで天奈、お前はどう思うんだ?」
どう思う……っていうのはもちろん僕が強くなるためにはまず何をするべきかってことだろう。
「ちなみに俺はここの筋肉が足りないと思う。あとはここさえ鍛えればバランスのいい体つきになると思うんだが。まぁ全体的に少ないとは思うが、そこはおいおいだな」
どうでもいい、流そう。華麗に流そう。
「……ボクは、孔弌は単純に経験が足りないと思う」
ま、そりゃ確かにそうだけど。
つい十日前までは妖怪の存在すら知らなかった身だからなぁ、経験が圧倒的に足りないのは当たり前だ。
当たり前だからこそ、言われてもどうしようもないわけなんだけど。
「と、なるとやっぱり模擬戦か。すまん孔弌、先に謝っておく」
「すごい不吉な謝罪なんだけど……」
「まぁ……できるかぎりは手加減……できるのかっ!?」
「知らないよ!?」
全く、なんなんだこの妖怪は。
「……孔弌、体大丈夫?」
「うん、そっちは平気みたい。少し動いてみたけど全然大丈夫だったよ」
「そう」
「……それならボクも手伝う。セラだけだと危ないから」
うわっ、やっぱり危ないんだ!?
「それに……孔弌とくんずほぐれず」
トトトと近づいてくる。
「最近テンちゃんが何言ってるのかよくわからなくなってきたよ」
いや、テンちゃんだけじゃなくてみんな最初のころに比べて壊れすぎだよ。好意は嬉しいんだけどねぇ。
「と、いうわけでその後はセラとテンちゃんに刀とか剣の握り方を教えてもらったり、軽い稽古をつけてもらったり、霊力の扱い方を教わったりしてたんだよ!」
「……孔弌、何一人で喋ってるの?」
「いや、こういう説明的なセリフを僕が心の中で考えてるのってなんか改めて客観的に見ると気持ち悪いじゃない?」
脳内実況が激しいってかなりやばい部類の人物だよね。
「……一人で喋ってるのも不気味」
ちなみに今は休憩中。
「それにしてもあれだ。お前随分と器用だな」
「ん? そうかなぁ」
技術の授業の成績はボロボロだったんだけどなぁ。
ミニ四駆も一人で作れなかったし。ちなみに僕のミニ四駆は全然スピードが出なくて、ループを登れないっていうかなり惨めな思いをしたことがある。
「法術無しで火や水を出すし、肉体強化もできる、武器も出せるしな。あとは俺みたいに根性さえあれば……」
ま、全部神装具って奴の力だけどね……。
「……うん、孔弌は器用。……英語で言うと、テクニシャン?」
「なんでわざわざ英語で言うの!?」
しかも、どこで覚えてきたんだ?
純国産妖怪なのに。
「なるほど、今の世では器用な奴はテクニシャンって呼ぶのか……」
「いや、言わないよ。ずれてるからねその考え」
あーあ……変な奴に変な言葉刷りこんじゃったよ。
「それなら、天奈もテクニシャンだな」
「へぇテンちゃんも器用なんだ」
確かに頼んだことは大体何でもできるし、万能って感じはするけど。
「あとは……熱い心があれば完璧なんだけど、それが惜しまれるね……」
「孔弌、お前わかってんじゃねーかっ! うはは」
セラもテンちゃんのスーパー系コンバートに賛成なのか。
必殺技は叫ぶのがデフォな熱血テンちゃん……無理かなぁ。
「けんすいでもするか」
そう言って本当にけんすいを始めたよ……。
元気だなぁ、セラは
僕は流石にもう動けそうにないかな。
あとはそうだなぁ、残った式神のことでも聞いてこようかなぁ。
どういう戦い方をするのとか、特徴とか知ってるだけで戦闘を有利に進められるかもしれないし。




