「拾い猫」
「ふぅ、わかっちゃいたけど……。熱いな……」
確か今日は余裕で三十度越えてたよなぁ。
アロは平気なのかなぁ。
「あの……」
斜め後ろを歩いているアロが
「涼しくなる術、あります」
「え、そんな便利な術あるの?」
「はい」
「ふっ……」
アロがブツブツと何事かを呟くと
「あ、涼しくなってきた」
なんか、すごく快適な気温というか温度というか。
あぁ、これが指摘温度って奴か!
「アロもこの術使ってるの……?」
「えっと、私は……特に気にならないので……」
長袖なのに、この暑さに耐えるとは。
……どうして上は長袖なのに下は短いんだ。けしからん。
「それにしても便利だね、僕も練習すればできるようになるのかな」
持続時間がどのくらいかは知らないけど、これがあれば二学期開始直後のあの九月の暑さを乗り切るのが簡単になるだろう。
「できるようになると思います……」
「へぇ、じゃ今度教えてもらおうかな」
う~ん、夏休み中に習得できるかなぁ。
会得するのに冬までかかってたら、それこそ夏炉冬扇だよ。
「で、でも……私この術あんまり……得意じゃ、ない……」
得意じゃないって……十分な効き目だと思うんだけど。
「君たちにも得意不得意があるんだね」
「こういうのは、天后のくら……天奈と、玄武の位が上手だと思います……」
う~ん、確かにテンちゃんは涼しくするのとか得意そうだなぁ。
僕も場をクールダウンさせるのは得意なんだけど……。
「そういえば、アロの服って現代っぽくないけど……、周りの人とか不思議そうな顔で見たりしないねぇ」
アルテとかリュウは珍しいものでもみるような目で見られるのに。
なんか今日はむしろ僕のほうがじろじろ見られてるような。
「今は姿、消してるから……」
それって僕が一人でなんかブツブツ言ってるみたいに見えるってことだよね?
道理で町の人たちの視線が痛いわけだ……。って、おい!? これじゃ僕ただの痛い子じゃないか!?
そうこう話しているうちにもうすぐ街中だ
「さて、まず何を見に行こうか」
う~ん、アロのことはまだよくわからないからどこに行けばいいか見当もつかないなぁ。
それにこの辺りはあんまり一人で遊びに来ることはないから、僕も完全に地理を把握してなかったりする。
「ぁ……!」
僕がうろたえているとアロが突然驚嘆の声をあげた。
「あの……あれ……」
もじもじしながらアロが指さす先は……。
「あれって…………何?」
建物と建物の間にある小さな路地を指さすアロ。
残念だけど、僕には何があるか見えないんだけど。
「…………」
そのままトトトトトと走っていくアロ。
とにかく着いていこう。
「ぁ…………」
路地裏に入って、ほんの少し入ったところで僕にもアロが何を気にしていたのかわかった。
アロの目の前には……。
「ニィ……」
傷ついた子猫がいた。
車に轢かれたとか、人にいじめられた傷っていうよりは動物同士の争いでついた傷のようだ。
見るからに爪や牙のようなあとがあるし。
「と、とにかく大変だ。早く病院に連れて行かないと!」
このままじゃ絶対死ぬよ。
「あの、待ってください……。そ、の……応急処置を……」
応急措置? アロは包帯とか持ち歩いてるのか?
そう思ってみていると、アロは猫を抱くように持ち上げ
「癒合平癒の術です」
ポワっと光ったかと思うと、猫の傷はあらかた消えてしまったみたいだ。
「すごい……すごいよアロ。こんなことができたんだね」
完全とは言わないが、ある程度の傷は塞がっている。
このぐらいまで治っていればあとは自然治癒でもいけそうじゃないか。
「まぁそれでも一応病院には連れていかないとね」
というわけで、僕たちは来た道を引き返して病院のほうへと向かった。
「ん~、どういうわけだか、傷はほとんど塞がってるみたいなのだが……」
獣医さんにみせると案の定こう言われた。
「いきなり新陳代謝機能が爆発的に上昇して、傷口が急速に塞いでいったような、不思議なあとだ……。いったいどういう応急処置をしたんだ?」
新陳代謝って、あの汗がでるってやつだよね。
美容とか健康の番組でよく耳にするよ。
「えっと、この子猫は路地裏で倒れてたんだよね?」
さっき事情をあらかた説明したけど、もう一度聞かれる。
「はい」
「ふ~む……。多分この子は親猫に襲われたんだろうね」
親猫に襲われる……って
「親が自分の子供を血まみれにしたってことですか?」
「多分ね。恐らくこの子猫は、近所の子供たちに捕まって一緒に連れまわされたりしたのだろうな。そうやってヒトの匂いのついた子猫が親猫のもとに帰ると、親猫に殺されるっていうのが結構あるんだよ。子どもたちはそんなこと知らないからねぇ」
そんな、それじゃこの子は親に捨てられたってことなのか……。自分を産んでくれた親に……
「この子……可哀そうに」
頭を撫でてあげる。
「またやられちゃうといけないから、できれば立派な成猫になるまでどこかで飼ってあげてほしいんだけど……」
といって、僕と部屋の隅っこにひきこもっているアロを見て。
「乗り掛かった船だし、君たちこの子を飼ってあげたらどうだい?」
確かに乗り掛かった船だしね。
「うん、わかったよ。もう誰にも負けない最強の猫に育て上げますね」
「…………(この少年、頭大丈夫か?)」
獣医さんの無言の呆れた顔。何故だか僕はその視線を受けて悲しくなった。
「アロも大丈夫だよね?」
コクコクとうなずく。
「えっと、ちょっと待ってて」
といって、獣医さんは何やらペンを走らせ始めた。
しばらくして
「はい、これ」
といって渡された三枚くらいのルーズリーフ。
「この子の状態や子猫の詳しい飼い方、育て方について、まとめておいたから。また何か困った事があったらいつでもきて」
親切だ……。
さて、そうと決まれば必要なものを買いに行かなければいけない。
そして猫に必要なものが売っているのはペットショップであって、この町のペットショップといえば市街のほうに1つあるだけだ。
というわけで、またもや町中へと向かうことに。
いったりきたりだなぁこの辺の道。
「アロは、猫と一緒に家に帰っていてもいいんだよ?」
ていうか、子猫抱いたまま歩くっていうのもあれだしなぁ。
「あの、私が育てるから……私が選ばないと……」
これは何かを背負った顔だ。最近は僕も色々背負ってるからなぁ、リュウとかいう荷物を。
まぁとにもかくにもアロの決意はかなり固いようだし、仕方ないか。
そのままペットショップまで歩く事に。ちなみに猫はずっとおとなくアロの腕の中にいた。
店に入るとすぐに動物の匂いが鼻をついてきた。う~ん、獣臭だ。臭い!
「いらっしゃい」
気のよさそうなあんちゃんがレジから挨拶してくる。
僕は動物の事とかよくわからないから、やっぱりここはプロに何を買えばいいか尋ねるのが無難かな。
「すいません、聞きたい事があるんですけど……」
カウンターのほうに近寄って行き店員に声をかける。
「はい、どうしましたか?」
「アロ、猫を」
うしろを着いてきているアロに猫を見せるように促す。
「あ~、子猫だ。可愛いねぇ」
「はい、それで……うちで飼うことになったんですけど必要なものとかわからなくて」
エサですらどんな物を買えばいいかわからないしね。
「はい、一応これ。お医者さんにもらったメモ書きです」
確かこの子の詳しい状態とかも書いてあるんだよね。
「あー、はい……。えっと、なになに。恐らく生後一ヶ月半で、血液検査済み、ワクチンも接種させてくれたのか」
ワクチンいつ打ったの!?
「うん、これならエサは離乳食だね」
そう言いながら店員さんはカウンターから出て少し奥へと進んでいく。
「一応仔猫用のエサもあるけど、こっちのエサにお腹を壊さない程度に少しミルクを混ぜて食べさせても大丈夫ですよ。もうしばらくしたら、普通の成猫用のエサも食べられるようになるから」
といって、パックみたいなのと、缶詰みたいなのと、袋みたいなのを渡される。こんなに種類あるのか!
「あ、じゃそれ買います」
とりあえず、食べ物なら足りないより余るぐらいのほうがいいでしょ。缶詰ならすぐ腐ったりしないだろうし。
「あとはエサ用のお皿にトイレ、トイレの砂とシートとあとはおもちゃに……」
と、店員さんの説明を聞きながらいろいろと買った。
「本当はもっと色々必要だけど、それはまた追々って事でとにかく今すぐいるのはこれくらいですね」
……あのさ、おもちゃは正直まだいらないよね? 結局買っちゃったけどさ。
「ありがとうございます。困った事があったら、いつでも来てくださいね」




