8話 初戦闘
「ガァア! ガァア! グルアァァァア!」
早朝から、耳慣れない鳥の声に驚く。
現世で言えば、雀や鶏のような立ち位置なのだろうが、鳴き声が少々激しい。
ベッドから重い腰を上げ、外に出てみる。
そこには、例の鳥がいた。
「……雀か?」
見た目はほぼ雀なのだが、全長は1メートルくらいある。
しかも、恐竜並みの雄叫びを上げている。
「グルアァァァア!」
見た目と鳴き声のギャップが酷すぎる。
そんな光景に驚いていると、横から歩いてきた男に声をかけられた。
「おはよ。どうかしたか?」
ラグナが尋ねてくる。
髪が濡れている。
おそらく、ランニングと朝風呂を済ませたのだろう。
「いやいや、あの鳥だよ」
「あぁ、あれ? うるさいよな」
「いや、見た目とのギャップがなぁ」
「そうか? 俺はもう、そういうものっていう感じだな」
「かわいいのにもったいない」
「それより朝飯食おうぜ!」
「うん」
家の中に戻り、すでに用意されていた朝食を確認する。
どうやら今日も『わが家伝統料理ゆで卵混ぜごはん』を食べるらしい。
キッチンでラグナが作っているので軽く手伝い、配膳する。
そして、3人とも席についた。
「手を合わせて」
「「「いただきます」」」
口にご飯を運んでいると、ラグナが嬉しそうに話しかけてきた。
「楽しみだなぁ。ヘルコンドル!」
そういえば昨日、ラグナとヘルコンドルとやらを狩りに行く約束をしたな。
魔法を試せるのは楽しみだが、異世界の魔物と戦闘するのは少々不安だ。
「でも、空飛んでるからラグナは倒せないとか言ってなかった?」
「木を登ればいいんだよ!」
「流石、脳筋」
「ヒナタが撃ち落とした奴を狩るのもいいしな!」
「任せろ」
「気をつけて行くんじゃよ」
「ヒナタもいるし大丈夫!」
「あんまり期待すんなよ」
「…油断大敵じゃよ」
(その四字熟語のニュアンス、こっちにもあるんだ)
そんなことを考えながら食事を終えた。
「手を合わせて」
「「「ごちそうさまでした」」」
俺は食器をキッチンに持っていき、洗った後、部屋に戻って狩りに行く準備を始めた。
念のため、おにぎりとかも持っていこう。
あとは水筒と杖をカバンに詰めて、剣はどうしよう。
使ってみたいが、現時点では魔法の方が強い。
使い道があまりない。
(剣もいずれラグナから教わろう)
そう思っていた時、部屋のドアが勢いよく開かれた。
「行こうぜ!」
「ドアノックしてね。勢いにも気をつけて」
「すまん、すまん。とにかく、早く行こうぜ!」
「わかった、わかった」
俺はカバンを背負い、玄関まで歩いた。
そして、ドアを開ける。
「行ってきます!」
「行ってくるぞ!」
「何度も言うが、気をつけるんじゃよ」
「了解!」
「わかってます!」
元気よく返事をして、市場を抜けて森へ向かった。
「今日は東北方向にいく!」
森を歩きながらラグナが言った。
「街の入り口方向が北だから、入り口から見て右上か」
「ん? よく分からんが、そうだな!」
「方向も感覚なのかよ」
しばらく進むと、大きな草が生えていた。
(あれ、なんだろう)
持ってきていた図鑑を開く。
名称、モンステラ。
周りの生物を根で捕らえ、養分にする植物。
意識はなく、魔法は使わない。
検知範囲は10~30メートル。
夜、寝ぼけて捕まって食われる冒険者が多い。
(危ないけど、強くはないみたいだな)
「ラグナ、アイツで練習してもいいか?」
「もちろん、いいぞ」
「遠距離から火魔法撃つよ」
火魔法の射程は20メートルくらい。
射程を伸ばすには、さらに遠くへ飛ばすイメージが必要だ。
魔力を溜める。
連鎖的に魔力同士が引き合いながら集まるイメージ。
アセチレンもどきを生成し、杖から放出する。
ワイバーンの息のように、勢いよく放出するイメージ。
さらに射程を伸ばす。
そして――。
着火!
「ゴォォォォオオ!」
三十メートルほど先のモンステラに当たる。
燃えながら触手を振り回している。
「ヨシッ!」
魔法は、ちゃんと実戦でも使えるらしい。
「ナイス、ヒナタ! もっと燃やしてやれ」
「了解!」
アセチレンをそのまま放出し続ける。
「ボッ」
何故か炎が消えてしまった。
「あれ?」
なんでだろう。
工程は変えていないはずだ。
(……魔力が足りていない?)
いや、それだとは限らない。
燃料の量かもしれないし、着火の仕方かもしれない。
ただ、さっきは一度目の魔法でかなり魔力を使った。
(もしかして、周囲の魔力が減ってるのか?)
検証してみよう。
「ラグナ、ちょっと場所変えよう」
「いいぜ。いくらでも試せよ」
少し位置を変え、周囲の魔力を集める。
アセチレンを放出。
着火!
「ゴォォォォオオ!」
やはり、今度はしっかり燃えた。
(やっぱりか?)
魔力を集める魔法を使うと、周囲の魔力を消費する。
そのせいで、連続して大きな魔法を使うのが難しくなるのかもしれない。
(……もう少し試すか)
「もう一回やろう!」
「もう灰になってるぞ?」
モンステラの形状は見る影もなく、黒い塊になっている。
「……そうだな」
これ以上は実験にならない。
それに、森に長居するのもよくない。
「じゃあ、もう行くか!」
「おうっ」
その瞬間、俺は空を飛んだ。
……いや。
飛ばされた。
「痛っ!」
肩に爪が食い込んでいる。
「ヘルコンドルだ!」
ラグナが叫んだ。
どうやらヘルコンドルに掴まれ、そのまま攫われたらしい。
(どうする? どうすればいい?)
地面がどんどん遠ざかっていく。
この高さから飛び降りたら、無事では済まない。
「ヒナタ! そいつを燃やせ!」
「落ちるだろ!」
「俺がキャッチする! 大丈夫だ!」
(大丈夫なのか?)
疑っている暇はない、ラグナを信じよう。
いつもの火魔法を撃てば、自分も燃えてしまう。
(速度重視で、威力を削る)
魔力を軽く溜める。
アセチレンを出して、着火!
「パァン!」
炎を出したというより、アセチレンが一気に燃え広がった。
「アッツ!」
ヘルコンドルが燃え、俺を離した。
「……うおぉぉぉお!」
空中から一気に落下する。
ラグナがダッシュで俺の下まで駆けつけた。
だが、ただ走っただけでは間に合わない。
「うおおおお!」
ラグナは地面を強く蹴った。
人間とは思えないほどの距離を跳ぶ。
「ガシッ!」
ラグナが空中で俺を受け止めた。
「ぐっ……!」
そのまま2人で落下する。
「ドォン!」
ラグナが足から着地した。
衝撃で地面が少しへこむ。
「な? 大丈夫だろ?」
「脳筋的結果論やめてね」
「ありがとう」
「褒めてねぇよ」
「アイツはどうなった?」
俺達は上を見上げる。
どうやら大樹の枝分かれした部分に巣があるらしい。
黒く焦げたヘルコンドルもいるが、生きているようだ。
「来るぞ!」
ラグナの声と同時に、2体がこちらに滑空してきている。
「ラグナ、守って!」
「任せろ!」
ここは水鉄砲でいこう。
俺は杖を構え、スナイパーのように先端をヘルコンドルの翼へ合わせる。
(威力はいらない。落とせればいい)
水滴を大きくしながら、並行して運動エネルギーも溜めるイメージをする。
発射!
「グエェェェエ!」
小さな水の玉が、一体の羽根を貫いた。
ヘルコンドルが叫ぶ。
しかしふらつきながらも、こちらに向かってくる。
しかし、今俺がすべきなのは、もう一体の狙撃だ。
眼前に迫る、ふらついたヘルコンドルを無視して、魔法を準備する。
イメージを簡易化する。
水を装填。
エネルギーを溜める。
発射!
「グエェ!」
もう一体の胴体を水が貫いた。
だが、最初に狙撃した個体が俺を襲う。
「おらっ!」
ラグナが爪を防いだ。
しかし、剣が足で掴まれて動かせなくなる。
「オラァ!」
ラグナはそのまま頭突きを食らわせた。
「ラグナ、後ろ!」
さらに、もう一体も攻撃を仕掛けていた。
「ガシッ」
振り返ったラグナの肩に爪が喰い込む。
「痛ぇだろ!」
ラグナはヘルコンドルの顔面に拳を叩き込んだ。
「ゴッ!」
鈍い音と共に、ヘルコンドルは地面に落ちた。
「ナイス、ラグナ! 危なかったな」
「屁でもねぇよ、こんなやつ」
そう言うラグナの肩からは血が流れている。
額も少し切れている。
(いや、傷だらけだろ)
しかも、奴らは群れだ。
次は3体が滑空し、近づいてくる。
(掴まれて、そのまま空に連れて行かれるのが一番まずい)
空の上では攻撃もしづらい。
攻撃したとしても、落下する。
(3体をすぐに撃ち抜くのは不可能だ)
ならば、火魔法だ。
まとめてフライドチキンにしてやる。
「ラグナ、もう一回防げ!」
「余裕!」
こちらに向かって爪を向け、連続で突撃してくる。
俺を優先的に狙っているようだ。
(魔力を連続的に集める。急げ、集中だ)
「カァァン! カァァン! カァァン!」
ラグナが剣を強く振り、3体を連続で弾き飛ばす。
凄まじい剣撃だ。
(アセチレンを生成。急ぎつつ、具体的なイメージを)
「ラグナ、離れろ!」
(アセチレンの運動エネルギーを溜める)
「グワァァア!」
3体が目前に迫る。
(放出! 着火!)
「ゴォォォォオオ!」
「グェェエェ!」
炎に包まれながらも、一体がこちらに突撃してくる。
(まずい)
「おらっ!」
ラグナが、いつの間にか俺の前に来ていた。
「ザシュ!」
ラグナの剣がヘルコンドルを切り裂き、そのまま地面へ落ちた。
俺はすぐに追撃を警戒し、上を見上げる。
しかし、追ってこない。
「来ないな」
「残り2匹だからか?」
「全滅を避ける習性があるのかもな。凄いな」
「じゃあ何匹か持って、帰ろうぜ?」
「そうだな~」
俺は気の抜けた返事をして、座り込んだ。
やはり疲れる。
「今日はちょっと危なかったな」
「そうか? 俺は平気だぜ!」
「うるせぇ、俺が平気じゃねぇの」
「痛っ!」
最初の肩の傷が痛み始めた。
興奮して忘れていたようだ。
(早く帰って消毒しないと)
「早く帰ろう。別の魔物が襲ってくる可能性もあるだろ」
「それもそうだな」
そう言うと、ラグナはささっと狩った獲物を互いのカバンに詰めた。
「おい! そこの奴、こっちを向けぇ!」
凄まじい怒号に、弾かれたように振り返る。
「誰だ、おっさん。俺に何の用だ」
ラグナは振り返り、その男に堂々と問いかける。
男の視線が、俺からラグナへ移る。
そして――
その赤い瞳を見た瞬間、男の顔が歪んだ。




