7.5話 夢
――ここ、どこだっけ。
なんだか、懐かしい気がする。
ここは……
そうだ。
塾に行った帰り道だった。
俺は問題集を解き続け、3時間後にようやく解放された。
(疲れたぁ)
部活に行って、そのまま塾に来たんだ。
ほとんど休んでいない。
(もう夜の9時か)
父親が帰っている時間だ。
母親が仕事で帰っていなければ、俺が夕飯を作って、風呂の準備もしないといけない。
慣れた夜道を歩き、家の前に着いた。
(憂鬱だなぁ)
そう思いながら、ドアを開ける。
「ただいま」
「遅い。何処行ってたんだ」
(知ってるだろ、)
「塾と部活」
「とにかく、早く飯をしてくれ」
「はい」
少々苛立ちつつも言うことは聞く。
父には厳しく育てられているし、育てられている身なのだからある程度その方針には従うべきだと思っている。
風呂の掃除を終え、湯船に自動でお湯を張りながら、夕飯の支度をする。
「ただいまぁ」
「おかえり」
「ご飯」
「まだできてない」
「はぁ? なにしてんの? 早くしてよね」
(てめぇがやれよ)
「はい」
やることを済ませ、風呂に入る頃には11時半を回っていた。
言われた通り頑張って。
貶されて。
何してるんだろう。
(しんどい)
風呂を上がると、部屋の電気は消えていた。
両親はもう寝たらしい。
明日も学校がある。
俺も早く寝ないと。
急いで歯を磨き、ベッドに寝転ぶ。
眠りにつこうとする。
(……1時半か)
時計を見る。
妙に目が冴えている。
(散歩でもするか)
最近、眠れないときによくする。
スマホを見て、さらに眠れなくなるよりはいいだろう。
家のドアを静かに開け、外に出る。
「あっ」
「おっ、ヒナタ!」
そこにいたのは、親友の「――」だった。
「なんでお前いるの?」
「なんか寝れなくて。ヒナタは?」
「俺も寝れなくて」
「ハハッ、同じだな。ちょっと一緒に歩こ?」
「いいけど、すぐ帰るぞ?」
「分かってるって」
しばらく、何処に向かうでもなく歩いた。
他愛もない話をする。
「それでそこでさ、でっかい三毛猫がいてさ」
「うん」
「何だったと思う?」
「三毛猫だろ」
「それが泥のついたビニール袋だったんだよね」
「目ぇ腐ってんのか?」
「そうかもしれない」
(家と違って楽しいなぁ)
「俺さ、最近ちょっと疲れててさ」
「うん」
「習い事とか多いし、家にいても休めないし」
「大変だな」
「でもさ、たまに漫画とかアニメ見たりして、楽しくて」
「いいな」
「そんな小さな楽しみのために生きてるんだけど」
「…ちょっと重いな」
「たまに、やっぱり耐えられなくなるんだよな」
「大丈夫か? いざとなったら俺が養うぞ?」
「茶化すなよ」
「割と本気」
「そう。なら、ありがとう」
「それで話の続きなんだけどさ」
「あぁ」
「耐えられなくなった時、お前が割と支えになってるんだよな」
「それならよかった。」
そう言いながら、「――」は俺の方をまっすぐと見つめる。
発言以外の他意は何も感じさせない純粋な目。
「……これからもよろしくな」
「もちろんだ」
そう言ってから、「――」の様子が変わった。
「だけど、お前には今、やるべきことがあるんじゃなかったか?」
何のことだ?
分からない。
でも、確かにそんな気がする。
景色がぼやけていく。
「俺は、お前を探し出す」
何を言っているんだ?
一体、何のことを――
俺は目を開けた。
少し見慣れた木製の天井が見え、部屋を朝日が照らしていた。
両腕を上に伸ばし、伸びをする。
(夢か?)
内容は覚えていない。
それでも――
(なんだか、しんどいのに……励まされる夢を見た気がする)




