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魔法は思考で使う。  作者: ひなぶり
一章

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9話 魔族との邂逅

「誰だ、おっさん。俺に何の用だ」


ラグナは振り返り、その男に堂々と問いかける。


そいつの視線が、俺からラグナへ移る。


そして――


その赤い瞳を見た瞬間、男の顔が歪んだ。


「お前! ルグリス族の死に損ないか! よくものうのうと生きているな!」


「ルグリス族? 何の話だ」


「とぼけるな! 10年前の過ちを忘れたのか!」


「10年前? 過ち? さっきから何のことを……」


「もういい! お前がそれを知っても関係のない話だ」


男は腰に掛けた鞘から、剣を抜く。


「今から死ぬからな!」


その叫びと共に、男は勢いよくラグナに斬りかかった。


「訳のわからねぇこと言いやがって!」


ラグナもすかさず応戦する。


「カァァン!」


互いの剣が衝突し、火花を散らす。


しかし力は拮抗していて、そのまま押し合いになる。


(まずい。戦闘になったら、既にボロボロのラグナが不利だ)


「お前、あの時の逃げ延びたジジイとガキだな。仲間を見捨てて逃亡したクズが!」


男はおそらく、エルハルトとラグナのことを罵ったのだろう。


「訳わかんねぇことでエルじぃをバカにするなぁぁああ!」


酷い侮蔑を感覚で知ったラグナは叫びを上げる。


それ同時に、握った剣が軋む。


踏み込んだ足が地面を削る。


そして、相手の剣を強く押し返した。


相手は一度、距離を取る。


「……流石、ルグリス族と言ったところか」


(ラグナの力が増した? ラグナは勝てるのか?)


(というか、アイツを殺してもいいのか?)


不確定要素が多い。


「ラグナ! 一度帰ろう!」


「でもアイツ、エルじぃをバカにしやがった!」


「街の衛兵とかに任せればいい! 一度帰ろう!」


「アイツが逃げるかもしれねぇだろ!」


「そんなこと言ってる場合じゃない! お前も、もうボロボロだろ! 生き残ることが優先だ!」


「でも!」


「仲間割れとは、ずいぶんと余裕だな!」


その瞬間、男の前に宙に出現させた石が出現した。


その石が矢のように空気を裂きながら、ラグナの方へ飛ぶ。


そに合わせて、同時に男も剣を構えて接近してくる。


(魔法を使いながら、剣で攻撃してくるのか!?)


ラグナは相手の剣を受け止める。


だが、その変わりに石が身体へ突き刺さる。


(ラグナはどうせ絶対に逃げない。しかも相手はかなりの手練れだ)


もう、やるしかない。


俺は杖を構えた。


(脚を狙う)


できるだけ早く、正確にイメージする。


水球を生成。


発射!


「ビシャッ!」


相手は宙に石を生成して防いだ。


打つ前に感づかれていたようだ。


だが、気が逸れたのか、ラグナに押し返される。


「うがぁぁああ!」


ラグナはもう正気を失っている。


そして、凄まじい力で男へ食らいついていく。


しかし、男はラグナの力をいなす。


そして、体勢の崩れたラグナを斬りつけた。


「ガシッ!」


ラグナが左手で男の剣の刃を握り、受け止めた。


そのまま体勢も持ち直す。


「クソッ、なんなんだお前らは!」


血が流れている。


それでも、ラグナは剣を離さない。


(火魔法で倒す)


いや、ラグナにも当たるし、俺には狙いをつける技術がない。


なら、今のうちに強い水魔法を準備する。


「うがぁぁあ!」


その時、ラグナが右手で斬りかかる。


だが、男は掴まれた剣を捨て、紙一重で躱した。


男はそのまま後ろに下がる。


ラグナは男の剣を投げ捨てて、雄叫びを上げる。


その凄まじい咆哮と共に男に向かって突撃する。


その時、男が宙に石を生成した。


「剣がなければ戦えないと思ったか」


一斉にラグナへ石が飛ぶ。


「ザクザクザクッ!」


ラグナの身体に複数の石が刺さる。


「うがぁぁああ!」


それでも、ラグナは止まらない。


(このままだと、ラグナが死んでしまう)


俺は1メートルほどの水球を作り、発射準備を終えていた。


「チッ」


男の舌打ちと共に、周りに土ぼこりが舞った。


(これも魔法か?)


視界が茶色に染まる、位置が分からない。


(土ぼこりを飛ばす。風だ)


できるだけ早く魔法を発動させないといけない。


なら、できるだけ簡単なイメージを。


自分の手の周りの空気を固定するイメージ。


そして手を振った。


土ぼこりが風に吹かれ晴れる。


開けた視界には負傷したラグナが真っ先に映った。


ラグナは相手を見失い、唸りを上げながら辺りを見回している。


次に、男の位置を直ぐに確認する。


男は少し離れたところに落ちた自分の剣を拾っていた。


(今の内なら)


「ラグナ! 帰るぞ!」


「うぅぅうう!」


ラグナは唸り声を上げている。


(唸ってる場合じゃねえんだよ!)


「パァン!」


俺はラグナの顔を全力でビンタした。


「痛って! 何すんだ!」


「帰るぞ! エルじぃは、お前が死んでも喜ばない!」


「……あぁ」


ラグナは少し考えた後、そう言った。


「エルじぃの話だしたら急に落ち着くじゃん」


ラグナが落ち着いたなら、後は逃げるだけだ。


しかし、当然あの男も追ってくるだろう。


なら……


「ラグナ、俺をおんぶして」


「はぁ?」


「いいから、俺を背負って全力で街に向かって走れ」


ラグナは俺を背負い、直ぐに走り出した。


それに反応して、男も俺達の方へ走り出す。


「逃がすか!」


男は追いながらも石を飛ばしてくる。


(早く防ぐ。風魔法だ)


手に空気を纏わせ、石を振り払った。


「大丈夫か?!」


ラグナが聞いてくる。


「致命傷のやつに言われたくない」


(なんで走れてるんだ、こいつ。身体の強化と根性だけで動いているのか?)


そんなことはどうでもいい、今は戦闘に集中しなければ。


(まずは足止めを優先する)


とにかく制御を考えず、魔力を使って水を生成する。


直径4メートル。


上出来だ。


そしてそれを、男の足元へ流す。


「ザパァン!」


男は水に足を取られ、立ち止まった。


(いまだ!)


俺は小さな水球を瞬時に生成した。


だが、すぐには撃たない。


運動エネルギーだけを溜めるイメージ。


「いい気になるなよ?!」


男はそう言って、石をもう一度放つ。


「ラグナ、ジャンプ!」


「ダァン!」


ラグナは軽く地面を蹴り、俺達は1メートル程度上に飛んだ。


石は1つも当たらない。


「ナイス」


この稼いだ少しの時間で、水球の威力を上げる。


大きさは無視でいい、威力を高め続ける。


そして足を狙って、


発射!


「パシィン!」


男は咄嗟に石を前に生成して、ガードしていた。


「痛ッッッ!」


だが、それを貫通して男に当たっていた。


男は左足から崩れ、跪いた。


「ヒナタ、街だ!」


ラグナの声を聞いて、前を向くと街が既に見えていた。


(あと100メートル程度)


俺は男の様子を見るために、再度後ろへ振り返る。


男はこちらを鋭く睨みつけていた。


「俺は必ず、お前らを根絶やしにする!」


そう捨て台詞を吐き、男はもう追ってはこなかった。


「うわっ」


街に着くと、走ってる最中に電源を切られたようにラグナが倒れた。


当然おぶられていた俺も同時に倒れる。


「大丈夫か、ラグナ!」


返事がない。


すぐに脈を確認する。


「ピクッ、ピクッ」


どうやら生きてはいるようで、ホッと胸をなで下ろす。


(出血が酷い。応急処置をしないと……)


だが、すれ違う街の人はラグナを気にかけるものの、助けてくれそうにない。


(どうしよう。頼れる人は……)


「あんたら、大丈夫かい?」


誰かが声をかけてきた。


その声に縋るように顔を向ける。


その声の主はこの間、魔石を買った店のおばさん店主だった。


(すぐに、状況説明)


「コイツ、出血がひどくて、石も何箇所も刺さってて、肩も爪で掴まれてます。なんとかできませんか?」


「できなくもないが、タダではちょっとねぇ」


「なにをすればいいですか!」


「……これからも店に来ておくれ」


そう言うと、店主のおばさんはラグナを治療し始めた。


「石を抜いてくれ」


「わかりました!」


ラグナに刺さった石を慎重に抜いた。


(抜いていいのか? 出血するから抜かないと聞いたことがあるが大丈夫か?)


しかしここは魔法世界。


おばさんはその傷に触れ、目をつむる。


流れ出る血の量が段々と減ってくる。


しばらく待っていると―


「さっ、これで死にはしないだろう」


一仕事終えたというように、額の汗を拭いながらおばさん店主は立ち上がった


「ありがとうございます!」


俺は頭が地面につきそうなぐらい頭を下げた。


「いいっていいって。それよりあんたら、エルハルトのとこの子だろ?」


「はい、そうですけど」


「なら後は、アイツが治してくれるよ。早く連れてってやんな」


「はい、ありがとうございました!」


お礼を告げると、ラグナを背負い、家へ向かう。


(いやぁ、ほんとに助かったなぁ。今度お礼にいかないとなぁ)


そんなことを考えて、歩いていると家に着いた。


「ゴン、ゴン、開けてください!」


両手が塞がっているので、頭突きでノックしてエルハルトを呼ぶ。


すると直ぐにドアが開いた。


「エルじぃ、ラグナが!」


その瞬間エルハルトの目の色が変わる。


「どうしたんじゃ、その傷! 早くこっちに!」


俺はラグナを、ラグナの部屋のベッドに運んだ。


エルじぃは心配そうに傷を抑えながら、治療を始めた。


「これで、とりあえずは安心じゃ」


それから30秒もせずにエルハルトが言った。


「ラグナのベットに運んでくれるか?」


「はい、わかりました」


俺はラグナを両手で持ち上げて、そのままベットまで運び、寝かした。


ラグナの身体を見ると、ほとんど傷は無くなっている。


(なんとか大丈夫か…)


一段落したので、一番気になっていたことを聞いてようと思う。


俺はラグナの部屋を出て、リビンクに座るエルハルトの元へ向かった。


そして、もう馴れ親しんだ向かいの席に座った。


普段ならこの隣にラグナも座っている。


(聞いていいのか?)


何か禁忌のようなものに触れる気配がある。


しかし同時に知らないままでいて、いいことでもないと感じていた。


俺は深く息を吐居てから、エルハルトの目をまっすぐと見据える。


そして、ゆっくりと言った。


「ルグリス族って、なんですか?」


男がラグナと、おそらくエルハルトに向かって言った言葉だ。


酷く憎しみが籠もっていた言葉でもある。


「どうしてそれを!」


エルじぃは勢いよく立ち上がり、声を上げた。


「森の中で、ルグリス族を憎んでいて、ラグナを殺そうとしてくる人に遭遇しました」


「それで、どうしたんじゃ!」


「その男はラグナと貴方を罵ってきたので、すぐに戦闘になりました。それで、なんとか怒り狂ってるラグナを説得して、逃げてきました」


「そうじゃったか……」


俺は淡々と簡潔に説明した。


言い終えて、自分の発言が合ってるかを確認する。


そして同時に、まだ聞かなければならないことがあることも確認できた。


「10年前、何があったんですか?」


エルハルトは額を右手で抑えながら、俯いた。


「……いずれ話そうと思っとったが、遅かったようじゃな」


エルハルトは額を右手で抑えながら俯いた。


「もう、話さねばなるまい」


エルじぃは静かにそう言った。


「ラグナの過去を」


「そして――」


エルじぃの目が、俺を捉える。


「お主が、この世界に来た理由を」

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