2章 GO!GO!魔王城!
彼は、滅んだ村の近所にそびえ立つ魔王城の前に立っていた。
背負うのは、故郷の村を焼き尽くした魔族への、狂気的なまでの憎悪。
手にあるのは、灰の中から見つけ出した、斬ることで己を癒す吸血の刃——【強欲ノ剣】。ただ一振り。
「全員……殺す」まだこのときの彼にあるのは、死をも恐れぬ復讐心だけだった。少年は地を蹴り、単身で魔王城の正面へと突入した。
城門を守る魔王軍の軍勢が一斉に襲いかかる。
空を埋め尽くす矢の雨、そして容赦なく放たれる火炎や雷撃の魔法。
少年は、その爆風を正面から浴び、肉体を激しく焦がした。「う、あああああ!」苦悶の声を上げながらも、少年は足を止めない。
肉体が焼かれ、血が吹き出すそばから、彼は【強欲ノ剣】を狂ったように振り回した。
ザシュ! ガキィン!魔族の肉体を切り裂くたび、魔剣が敵の生命力を吸い上げ、少年の傷を無理やり塞いでいく。斬っては癒え、進んでは焼かれ、また斬る。
それは「無敵」の進軍などではなかった。
ただ、魔剣の驚異的な回復力に命を預け、自分の肉体が消し飛ぶのが先か、敵を斬り殺すのが先かという、狂気の綱渡りだった。
「な、何なんだこのガキは……! 攻撃は当たっているはずなのに、なぜ死なない!?」怯む魔族たちを泥臭く屠り続け、少年は全身を自らと敵の返り血で真っ赤に染めながら、強引に城門を突破した。
「くそっ、、無駄な体力使っちまった、、まだ敵は山ほどいるってのに、、」
第一関門を乗り越えたあと少年は順調に戦っていた。
しかし城の内部に進むにつれ、魔王軍の防衛は苛烈さを増していく。
現れたのは、巨大な体躯を持つ上位悪魔の将軍たち。
彼らが放つ一撃は、周囲の兵卒とは次元が違った。
ドォォォン!!!
将軍の大斧が少年の脇腹を捉え、その身体を城壁へと叩きつける。「がはっ……!」骨が砕け、内臓が潰れる衝撃。これまでの戦いによる疲労と、累積したダメージで、少年の意識が遠のきかける。
『まだだ……まだ、死ねない……!』少年は這いつくばりながら、貪欲に魔剣の手を伸ばし、近づいた魔兵の足を切り裂いた。
ズウゥゥン、と魔剣を通じて流れ込む他者の生命力。
砕けた骨が、ミシミシと音を立てて強制的に繋ぎ合わされる。
激痛に顔を歪ませながら、少年は咆哮とともに立ち上がった。
「俺は……あいつらのところへ行くんだぁぁぁ!!」その凄まじい執念と、ゾンビのように立ち上がる異常性に恐怖したのか、将軍が一瞬身を引いた。その隙を逃さず、少年は魔剣をその喉元へと突き立て、全生命力を吸い尽くした。
数え切れないほどの傷を負い、それを「強欲ノ剣」で無理やり再生させ続け、ボロボロになりながらも、少年はついに最奥へと続く「玉座の間」の巨大な扉の前に辿り着いた。
衣服は引き裂かれ、黒と赤のフードは血で赤黒く染まり、息は絶え絶え。立っているのが奇跡のような状態だった。
魔剣が吸い上げる回復量よりも、肉体が受けるダメージのキャパが、すでに限界を超えようとしていた。それでも、彼の赤眼だけは、扉の向こうにいる「仇」に向けてギラギラと燃え盛っていた。「はぁ、はぁ……魔王……!」少年は震える手で、重厚な扉を押し開けた。その先に待っているのは、前述の「圧倒的な大敗」。一振りの魔剣しか持たない少年が、世界の絶対的な理不尽と出会い、本当の絶望を知るまでの、最後の前奏曲だった。




