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魔法は思考で使う。  作者: ひなぶり
一章

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7話 魔法実験


 実験は温泉の近くで行うことにしよう。


 鎮火が容易だし、人もいないからだ。


それに、この家自体は全て木でできている。


さらに、図書館もこの巨大樹の中にある。


引火した瞬間、取り返しのつかないことになるのは間違いないだろう。


異世界に来て数日で放火魔になるなんて論外だ。


(安全第一)


「ちょっと試したいことあるから風呂場行くね」


「あぁ、気をつけるんじゃよ」


「行ってきます」


そんなやり取りをして、ドアを開けた。


そして、巨大樹の縁の通路を家から見て左手方向に歩いていく。


しばらくして、湯気の立ち上るところについた。


「実験開始だな」


 それでは、まずは魔石から試してみよう。


 俺は買い物したときのことを思い出す。


 確か、魔石は魔力の結晶と書いてあった。


 魔力が魔法を構成するものなら、魔力が多いほど強力な魔法になるはずだ。


 ならば、魔力を蓄えた結晶を持っていれば、普段よりもイメージに近い魔法を使えるかもしれない。


 そんな期待を胸に、早速水をイメージしてみる。


(水滴が空中に出現し、だんだんと大きくなる……)


「……おおぉ」


 思っていたよりデカい。明らかにデカい。


 直径4メートルほどの水球が、宙に浮いていた。


 しかも、思わぬ効果まであった。


(しっかり意識していなくても、弾けない?)


 水球は崩れることなく、その場に浮かび続けている。


 大きさだけでも驚きなのに、維持まで容易になっているらしい。


(これは凄い)


 魔力が多いほど、イメージの再現が容易になる。


 だから、魔法の維持も容易になるのかもしれない。


 維持に余裕のある今なら、発射もできるかもしれない。


 狙いは、目の前の大木にしよう。


 (弾丸を放つようなイメージ…)


 さらに、水を圧縮してエネルギーを溜め込むようなイメージを重ねる。


 できるだけイメージを固めてから、放つ。


「ダァンッ!」


 水球が大木に激突し、轟音とともに弾けた。


 大量の水が周囲へ飛び散る。木々の隙間から差し込む光を受けて、小さな虹が浮かんだ。


 水が地面へ落ちていく中、俺は大木に目を向けていた。


 幹の中央が、大きく抉れている。


「……思ったより威力高いな」


 ただ水を飛ばしただけとは思えない威力だ。


(やはり魔石の効果だろうか)


 そう思い、手元の魔石に視線を向ける。


 サラサラ……。


 魔石は小さくなり、まるで米粒のようになっていた。


「……なるほど」


 魔石は魔力の結晶。


 だから、魔力を消費して使う魔法を使用することで魔石が小さくなった。


そう考えるのが妥当だろう。


 ここから言えるのは魔石のように魔力が集まったものが近くにあれば、それを利用して普段より強力な魔法を使える可能性があることだ。


(……待てよ?)


 その時、とある閃きが脳裏をよぎった。


(魔力が粒子なら、その粒子を集めることもできるんじゃないか?)


 早速試してみよう。


 周囲にある魔力という粒子を、こちらへ引き寄せる。


 それぞれの魔力に、周りの魔力を集めるようイメージを伝える。


 そして、それらの粒子が連鎖的に集まってくるイメージを作る。


 俺はしばらく目を閉じ、頭の中でそのイメージを反芻した。


(……できたか?)


 目には見えない。


 だから、本当に集まっているのかは分からない。


 ならば、魔法を使い、威力を比較しよう。


 水を生成し、大きくする。


 今回は直径3メートルほど。


「やっぱり魔石を使ったときより小さいな」


 だが、森で作ったときよりは明らかに大きい。


 魔力を集めること自体は、どうやらできているらしい。


 ならば、次だ。


 水球に運動エネルギーを溜めるイメージを重ねる。


 溜めて、溜めて、溜めて……。


「――放つ!」


「パァン!」


 水球が先ほどと同じ大木にぶつかり、水飛沫を散らす。


 さっきと同じ位置にあった窪みが、さらに深く抉れた。


 ただし、魔石を使ったときよりも少し威力が落ちているように見える。


「……やっぱり魔石があったほうが威力は高いか」


 それでも、十分な威力だ。


 これなら戦闘にも使えるし、遠距離から敵を攻撃することもできる。


 威力だけなら、かなりのものだ。


 ただし、問題もある。


 魔力を集め、水球を生成し、さらにエネルギーを溜める。


 全部合わせると、発動まで2分ほどかかってしまっている。


「実戦じゃ長すぎるな……」


 威力は強い。だが、遅い。


 懸念点はあるが、次の実験に移ろう。


 次は大樹で作った杖だ。


 効果を確認するため、もう一度水を生成する。


 今度は杖の先に水球が出現した。


 杖を動かす。


 すると、水球も杖の先に追従して動いた。


 しかも、さっきより維持するのが楽だ。


「なるほど」


 杖には、魔法の維持や操作を補助する効果があるらしい。


 これなら、戦闘中に動きながら魔法を溜められる。


 俺はさらに水球を大きくしていく。


 力を溜める。


 そして――放つ!


「パァン!」


 木に穴が凹んだが、先ほどより明らかに小さい。


「やっぱり魔力を集めたほうが威力は高いか」


 だが、発動までの時間は大幅に短くなった。


 3分から30秒。


 十分な進歩だ。


「これからは使い分けだな」


 威力が必要なら魔力を集める。


 速度が必要なら集めずに発動する。


 状況によって切り替えればいい。


 じゃあ次は火魔法だ。


 ラグナにマスターしてやると言った手前絶対に覚えたい。


 ワイバーンの火魔法、あれを再現する。


 まずは魔力を集める。


 周囲の魔力が互いに引き寄せ合い、こちらへ集まってくる。


 そんなイメージを作る。


 次に、燃焼に必要なものを生成する。


 昨日と同じように、燃える物質を作り出す。


 少し広げて、浮かせてから着火。


 ……つかない。


「んー……」


 着火のイメージが足りないのか?


 火そのものをイメージする。


 さらに、鉄が熱せられて赤く輝くようなイメージも加える。


 温度が上がっている気がした。


 それから少しすると――。


「……ついた」


 小さな炎が生まれた。


 どうやら、着火そのものにも明確なイメージが必要らしい。


 炎が消えないよう、燃える物質を少しずつ追加する。


 すると、炎は連鎖するように燃え続けた。


「これは維持が楽だな」


 もう少し大きくしてみよう。


 手のひらほどだった炎が、徐々に大きくなる。


 20センチ。


 30センチ。


 40センチ。


 そして50センチほどになったところで、膨張が止まった。


「今の俺じゃ、この辺が限界か」


 次は、これを飛ばす。


 ワイバーンは炎を吐き出していた。


 ならば、俺も同じようにすればいい。


 風を作り、前方へ吹き出すイメージ。


 さらに、ワイバーンが息を吸い込み、肺に空気を溜めているようなイメージを重ねる。


 そして――。


「放つ!」


「シュッ」


 火が消えた。


「……それもそうか」


 息を吹くと火が消えるのと同じだ。


 燃料になるものを吹き付けないといけない。


 もう一度、魔力を集める。


 燃える物質を生成する。


 温度を上げる。


 そして着火。


 ここまでは同じだ。


 だが、もっと燃えやすいものを使えばどうだろう。


 現世で知っている知識を思い出す。


 燃えやすい気体はいくつかある。


 それを魔法で再現できれば、今より強力な炎を作れるかもしれない。


 まずは、燃焼しやすい気体をイメージする。


 工業でも使われるアセチレンがよいだろう。


 原子の構造。


 分子の形。


 性質。


 頭の中で、それらをできるだけ具体的に組み立てる。


 そして、杖の先に生成する。


「……できた」


 目には見えない。


 だが、確かにそこに存在している感覚がある。


 それを前方へ放出する。


 ワイバーンの息を思い出しながら、一定の方向へ吹き出す。


 そして――着火。


「ゴォォォォオオ!」


「できた!」


 威力は上々。


 ワイバーン程度の威力はあるかもしれない。


「これは溜め技としてはかなり使えるな」


 ただし、まだ完成ではない。


 発射速度、威力のさらなる改善、炎の制御、操作。


 改善できるところはいくらでもある。


 もっと練習すれば、さらに強くできるだろう。


しかしとある疑問が浮上した。


(他の人も俺のように考えて火を出しているとは考えているのか?)


いや、そんな訳がない。


その理論なら原子すら理解していないワイバーンが火を放てるのはおかしいことになる。


なら、具体的な映像イメージがあれば、ガスの生成も必要ないのか?


 ……俺は、そもそも本当の「アセチレン」を生成しているのか?


 イメージで成り立つなら、俺は「アセチレン」ではなく、「アセチレンのような」ガスを生成しているだけの可能性もある。


 この世界で化学を当てはめて考えるのは、少し軽率だったかもしれない。


 ……そう考えていると。


「……ん?」


 空を見上げる。


 いつの間にか、日が傾いていた。


「もうこんな時間か」


「ぐぅ~」


 腹が今気づいたように音を鳴らす。


「……腹減った」


 暗くなる前に部屋に戻ろう。


 通路を進み、ドアを開けた。


 すると、料理をしているラグナが視界に入った。


 揚げ物をしているようだ。


「手伝えることある?」


「その鍋のご飯、皿によそっといて」


 ラグナの視線の先には鍋がある。


 鍋は弱めの火魔法と魔石によって熱せられていた。


 ……そういえば、魔石にも種類があるのだろうか。


 威力を上げるもの。


 持続させるもの。


 さっきの実験結果を考えると、そういう違いがあってもおかしくない。


 俺は器を取り出し、しゃもじに似た道具で米をよそう。


「他にすることは?」


「朝の卵をご飯にかけて」


 タンスのような冷蔵庫を開け、卵の入った容器を取り出す。


 その木製の容器を傾け、3人分のご飯に卵をかける。


「次にできることある?」


「もうできた!」


 完成した料理をお盆に並べる。


 卵かけご飯。


 何かの揚げ物。


 そして、何かの汁物。


「ラグナ、これ何?」


「ワイバーンの胸肉の唐揚げと、ワイバーンのふくらはぎの出汁だ!」


「ワイバーンって食えるんだな。というか、売ったんじゃなかったの?」


「売られる前にナイフで削いで盗っといた。結構うまいぞ!」


「ヴェインってやつから怒られても知らねぇぞ」


 ラグナがエルじぃをリビングに呼ぶ。


 三人が席につく。


「手を合わせて」


「「「いただきます」」」


 三人で食事の挨拶を済ませ、食事を始める。


 まずは卵かけご飯。


 (うん)


 朝と同じく美味だ。まずいわけがない。


 次に唐揚げを箸で掴み、口へ運ぶ。


「サクッ」


 いい食感だ。


 米粉で揚げているのだろうか。


 肉にはほどよく脂が乗っていて美味い。


 牛肉に近い味がする。


「美味い、美味い」


「だろ?」


「美味すぎる。米がすすむ」


 次はスープ。


「う~ん……美味い」


 鶏ガラのような味がする。


 言うなれば、豚汁ならぬワイバーン汁だ。


 部位によって、鶏やら牛やら色んな味がするのか?


 (不思議だな)


「そういえばヒナタ、ずっと魔法の練習してたな」


ラグナが口をモゴモゴさせながら話しかけてきた。


「だって楽しいんだもん。結構いろいろ覚えたよ」


「どんな魔法使えるようになったんだ?」


「高火力の火魔法と、水鉄砲かな」


「それでヒナタは、ワイバーンに勝てると思う?」


「…多分勝てるかな。溜めまくってぶっ放す」


「いいと思うけど、相手は早いぞ? 戦闘では溜める時間なんてないぞ」


「溜めなかったら、小さな水鉄砲を飛ばすくらいしかできないな…」


「ならさ…」


「俺が時間稼いで、その間に溜めて放てば、めっちゃ強いじゃん!」


「天才か?」


「それほどでもあるぜ」


「ヒナタ」


唐突にエルハルトが俺の名前を呼んだ。


「なんですか?」


「明日の夜部屋に来なさい。色々話すことがある。」


「…わかりました」


 何やら嫌な予感を胸に抱きながら食べ終えた。


 三人で手を合わせる。


「「「ごちそうさまでした」」」


 俺は食器を洗い、風呂の支度をする。


「ラグナはもう風呂入った?」


「まだ。一緒に入ろうぜ!」


「着替えとタオル、忘れんなよ?」


「あぶねぇ、あぶねぇ。ギリセーフ」


「相変わらずだな」


 俺達は風呂へ向かった。


 体を流した後、湯船へ飛び込む。


「「とうっ!」」


「「ザッバァァン!」」


 二人でタイミングを合わせて飛び込んでみた。


「あぁ、疲れたなぁ」


「ラグナって疲れることあるんだ」


「今日は街の周りを50周くらい走ってから、素振りと腕立て、腹筋してた」


「流石っす」


「ヒナタも魔法の練習したんだろ? 撃ってみてよ」


「あぁ、見てろよぉ」


 アセチレンを手の先から放出する。


 少し手から距離を開けて放出する。


 (火傷は嫌だ)


 そして、着火する。


「……あれ?」


「なんか弱いな、それ」


 あまり燃えない。


 どうやら、魔力を十分に集めていなかったらしい。


「やっぱり、魔力を集める工程は省かないほうが良さそうだな」


 もう一度、溜め直す。


 魔力を集める。


 アセチレンを生成する。


 そして放つ。


「ゴォォォォオオ!」


「すげぇ! ワイバーンより強ぇだろ、これ」


「イメージに3分かかるけどな」


「3分くらい稼ぐぜ!」


「任せた」


 ラグナは本当に頼りになる。


「次、どっか狩りに行く?」


「そうだな。魔法を試したい。ワイバーン以外なら行くよ」


「ワイバーンでも勝てるだろ」


「リスクなんて、無いほどいいだろ」


「スリルがねぇだろ!」


「戦闘狂がよ」


少し考えてから思い出すようにラグナが言った。


「…じゃあ、ヘルコンドルとかは?」


「強い?」


「いや、地上に降りてこないから俺が倒せないだけだな」


「じゃあ、そいつをやろう」


「了解! 明日、朝起こすからな」


「任せた」


「そろそろ上がって、明日の準備しよう」


「そうだな」


 そう言って俺は風呂を上がり、体を拭く。


 ついでにラグナの髪も拭いて、部屋へ戻った。


 明日の準備をしながら、ラグナと少し話す。


「おやすみ」


「おやすみ」


 寝る挨拶を交わした後、俺はベッドに寝転がる。


 今日も一日を振り返る。


 朝はヴェインからお金を受け取った。


 その後は、ほとんど魔法の練習。


 まだまだ改善の余地はある。


 だが、ひとまず戦える程度にはなっただろうか。


 ……そういえば。


 俺は、親友の名前だけをなぜ忘れているんだろう。


 そもそも、転移そのものの原因を考えてみよう。


 まず、この世界は魔法世界だ。


 そして魔法は、意識によって現実に干渉できる。


 ならば――。


 俺達を転移させたのも、誰かの意識によって引き起こされた可能性がある。


 そう考えるなら、俺達をこの世界へ呼びたい誰かがいるはずだ。


 では、一体誰が?


 何のために?


 そして、なぜ俺と親友だったんだ?


「……分からない」


 考えても答えは出ない。


 そんな疑問を抱えたまま、俺は眠りに落ちた。


――ここどこだっけ?

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