3章 失敗
玉座に、それは座っていた。
巨体に、隆起している筋肉、醜悪な頭、敵が持ってほしくない三段パンケーキセット。しかし彼は関係なく走った。
敵を討てる、、そう油断した彼に降り注いだのは黒い毒々しい肉塊だった
世界が一瞬静寂に包まれた
気づけば、黒と赤のフードは、ボロボロに引き裂かれていた。
「はぁ、はぁ、はぁ……!」呼吸をするたびに、肺から灼熱の痛みがせり上がる。
何が起こったかわからなかった。
今わかっているのは巨体が目の前に立っていることだけだった
「終わりか、虫ケラ」遥か高みから少年を見下ろすのは、世界のすべてを恐怖で支配する魔王。魔王は剣すら抜いていない。
ただそこに佇んでいるだけで、大気が、空間が、少年の魂が、圧倒的な重圧で圧し潰されそうになっていた。
「まだだ……! お前だけは……お前ら魔王軍だけは、俺が絶対に……!」少年は血を吐きながら、無理やり身体を突き動かした。
「強欲ノ剣」を強く握り締め、地を蹴る。狙うは魔王の首一つ。ガキィィィン!!!渾身の力で振り下ろした一撃。しかし、魔王は動くことすらなく、ただ自身の周囲に展開した漆黒の魔力の障壁だけで、少年の刃を完璧に受け止めた。
それどころか、凄まじい衝撃波が少年の両腕の骨を容赦なく砕く。
「がはっ……!?」「斬れば回復する魔剣、か。面白い玩具だが、それだけだ。貴様には、余の障壁を破る『破壊力』が致命的に足りんな、本物の破壊力というものを見せてやろう」魔王が右に指を微かに動かした。次の瞬間少年の視界が暗転する。
ドオォォォォン!!!
言葉通りの理不尽な暴力。
魔王が放った一瞥に等しい魔力の奔流が、少年の肉体を容赦なく飲み込んだ。
肉体が消し飛ぶような激痛。自慢の「強欲ノ剣」は手からこぼれ落ち、少年は血の海の中に激しく叩きつけ
られた。
息ができない。身体が動かない。どれだけ魔剣が周囲の生命を吸おうとしても、受けているダメージが大きすぎて再生が追いつかないのだ。
「期待外れだ。英雄の紛い物め。貴様のような『持たざる弱者』の憎悪など、余の覇道の前には微風にも満たん」魔王は少年をトドメを刺す価値すらないと切り捨て、背を向けて去っていく。
遠ざかる魔王の背中を、少年はただ、血に染まった赤眼で見つめることしかできなかった。
圧倒的な敗北。英雄を憎み、悪を憎み、ただ力だけを求めた結句がこれか。
足りない。ただ生き延びるだけの魔剣一振りでは、あの絶望には届かない。
(もっとだ……もっと力を……! 支配を撥ね退ける傲慢が、全てを止める怠惰が、空間を消し飛ばす大罪が欲しい……!)薄れゆく意識の底で、彼の「強欲」は本当の意味で覚醒を始める。
この時の屈辱と、魔王への底知れぬ飢餓感こそが、後に彼をあらゆる加護と八振りの魔剣を従える大罪司教「強欲」へと至らせる、最強の原動力となるのだった。




