「共闘・遭遇・暴走」
さて、現在この街のいたる所にモヤモヤ犬が湧いてて、襲われてる人の救出に向かってるわけで。
今更になって思ってきたんだけど、僕一人で大丈夫かなぁ。
でもリュウや皆も僕は十分強いって言ってたから……大丈夫だと信じよう。
比較対象が悪いだけなんだ……そう、皆が強すぎるだけなんだ。
なんて風に不安を抑え込んでるうちにそろそろリュウが言ってた場所だな。
「ハァァァッ!!!」
誰かの叫び声と獣の断末魔と剣戟音が聞こえてきた。
やっぱり霊力の高い誰かが襲われてるのか。とにかく急ごう。
「あ、トマトさん!」
あそこにいるのはあの親切な女の人だ。
双剣のようなもので、交戦している。
「え、孔弌? どうしてここに」
「ど、どうしてって……危険な妖怪が出たから退治してまわってるんだけど」
「そっか、孔弌は今神の手伝いをしてるんだったね」
「それよりもトマトさん大丈夫?」
見ると結構怪我をしてるみたいだけど……。
名前の由来になったトマトジュースがところどころに見られる。
「大丈夫だよ、こうみえて頑丈だから。でも孔弌は危ないから来たらダメだよ」
「でも、ほら……とにかく僕も手伝うよ!」
知り合いが襲われてるのに黙って見過ごせないよ。
「やぁッ!」
刀を振るとスパッと肉を切る感触の後にわずかなヌメリを感じ、そして次の瞬間敵が煙になり消える。
うぅ……生々しい感覚だ、手加減はするなって言われたけど……
「これが何かを斬るってことなのかな……」
とにかく今はそんな事気にしていられない。向かってくる敵を斬っていく。
うぅ、アルテは軽々倒してたけど結構手ごわいぞ。
正直、僕じゃ囲まれると苦しいな、これ。
「孔弌大丈夫? やっぱり危ないんじゃないかな……」
「ははは、大丈夫だから」
ようやくトマトさんの近くまで辿り着いた。
「そっか、正直助かるかも。ありがと孔弌」
「なんの、どういたしまして」
「そういえば孔弌の式神は?」
「えっと、今手分けして敵を退治してるからみんな別のところ」
もしかしたら他の組もバラバラに行動してるかもしれないなぁ。
「とにかく、とっととこれを片付けて家に戻って早くみんなでご飯食べないとね」
せっかく用意したのに冷めちゃうのは嫌だからなぁ。
「孔弌達はとっても仲良しなんだね」
喋りながらもトマトさんは双剣で敵を倒していく。
「そうだね、みんな仲良くやってるよ……っと」
トマトさんほど余裕があるわけじゃないけど、僕も答える。
それにしてもこれ一体あとどのくらいいるんだろ……。
なんてことを僕が考えてると
「――おや、ここは当たりのようですね」
若い男の声が、けたたましいはずの現場に不気味なほど木霊する。
「――よし、近くにいる妖怪をここに集めなさい」
そう言って、空からナルシストっぽい男が落ちてきた。
どこか中世の貴族を思わせるのようなうさんくさい格好にセミロングの白髪が相まって、只者じゃない感じが滲み出てる。
僕がぼんやり眺めていると、眼鏡の奥で赤い瞳が攻撃的な光を宿す。
「アルキリラレウリレレウスッ!」
叫ぶと男の手には何か長い槍のような針のようなものがものが出現した。
しかし何という早口言葉。武器を出すのにいちいちあんな恥ずかしい言葉を叫ばなくちゃいけないのかな。
「ふふふっ、どうもこんばんは」
の言葉とともに鋭い音がする。
男が間髪入れずに針のようなものでトマトさんへと攻撃を放つ。
「……くぅっ」
なんとかそれを逸らして攻撃を防ぐ。トマトさんすげぇ。
「あんた何なんだ! なんでいきなり襲ってくる!」
「おや、あなたは例の子供ですか。今はあなたには構ってあげられないんです。そっちで遊んでいてください」
「グルルゥゥウ!」
うわ、妖怪がものすごい集まってきた。
さっきよりも多い、これじゃ本当にキリがない。
僕が手間取っている間に男がトマトさんとの間合いを詰める。
「さぁ、始めましょうか」
風を切るような音とともに男がすごい速さの突きを繰り出してくる。
すごいな、あの人ビリヤードやったらすごい威力で球を打てそうだ。
なんて、呑気に考えてる場合じゃない! 金属がぶつかり合う高音が信じられない早さで何度も夜の街に響く。
「やめて、私は戦いたくない」
喋りながらも攻撃を受け流しているトマトさん。
「ほらほらぁいきますよ」
しかしあの男、まるで話を聞いてないな。
「っと、僕の方もあんまり見てる余裕がないんだけど、っさ」
「はははっ、なかなかいい動きをするじゃありませんかぁ! ですが、これでっ!」
肉に刃物を突き刺した時の嫌な音が響き渡る。
「……ッ」
とうとうトマトさんの肩に針のようなものが刺さった。
「はっははぁ、ようやく当たりましたねぇ」
ジワァっと服に血が染み込んでいって広がる。
「トマトさん!」
「……大丈夫、こんな傷」
トマトさんが手を傷口に当てる。
「あれ、塞がらない」
「無駄ですよ。私の武器でついた傷口の周辺は……人間で言うところの新陳代謝機能と言えばいいですかね、それが低下し、例えあなたであってもそう簡単には傷は治りませんよ」
武器の特性ってやつか。てか、そんな大事な事ベラベラ喋るなよ……。漫画のキャラだってもっと勿体ぶるぞ。
そういえば神装具にはそれぞれ何かしらの特殊効果のようなものがあるってリュウが言ってたけど、まともに能力解説したのはあの人が初めてだな。
どうも僕のこの左手の模様は式神の力を自分の武器として具現化したり、特殊な力を使えるようになる能力らしいけど。
そして傷を負ったトマトさんを男が更に突き続ける。
「傷が一つ増えただけで動きは鈍くなる。そうしてまた新しい傷ができる。たまりませんねぇ!」
「おい、やめろよ! どうしてそんなことをするんだよ!」
「おやおや、私はあなたのためにやってあげているんですよぉ?」
「僕のため? ふざけないでよ!」
一体何が僕のためなんだ!
「待っててトマトさん、今僕がそいつをぶっ飛ばしてやる」
あの野郎、僕のスーパーラリアットでぶっ倒してやる!
警察官には効かなかったけど。
「ダァァァアアッ! 行くぞぉ」
行く手をさえぎる獣たちを蹴散らしながら男へと一直線に向かっていく。
「グルルァァア!」
「……ウッ」
不意を突かれて獣に二の腕のあたりを爪で引っ掻かれた。
「クソォッ!」
やけくそに刀を振って獣を払う。
「孔弌ィ……!」
「おや、よそ見する暇はありませんよ?」
男の攻撃は今だに止む気配がない。
「私は戦いは嫌いなんだよ……。でも、孔弌をいじめないで!」
双剣を前に突き出して構えをとると
「……解除します」
その言葉と共に赤い波紋がトマトさんを中心に広がる。
「起動しなさい……」
トマトさんのその言葉で双剣の形が少し変わって切っ先から赤い光が出る。
「言ったよね? 戦いは嫌だってさッ!」
剣から出ている赤い光がのびる。
その剣を二、三度振っただけで周りの妖怪が消え去った……。
しなるような、いや、実際しなっていたあの赤い刃、とにかくすごい……。
「な、なんですか、これはぁぁぁ!?」
相手もかなり動揺してるみたいだけど……。あとセリフから醸し出される噛ませ臭がやばい!
「お前は、絶対に殺す……」
って、相手の事を気にしてる場合じゃない。明らかにトマトさんの様子がおかしい。豹変してるっていうか、とにかくやばい!
フワフワとトマトさんの体が赤い光を帯びていく。
「消え、去れぇぇぇぇっえ!」
そしてトマトさんを中心に……
紅蓮の光が辺りを満たした……。
光は徐々に膨らんでいって、まるで破裂寸前の風船の中にいるみたいだ。
まるでこの世のものが全て溶け去ってしまうみたいだ。
ていうか、今現在、僕の前髪がチリチリ音立ててるし!?
ちょっ、勘弁して……このままじゃモサモサのあの髪形になるって!
いや、もしかしたら通り越して全部なくなる!?
「はは、……あははははははっ!」
攻撃が終わった後もトマトさんは平然と立っていた。
ていうか笑ってるし。
「はぁはぁ……な、なんですか、これは!?」
敵はもう立つのが辛そうなぐらいぼろぼろになってる。ざまぁ。
「……大丈夫」
そう呟くトマトさんの瞳からは光が失われてて、全く大丈夫な気がしない。
「うふふっ、すぐに蒸発させるからさ」
物騒な言葉とともにその敵に向けてさっきの2つの剣を向ける。
「そんな! そんな! この私がぁっ!」
「シュベル、手を伸ばせ!」
ふいに女性の声がその場に響き渡る。そしてどこからか女の人が飛んできて
「お綾さんですかっ! 助かります!」
突如として現れた女の人が針男の腕を掴む。
なんだろう。この男といい、こいつらすげぇ突然現れるな……。
「その名で呼ぶな!」
いや、その内輪もめはどうでもいいよ。
「逃げられると思ってるの?」
まるで鞭のように剣を振るって追撃するトマトさん。
「強引に離脱する」
「くっ」
「そのまま掴んでおけ」
まるで霧か何かのように一瞬で消えた。
それと同時の周りの妖怪もいきなり霧散。
さて、今の一瞬で一体何が……。
あまりに突然の出来事に僕の動体視力および認識能力じゃついていけていないぞ……。
とにかく検証班の出動を要請してスローカメラの映像を見せてもらわないと。
「トマトさん! 大丈夫?」
立ち尽くすトマトさんのそばに駆け寄る。
「うっ、あ、あ、孔弌」
「あぁよかった、無事みたいだね」
さっきより少し傷が増えてるけど大丈夫そうだ。
「……ッ」
ズキリと掌に痛みが。
「孔弌、その火傷……」
「え、あ、ほんとだ。僕こんなところ火傷してたんだ」
「私の、せいで……」
「え? あ、えっと気にしないでよ! トマトさんがいなかったら多分助からなかったし」
「でも私がもっとうまくやっていれば……」
うまくって。あの状況じゃ仕方なかったと思うんだけどなぁ。
「ごめんね孔弌、私がこんなんだから……」
「あ、いいよ全然。ほんと、気にしないで」
「本当に、ごめんね……」
そのままがっくりと項垂れる。
「……私、もう行くね。ちょっと一人になりたいから」
俯いたままそれだけを言う。
「あ、あの」
「それじゃ孔弌、またね」
遠ざかっていく背中からは、何となくショックを受けてるんだろう空気を感じる。
僕は気にしてないよ、トマトさん……。
そういえば、さっきの奴……。
トマトさんのことを狙っていたみたいだけど、何者だったんだろ。
街に妖怪を嗾けたのもあいつっぽかったし。
多分悪い奴なんだろうなぁ。
そのまましばらくそこで考えていると……。
「孔弌、無事だったか!?」
「あ、アルテ。うん、少し怪我したけどまぁ無事だよ」
アルテは僕とは対照的に汚れひとつついてないな。
「そうか、無事か、よかった。さっきこの辺りでものすごい攻撃があったようだが」
「あぁ、えっと、それ多分ここで襲われてた人の攻撃。その人僕の友達だったから、それで二人で一緒に戦ってたんだよ。ほら、前も話した荷物を運んでくれた親切な人」
「ふむ……まぁ私はお前が無事で何より。他の妖怪も退散したらしい。早い所戻って飯にしようではないか、詳しい話はそれからでいいだろう」
アルテの言う通りだな、僕もお腹ぺこぺこだよ。
「そうだね、それじゃ早く戻ろうか」
「なるほど、孔弌君の所にも親玉らしい人物が現れたのか」
ご飯を食べながら、みんなでそれぞれの報告をする。
「あれ、僕以外の所にもそういう人来たの?」
「あぁ、せせらぎ君の所と天奈君の所に妖怪を束ねていると思われる人物がね」
そっか……。みんな全然無事みたいでよかった。ていうかボロボロなのは僕だけか……。
またしても力の差を感じるなぁ。
「俺の所にはなんかよくわかんねぇ女が来たなぁ。出たと思ったらすぐ消えて、また出てはすぐ消えて、挙句の果てには何もしないでどっか消えちまうからな。全く、久々に肩慣らしができると思ったのによ」
何とも強気なセリフだなぁ……。
「この鍛えた技を発揮する機会が少なくて困るぜ。氷凍、腕相撲でもしねぇか?」
「えぇ、嫌ですよぉ」
「どうも今回の妖怪出没は何やらただならぬ裏があるようじゃの」
「みたいだね……今の状況からじゃ何とも言えないけど、少なくとも糸を引いてる者達はいるみたいだな。最低でも三体か」
「そういえば、僕の所に来た変な男はトマトさんの事狙ってたみたいだったよ」
「トマトさん? 誰だいそれは?」
「えっと、よく荷物運びを手伝ってくれる親切な人で、トマトジュースを口から吐き出したりできるんだ」
「なんだいその、面白おかしいちょっと憎めない人は……」
「おいおい、なんだそのすごい奴は? 詳しく教えろ孔弌」
やけにがっつくなこの二人……。
「えっと、ほら、テンちゃんとかアロも前に会った事があるよね?」
「……うん」
「は、はい」
「そうか、しかしどうしてその人が狙われていたんだろうねぇ」
「敵の狙いは、トマトジュースだったんじゃない?」
「おぉ、孔弌もそう思うか。俺も今そんな気がしたんだぜ」
「ははは、今日は意見が合うみたいだね、セラ」
わはははと握手をする。
「ふざけてないで真面目に答えてくれないか……」
うわ、リュウにそういうこと言われるとなんか嫌だなぁ。
「……ボクの所に来た妖怪も何か探してた」
「ふむ……」
「テンちゃんの所にはどういう人が来たの?」
「……パジャマを羽織った女の子」
パジャマ、パジャマって寝巻きのパジャマだよね。
どういうことだろう。相手は夢遊病の人だったのかな。
「ずっと黙ってたから、ボクもずっと黙ってて、それから勝手にどこかへ行った」
パジャマ女子と無言で見つめあう光景……なかなかシュールだ。
「とにかく今はまだ分からないことだらけで結論の付けようがないからね、あんまり深く考えないでおこうか」
ま、それが一番。日本人の最強スキル先送り。
「式神の事があるのに、これ以上問題が増えるのかぁ。やだなぁ、どうして僕神なんてやってるんだろ」
うわぁ、なんだこいつ。
「あ、いや冗談だからね?」
そのあとすぐに部屋に戻って寝ることになった。
掌が少しヒリヒリする。
トマトさん大丈夫かなぁ。
…………。




