4章 憤怒
魔王の圧倒的な一撃の前に叩き潰され、生死の境を彷徨った少年。
トドメを刺す価値すらないと捨て置かれた彼は、魔王軍の残虐な拷問官によって、地下深くの漆黒の拷問室へと引きずり込まれていた。
「ヒャハハハ! 生き残ったのが運の尽きだ、人間のガキが!」
四肢を重い鉄の鎖で壁に繋がれ、自由を奪われた少年。バチン! と激しい音を立てて、棘のついた鉄鞭が少年の肉体を容赦なく引き裂く。
「どうした! 泣き叫べ! 許しを乞え!」拷問官は、少年の指の骨を一本ずつペンチで叩き潰し、真っ赤に熱された鉄を肌へと押し当てた。
肉の焦げる嫌な臭いと、皮膚が焼ける凄惨な音が室内に充満する。常人であれば、最初の痛みで精神が崩壊し、死を懇願するほどの地獄。しかし、少年の赤眼から、光が消えることはついになかった。
(痛い……痛い、痛い、痛い、痛い……!)脳を焼き尽くすほどの激痛。
だが、彼が感じていたのは恐怖ではなかった。
心の大事な部分を落とした少年の胸の奥で、その痛みはすべて、世界への、不条理への、そして目の前の悪への、言語絶するほどの「怒り」へと変換されていく。なぜ、こんな目に遭わなければならない。なぜ、故郷の村は燃やされなければならなかった。なぜ、俺からすべてを奪った奴らが、こうして勝ち誇って笑っているのか。
「許さない……一匹残さず、、鏖殺だ、、、」少年の肉体から溢れ出た血が、床に落ちる前に空間で静止した。ドクン、と世界が不気味に脈打つ。
少年の怒りに呼応するように、拷問室の隅に廃棄されていた、怨念を吸いすぎて誰も扱えなくなっていた赤黒い大鉄塊が、激しく共鳴を始めた。
「な、何だこの不吉な気配は……!? おい、このガキの動きを止めろ!」拷問官が焦って剣を抜いた瞬間、少年は咆哮した。
「ああああああああああ!!!」
ガキィィィン!!!
砕かれたはずの腕の骨が、怒りの魔力によって強制的に繋ぎ合わされる。
少年は自身の肉体をちぎるような勢いで、壁の鎖を力任せに引きちぎった。それと同時に、赤黒い大鉄塊が少年の手へと吸い寄せられ、禍々しい炎を纏う大剣、、否、憤怒ノ剣がその手の中から現れた。
「ひっ、化け物め! 死ねえ!」拷問官たちが一斉に突き出した刃が、少年の胸や腹を深く貫いた。普通なら即死。しかし、憤怒ノ剣の真価はここからだった。
傷を負えば負うほど、痛みが身体を走れば走るほど、少年の身体から立ち上る魔力と破壊力が、乗算的に爆発していく。
「お前たちが与えた痛み、そのすべてを……何倍にして返してやる」少年は突き刺さった刃など一顧だにせず、具現化した憤怒の大剣を横一線に薙ぎ払った。
凄まじい赤黒い衝撃波が走り、拷問官たちは悲鳴を上げる暇すらなく、肉片一つ残さず消し飛んだ。それだけにとどまらず、跳ね上がった破壊力は地下拷問室の頑強な天井と壁を消し飛ばし、地上の魔王軍拠点ごと、周囲の空間を真っ二つに叩き割った。
崩れ落ちる瓦礫の中、少年は肩で息をしながら、赤黒く燃える大剣を見つめた。
手にあるのは「強欲」と「憤怒」、二振りの魔剣。「痛ければ痛いほど、俺は強くなれる……」ボロボロの肉体でありながら、少年の赤眼には歪んだ確信が宿っていた。こうして彼は、痛みを破壊へと昇華する狂戦士の力を手に入れ、魔王へ届くための「二歩目」を踏み出したのだった。




