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キズナの鬼  作者: 孔雀(弱)
第4章挿話「決意の六ヶ条」
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「他人嫌いと孤独~view of Aro~」

多分、三点リーダー多用文法が一番炸裂した話

 私の名前は、アロ。

 ついさっきまではなかったけど、新しいご主人さまがつけてくれた、名前。

 アロ……なんだかすごくいい響き。

 それに……あの新しいご主人さま、孔弌さんは、とっても不思議。


 私があの人と初めて会った時、あの人は私に炎の術を撃ってきた。

 外れてしまったけど……。いいえ、あれはあの人が外してくれた。

 意識的か無意識的かはわからないけど、あの攻撃は間違いなくあの人が外してくれた。

 どうして、外してくれたんでしょうか……。

 不思議な人。


 ここは、あの人の家。

 たくさんある空き部屋を1つ自分の部屋にしていいってさっき言われたからいいお部屋を探しにきた。

 私達をこんな風に扱ってくれる人ははじめて。

 前のご主人さまは、私達を道具としか思ってなかった。

 いや、基本的に式神や使い魔を従えている人は、あそこまで酷くないにしても、ここまでいい扱いはしてくれないと思う。


 どうしてだろう、あの人が気になる。

 今までは、誰かが気になるって思ったことなんてないのに。

 誰かと積極的に会いたいと思ったことはないのに。

 それどころか、自分だけの世界にずっと閉じこもっていたい……。ずっとそう思っていたのに。


 だけど、私はあの人の前に立ったらまともに喋ることはできないだろう。

 さっきもそうだった……。

 あの人は一生懸命私に合わせて話してくれたのに、私は首を振るか、ほんの少しの言葉を吐くことしかできなかった。

 誰かの前に立つのは怖い……。

 私にとって誰かに見られることは、とてつもない恐怖。


 前のご主人さまは、そんな私を無理矢理戦わせた。

 主従の関係には逆らえない。

 でもあの人は、私は一緒に暮らしてくれてるだけでいいって言った。

 たたかったり、悪いこともしなくていいと言った。

 それに勾陣の位、朱雀の位、私と同じぐらい誰かと関わることを避けていた天后の位でさえ、あの人のことをいたく気に入っているみたい。

 …………もう一度あの人の所に行ってみよう。

 私はそう思ってたった今決めた自分の部屋から出た。


 階段を降りると、ちょうどみんな玄関のところに集まっていた。

「あ、アロ。今からマッポの所までバカなことをしにいくんだけど……来るわけないよね?」

 マッポ? バカをする? どういうこと?

 周りにいる天后の位や朱雀の位も楽しそうだ。

 何をしに行くんだろう……。


「…………アロ?」

「ぁ……ぁぅ……」

 ど、どうすればいいの……?

 やっぱり、怖いよ……。

「えっと、無理ならこなくていいから。まぁ2時間以内には帰ってくるからその間ご飯我慢してもらっていいかな」

 こくりと頷く。

「それじゃ行ってくるね。お留守番頼んだよ」





 それから暫くしてから、みんなが帰ってきた。

「あ、アロただいま。今からご飯作るから待っててね」

 ご飯……。

 私達は妖怪だから、基本的に人間ほどの食糧を必要としていない。だから普通は食事らしい食事をしないはずなのだけど

「うわー、早く食べたいよ。僕もうお腹ぺこぺこ」

「妖怪は、そんな簡単には空腹になったりはしないだろう」

「じゃ、アルテはいらないの?」

「まぁ、そのなんだ……孔弌、たくさん作ってくれ」

 ボソボソと最後の方をごまかすように呟く。

 みんな楽しみにしているみたいだ。


 人の多い居間にはどうしてもいられないので、自分の部屋に戻る。

 長いこと使われていなかったのか、この部屋には所々そういう痕跡が見て取れる。

 最低限の掃除はしてあるみたいだけど、やっぱりあらためて自分の手できれいにしたほうがいいだろう。

 窓を開けて、さっき用意しておいた掃除用具一式を使って部屋の掃除を始める。


 そろそろ掃除にひと段落がつくというところで。

「アロー!ご飯できたよー」

 下の階からあの人が私を呼ぶ声が聞こえる。

 部屋を出て、恐る恐る階段を降りると。


「ご飯できたよ、食べよ」

 ご飯を食べる、ということはみんなでひとつの部屋に集まるってこと。

 む、無理です! 私にそんなの無理!

「…………」

「ん~、まぁ…無理だったら自分の部屋で食べてもいいよ。慣れが必要だからね慣れが」

 こんな自分を慣れで変えられるのかなぁ……。


 結局、今日はあの人の言葉に甘えて自分の部屋で食べることにした。

 静かな部屋で一人外を見ながら、ご飯を食べる。

「おいしい……」

 それにとっても暖かい。

 まるであの人そのもの。

 何かを食べて、美味しいなんて感じたのは初めてだ……。

 自然と涙が出てきた……。

 そういえば恐怖以外で涙を流したのも、初めてだ。


 どうして涙がでたんだろう?

 はじめて食べるまともな食事に感動したから?

 あの人の優しさを感じたから?

 それとも、あの人のいるところで食べられないのが悲しくて涙がでたの?


 そのあと食器を下へ返しに行って、また部屋に戻ってきた。

「よし……」

 私は決心していた。

「自分を変えよう」

 机の上に一冊の本を開く。


 この本は、さっきみんながでかけている間にこの家の書斎から借りてきたものだ。

 題名は

「『対人恐怖症を克服するために』……」

 まさしく私におあつらえ向きの題名。

 現代の字は、なんとか読むことはできるし。

 あの人の式神になったおかげで、ある程度この時代の知識も私の中に少し流れてきているから。

 読書すること自体には多分問題はない。

 それにしても

「ふふ……」

 私がこんな風に自分を変えようと思う日が来るなんて……。

 たった一日で私、どうしたのかな。


「対人恐怖症克服のための6カ条、その1……スマイル」

 スマイル……スマイルっていうのはつまり笑顔ということらしい……。

「話をする時に笑顔で話すことによって、相手に対して信頼と愛情を表すことができて、相手を安心させることができます。相手が安心してくれば自然とあなたもリラックスできるはずです」

 面と向かって話もできないのに笑うなんて……。

 む、無理だよぉ……。

 えっと、次は……。


「6カ条、その2……オープン」

 オープンは開放的にという意味らしい。

「ええと、相手に対して開放的な態度で接することでより自分を知ってもらうことができます」

 自分を知ってもらう……。

 だ、だめだよ、そんなの……できないよ。

 私を知ってもらうなんて……どうせ私はただの臆病な女の子だと思われてるし……。


「6カ条、その3……フォワード?」

 フォワードは、ええっと……前かがみで話す?。

 前かがみで話すことと臆病が治るのとどう関係があるのかな。

「前かがみで話すことにより、相手に自分は話を親身になって聞いているということを伝えることができます。オドオドして俯いたりしていると、相手に対してマイナスの感情を抱いていると思われます……」

 た、確かに私は前かがみで人と話すことはできないけど……。

 でも前かがみ……前かがみ……。


「6カ条、その4……タッチ」

 タッチ……タッチは確か相手に触れるという意味だから……。

 えぇ!? 触れる……!


「む、無理だよぉ……」

 近づくのも私にとったらすごい恐怖と苦痛。

 そのうえ触るだなんて……。

「きゅぅぅぅう…………」

 ………………。

 …………。

 ……。



「はっ!」

 目が覚めた……。

 目の前に本が開かれている。

「わ、私もしかして……」

 他人に近づく状況を考えて、気絶した……。

「こ、こんなことじゃ……ダメ、だよね」

 気を取り直して、続きを読まなくちゃ。


「6カ条、その5……ノッド」

 ノッド? どういう意味だろう。

「ノッドとはつまりは頷くことです。頷くという仕草をすることによって相手に同意していることや自分が理解していることを伝えることができます」

 わ、わ、私だって少しぐらいなら頷くことはできるから、これは必要ありませんね!


「とうとう最後。6カ条その6……アイコンタクト」

 目で相手に合図を送ること。

「相手の目を見ることによって更にコミュニケーションを円滑にすすめることができます。逆に下を向いたりして相手の目を見ていなかった場合、自分の話にまったく興味がないと相手に思われてしまいます」

 これです……!

 これなら、声を出さなくても興味があることを相手に伝えられます。まずはこれからやりましょう。


「最後に……相手と親密になることを恐れないでください。確かに相手に自分や自分の考えを拒絶されることはしばしばあるでしょう。ですが、それを恐れずに立ち向かってください。また、対人恐怖症の最大の訓練は、想像です。誰かと会話するシーンを自分で思い浮かべることで人前に出ることへの耐性がつくでしょう」

 ぅ、さっき想像しただけで気絶してしまったのですけど……。


 と、とにかく今日はもう寝ましょう。

 自分の寝床にはいる。

 暖かい……、安心して休めるってこんなにも気持ちのいいことなんだ。

 ………………。

 …………。

 ……。





 次の日。

 さっそく昨日の本で読んだことを実践しましょう。

 えっと、アイコンタクト……。

 とにかくあの人を探さないと……。


「はぁ、午前中はすることなしか~」

 廊下を歩いていたらあの人が自分の部屋に戻っていくのが見えた。

 と、とにかくここからあの人を見つめよう……。

 ――バタンッ。

「…………」

 扉を閉じて中に入ってしまった。これではどうすることもできない。


 ど、どうしよう……。

 と思っていると、今度は天后の位があの人の部屋の前までやってきた。


「孔弌……?」

「どうしたのテンちゃん?」

「何となく来ただけ」

 そのままトテトテと部屋の中へと入っていく。

 あれがあの天后の位……昔とはまるで違う。

 あの頃の周囲のものすべてに無関心な天后の位はもういないんだ……天奈……。

 私もあの子みたいに変われるかな。


「兄ちゃん遊ばない?」

 天奈さんに続いて次は朱雀の位が来た。

 みんなあの人の部屋に集まってくるのかなぁ。


「孔弌入るぞ」

 やっぱり勾陣の位もきた。

「うん、来ると思ったよ流れ的に」

「ん? どうしてだ? ってなんだみんないるではないか」


 中で何してるのかな

 気になるけど……私はあんな狭い空間で誰かと一緒にいるなんて怖い……。

 どうしてみんな平気なの……怖くないの……。


 ――バタンッ。

 次は、あの人が部屋から出てきた……。

 どうしたんだろう?。

 でもこれは絶好の好機です。

 が、頑張って近づかないと……。


「ジィ…………」

 あの人の事を見つめ続ける。

「ん?」

 あ、気づいてくれたのかな……。

「気のせいか……」

 あぅあ……。

 うん、まだまだめげずに頑張りましょう。


「ここかなぁ、アロ……入るよ?」

 私の部屋の前までいって。

 コンコンと数回ノックして

 ―ガチャ。

 ノブを回して扉を開いて中を覗いている。

「アロ?」

 どうやら私の事を探しているらしい……。

 それなら、私があの人の前に出ていかないと……。

「うぅ」

 やっぱりだめだよ。怖い、苦しい……。

 抗えない恐怖と苦痛、ここまで酷いともう理性ではどうしようもないと思えてくる。

 やっぱり私は自分の世界に閉じこもっているのが一番なのかな……。


 私がそのまま物陰からじっとみていると。

「誰かいるの?」

 そう言ってあの人がキョロキョロと周りを見渡し始めた。

「気のせいか」

 また行ってしまった……。

 その後も私はあの人がどこへ行くのかあとをついて行ってみた。

 あの人は家中を探し回りはじめた。

 私を探すために。

 どうして私を探しているの?


 家をくまなく回ったあと、私の部屋の前まで戻ってきて。

「どこにもいない……」

 そう言って。

「よし!」

 次の瞬間、あの人の体をすごい霊力が包み込み。

 ――フッ。

 と、はるで風のように一瞬で姿を消してしまった。

 いや、かろうじてどこに行ったかは見えたけど、突然どうしたんだろう?


「よっと」

 突然後ろからそんな声がして振り向くと。

「キャッ……!」

 あの人が……どうして……わからない……。

「あ~、やっぱりアロだったんだね」

 突然の出来事に私は何がなんだかよくわからなくなった。

 どうしよう、怖い、話、見られている、気にされている。


 気付くと私は反射的にあの人に矢を放っていた。

「あ……ぁ……」

 涙があふれてくる。

「あのっ……私っ……う、ぅぅ……」

 どうして……どうして撃っちゃったの……。

 こんなに変わろうとしているのに、どうして体はついてきてくれないの。

「あのさ、どうして泣くの?」

「う、うぅぅう」

「……っ、あ……の……」

 声を出そうとするけど、やっぱりだめ……。

 無理なんだ……。

 今まで逃げていたから、もうそういう体になってしまったんだ……。

 これは私への罰だ……。自分の悪い所を受け止めずに今まで逃げていた罰だ……。


「僕の事見てたけど、何か用だったのかな?」

「怖いんです……」

 そう、私は怖い……。そして大嫌いになってしまった……。

「自分以外のすべてが怖いんです……」

 こんな自分が大嫌い……。

 一人の世界に逃げたい……私はどうしてこの人に近寄ろうと思ったんだろう……。

「僕は逆に一人が怖いよ……」

「え……」

「僕はね、小さい時からずっと一人なんだ。家族もいないし、唯一の知り合いだったおじさんも家には滅多に来なかったからね。家族が欲しいって何回も思ったよ……。でも、そんなのは無理だったからね……。辛かったよ」

 そういえば…私達以外にこの家に住んでいる人はいないみたいだけど…。


「だからね、友達を作ろうって考えたこともあったよ。でも昔の僕は今よりもっともっと馬鹿だったから無理だった。家族のいる他の人を恨んだり、あげくのはてにその子達を見下してたんだ。自分よりも能力の低い存在、誰かに支えてもらわないと生きていけないもろい存在……そんな風に思ってたんだ」

 この人が……そんな風に他人のことを考えていたことがあったなんて……。


「僕は、もうあんな風に一人になるさびしい思いはしたくないんだ」

 私は一人をさびしいと思ったことはない……一人でいるほうが楽だし、誰かといるのは苦痛だったから……。

「だからね、君にしたら無理矢理なのかもしれないけど、僕は君が家に来てくれてすごく嬉しいんだ」

 嬉しい……?

 この人は私と一緒にいることがうれしいの?

 こんな私と……いることが……。


「あぁ、もうなんかごめんね。一人で語りだして」

 どうしてだろう。

 この人と一緒にいたい。

 自分を見てほしい。

 なら、頑張らないと……


「あ、あの……!」

 怖い、でも……。

「ん?」

「あ……ぁ……ありがとうございます…」

 言葉を口にしないと自分の事は何も伝わらない……。

 6カ条、その2……オープンにです。


 そのままあの人に近づく。

「…………っ」

 怖い……でも……私にできる一番を……。

 それでもこれ以上は体が動いてくれない……。

 先は長そうだ。

「そっか、今はこれが精一杯なんだね。ありがと」

 ぁ……。

 そっか、わかってくれたんだ……。


「あのさ、よかったら離れて見てるだけでいいから、僕の部屋に来ない?みんなで一緒にいたほうが楽しいと思うよ」

 みんなで一緒に……。

 私は、飛び出さなきゃいけない……。

 ううん、この人が私を変えてくれる。

 それなら、私もそれにこたえないと。

 どうしてだろう、この人のために何かしたい……。

 私、変わらなくちゃ!



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